コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あれから1週間経った。
話しかけても、返事がやけに素っ気ない日が増えた。
笑ってるふりをしてても、あいつの目はどこか上の空で――
目が合うたびに逸らされるのが、だんだんと当たり前になってきてた。
たまたまリビングで隣に座れば、さりげなくクッションを挟まれる。
声をかけると、ひと言ふた言だけで切り上げられてしまう。
配信終わりの「おつかれ」さえ、最近は画面越しのほうがちゃんと届いてる気がした。
まるで、“なかったこと”にしようとしてるみたいだった。
あの夜、布団の中で震えながら言った「もう黙れ」まで――
なのに俺の中では、あの日からずっと時間が止まったままで。
……正直、しんどかった。
「……なぁ、やっぱ最近のお前、変だぞ。全然普通じゃない」
ソファの上、飲みかけのコーラを片手に、弐十がぼんやりと口にする。
「またその話かよ。変ってなんだよ、失礼だな、元からこうだろが」
反射でそう返しながら、キルシュトルテは冷蔵庫に向かうふりをして顔を背けた。視線を合わせるのが怖い。やばい、ドキドキしてるのバレてる。心臓、うるさい。
「前はもっと普通だったじゃん。やけに他所他所しかったり、避けるようになったし。」
「……は?避けてねーし。気のせいだろ」
声がうわずる。最悪。あーもう、ちげーよ、違うんだって……。
「俺、なんかした?」
「……してねぇよ。お前は、何にもしてねぇよ」
それが、いちばん、しんどいのに。
ぎし、とソファの軋む音。振り返ると、弐十が真顔でキルを見つめていた。やめてくれ、そんな目で見んな、揺れる、バレる。
「だったら、なんで目も合わせてくれないんだよ。なんか隠してんの?」
「っ、ねぇって言ってんだろ!」
怒鳴る声に自分でもびっくりした。手の中のビール缶がぐしゃっと歪む。弐十が目を見開く。その顔にまた罪悪感が刺さる。
……もう、無理だ。誤魔化せない。
「……なぁ、弐十」
しばらくの沈黙のあと、キルはゆっくり、苦しそうに声を絞り出す。
「お前に、今までみたいに接するの、もう無理だわ。…だって……」
唇を噛む。喉が焼ける。こんなこと、言いたくなかったのに。言うべきじゃなかったのに。
「お前のこと、好きなんだよ」
ほんの少しの間。
たったそれだけの時間が、永遠みたいに長かった。
「なぁ、キメェだろ!!? 軽蔑したろ!? わかってんだよ、俺だって!!……でも、もう隠せねぇくらい、どうしようもねぇんだよ」
絞り出すような、叫ぶような声だった。涙なんか、見せたくないのに、喉が震えて、目の奥が熱い。
言ってしまった。終わった。終わりだ。
——でも。
「……お前のことが、好きだ」
その言葉が、部屋の空気を震わせるように、やさしく、確かに響いた。