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「……お前のことが、好きだ」
どこか投げやりなその声は、掠れて、震えていた。
配信も終えて、照明を落としたリビングの空気が、やけに重たい。弐十は飲みかけのコーラを片手に、ソファに座っていたけれど、キルの言葉で動きが止まった。
「キメェだろ……なぁ、こんなの言われて、避けたくなっただろ!!」
叫ぶように続いたキルの声に、弐十がゆっくりと顔を上げた。
キルはリビングの入り口に立ち尽くしたまま、拳を握りしめていた。頬は赤く、目は潤んでいる。ふだんのキルシュトルテではなかった。
「引いたよな?そりゃそーだよ、俺が男のくせに、しかもお前みたいな……友達以上の存在でもねぇやつに、本気で惚れてるとか、頭どうかしてるもんな」
ぽろ、と涙がひとつ落ちた。
自分で気づいたのか、キルはすぐに目元を腕で拭った。
「俺さ、ずっと冗談っぽく『好きだ好きだ』って言ってたけど、……ほんとは、ずっとずっと、本気だった。気付いてた。でも、気付かないふりしてた。
だって、言ったら全部壊れるじゃん……お前が優しくしてくれる理由も、隣にいてくれる理由も、全部」
声が途切れて、キルは唇を噛んだ。
「でも、最近お前が俺の気持ちに“気づきかけてる”のが分かっちまって。……そしたら、もう止まんねぇんだよ。心臓が勝手に暴れて、喉の奥が熱くて、苦しくて……黙ってらんなくて」
弐十は、黙ってそれを聞いていた。
冷えていたコーラは、もうぬるくなっている。
目の前で震えるキルに、どう言葉をかければいいのか、わからなかった。
「なあ弐十、何も言わなくていいから――」
キルが息を吸い、目を閉じた。
「……このまま、笑って流してくれ。頼むから、……これ以上、俺を壊すなよ」
そのとき、弐十が立ち上がった。
そして、言葉もなくキルに歩み寄って、その体を――ぎゅう、と抱きしめた。
「はっ……な、なんで……?」
「お前さ、ほんっとバカだよな」
耳元で囁かれた声に、キルの全身がびくっとした。
「軽蔑なんてするわけない。
いつもトルテさんにロボットロボット言われてるけど、今のお前を見て、何も感じない人間なんて、この世にいねぇよ。て言うか、こっちが泣きそうになるだろ、あんなの……」
「……だって、俺、普段あんなんじゃねぇのに……お前の前じゃ、うまく笑えなくなって……言いたくねぇことまで言って、こんな……くそキメェことして……」
「うん、くそキメェな」
「うるせぇ」
「……でも、正直、嬉しいと思った。普通に。
お前がそんなふうに俺を想ってくれてたこと、俺……なんか、嬉しかったよ」
弐十の言葉に、キルは息を呑んだ。
「トルテさんのこと、俺も――たぶん、特別だって思ってた。ただ、それが“恋”なのかは、正直まだわかんない。
でも、お前を見てると胸がぎゅってなるのも、気づけば目で追ってるのも……全部、本当」
「……うそだ……」
「嘘じゃねぇよ。……嘘だったら、今、こうして抱きしめてないし」
抱きしめられたままのキルが、声を詰まらせてうつむいた。
弐十の肩に額を預ける。ぐず、っと鼻をすする音がして、少しだけ震えていた。
「……にと、ちゃん」
「ん?」
「……俺、もっかい言っていい?」
「いいよ。何度でも聞く」
「……お前のこと、好きだよ」
「……ありがと。
その気持ち…ちゃんと、受け取りました」
やわらかく撫でられる髪と、鼓動の重なり。
ぎこちなく始まった“これから”に、2人は少しずつ歩み寄っていく。
恋を知って、戸惑いながら、それでも――確かに、惹かれていた。