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成人式の会場前は、朝からやけに賑やかだった。
振袖の色がそこかしこに溢れて、久しぶりに再会した同級生たちの声が重なっている。
その中で、自分が少し目立っていることは、嫌でも分かった。
背が高い。
スーツ姿。
それだけで、視線は集まる。
「背高くない?」
「モデルみたい」
そんな声が聞こえてくるけど、正直どうでもいい。
今日ここに来た理由は一つだけだった。
(🌸を驚かせる)
事前には何も言っていない。
会場のどこかで声をかけて、思いきり驚かせるつもりだった。
(どんな顔するかな)
目を丸くして、固まって、
それから遅れて笑ってくれるはず——
そう思いながら、人混みを見渡した、その時だった。
ふと、視界の端で動きが止まる。
淡い色の振袖。
人の流れの中でも、なぜか自然と目を引く姿。
髪は綺麗にまとめられていて、うなじがすっと見えている。
普段より少しだけ大人びた横顔。
(……あ)
考えるより先に、分かった。
🌸だ。
足が止まった。
周りの音が、急に遠くなる。
毎日見ているはずの彼女。
何度も一緒に笑って、隣を歩いてきたのに。
(……綺麗すぎるだろ)
喉が無意識に鳴った。
振袖の袖が揺れるたび、胸がざわつく。
知らない人みたいなのに、確かに俺の彼女で。
(こんなの、反則…)
驚かせるはずだったのは、俺の方だった。
ようやく近づいて、後ろから声をかける。
「🌸」
振り返った彼女が、俺を見た瞬間——
「……え?」
一拍置いて、目を見開く。
「てつろ…? なんで?」
その反応に、少しだけ満足して笑いそうになったのに、
すぐに胸がぎゅっと締め付けられた。
近くで見ると、なおさらだ。
振袖がよく似合っていて、
少し緊張したような表情も、全部綺麗で。
(やばい)
本当に言葉が出てこない。
「サプライズ。来ちゃった」
それだけ言うのが精一杯だった。
「……もう」
🌸は困ったように笑う。
その笑顔を見て、はっきり自覚する。
(俺、驚かせるつもりだったよな)
でも今は——
彼女の晴れ姿に、ただただ見惚れて。
心臓が落ち着かなくて。
成人式の喧騒の中で、
俺は一人、何度目か分からないくらい彼女にときめいていた。