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「絵名、絵を描いてるの?」
「え、なんでその声色……」
見るとまふゆが満面の笑みでそこにいた。何故、不思議でしかない。
「何か、嫌なことでもあった?」
「え、どうして?」
「どうしてって……笑顔だし」
「笑顔だと、嫌なことがあったってことになるの?」
「普段しないことしてると、何かあったか心配になるでしょ!」
そう言うと、あはは、と笑うまふゆ。あ、なんか嫌かも。ていうか嫌。超嫌。
「ほらこの前絵名が笑顔を見たいって言ってたでしょ。だから」
「あーなるほどね、なるほど。じゃあ、ありがとう?」
確かに言った記憶があるが、私はその笑顔じゃなくて、もっと自然なやつなんだけど……。嫌って言ったら怒る?
「……ていうか、それってその声色までセットなの?」
「声色?」
「笑顔だと、そのいい子のまふゆが出てくるの?」
「うーん、わからないかな」
こてんと、首を傾げてとびきりの営業スマイルを見せてくれるまふゆ。ゼロとヒャクの振り幅が凄い。本当に別人だ。
「ほら、絵名。作業しなきゃ」
「話しかけたのはそっちなのに」
「私は見てるから」
「うーん……」
違和感しか感じない中、スケッチブックを持ち直し、絵を書こうとすると……。
ぷに、と。ほっぺたを突かれた感覚。
横を見ると、まふゆが何か企んでいるような笑顔で、人差し指を立てていた。
「絵名のほっぺたって、本当に柔らかいね」
「ありがとう、ございます?」
ふにふにと、何回も突いて遊ぶまふゆ。引っ張ったり、時には優しく、撫でたり。
「まふゆさ〜ん、作業できないで〜す」
「ん〜?」
「あの……」
「絵名の肌ってつるつるしてるね。ずっと触っていられるかも」
両手でぐいっと、顔を引き寄せられる。自然とまふゆが撫でやすい姿勢に。顔を見て、胸がチクリと焼けた。
「怒ってる?」
「怒ってないけど、どうして?」
「ずっと笑顔だから……」
「前、絵名が笑顔を見たいっていったんでしょ?」
だから、言ったけど、そうじゃなくて。
飽きもせず私の顔で遊ぶまふゆ。私の顔は触り心地がいいのかもしれない。ケアには自信がある。ってそうじゃない、受け身じゃダメだ。
「あのさ、確かに笑顔は見たかったけど、その笑顔じゃないから」
「……え?」
「だからいつもの顔に戻して。あのね、そもそも私は、まふゆが笑顔になるんじゃなくて、まふゆを笑顔にしたかったの」
「…………そっか」
すんと元の顔に戻る。あの顔は嫌いだけど、笑顔が見られる面で考えたら勿体ないのだろうか。
──あ、今のまふゆ、ちょっといい顔してる。
まあ、いいこと言ったな〜っていう自覚はあったんだよね。まふゆを笑顔にしたいの、なんて。喜んでくれるとは思わなかったけど、ちょっとだけ嬉しそうなのはこっちも見てて嬉しい、かな。
「それはそれとして、もう少し触ってていい?」
「え」
「ちょっと、好きかもしれない」
あれ、もしかしてこの表情って顔を、頬を触ってるから。
まさか、そんな、私の名言は私の頬の気持ちよさに負けてしまったのだろうか。いやいや、その行動、照れ隠しだったらいいのにな〜……なんて。
あーあ、まふゆって掴めないところしかないから、わからないんだよね。まあいいや、自分の都合のいいように捉えておこ。