試合のゴングが鳴り響いた直後、レオとソルは互いに真剣な目付きで睨み合うと、途端に距離を詰める。
まさに、二人の魔法が繰り出されようとした時、二人は突如大声で頭を掻きながら叫び始めた。
その姿に、他のパーティメンバーたちも動揺を露わにし、会場中も騒然とする。
「ど…どうしたんだ…?」
その瞬間、四人の影が会場内に降り立った。
生きた英雄、細長い剣を構えたシルフ・レイス。
生きた英雄、小さな老体からは想像も付かない巨大な岩の大剣を翻すバーン・ブラッド。
現国内最強パーティに属し、国王の右腕と謳われるヒノトの父、巨大な盾と巨大なナイフを構えたラス・グレイマン。
そして、貴族院代表、キラの父、試合で使われるサイバーソードを構えたクロス・ドラゴレオだった。
「ど、どうしてあの四人が…?」
そんな、全員が困惑を示す中、四人が臨戦態勢を取ると、KINGS、SHOWTIMEの両陣営パーティの一人から、黒いオーラが放出される。
「あ~あ、やっぱりバレバレじゃ~ん」
真っ白な髪に、黄金色の瞳を宿した姿に変貌したのは、KINGSのシールダー、シグマ・マスタング。
「ふふ、でも目的は果たせたのですから良いじゃないですか」
そしてもう一人、真っ白な髪に、緑青色の瞳を宿した姿に変貌したのは、SHOWTIMEのメイジ、ルルリア・ミスティアだった。
「あの二人…!! 魔族よ…!!」
その姿に、リリムは目を丸くして立ち上がる。
「魔族だって…!?」
騒然は、更なる困惑へと変わり、会場中は大混乱の声が飛び交う。
「あ~、魔族戦争に参加した人たちと戦う気はないんで…。どーせ負けちゃうから…」
そう言うと、黄金色の瞳を宿した魔族は、逃げるように空中へと飛び上がる。
「逃がさん」
ゴォッ!!
猛烈な速度で追い掛けたのは、巨大な岩の大剣を翻すバーン。
仕留める勢いで思い切り大剣を振るい上げる。
”岩蛇剣・陀”
ゴォン!!
大きな音を立て、バーンの大剣は魔族へと命中する。
「腑抜けた魔族も居たものだ。新入りか」
しかし、砂煙の中で、ニタニタと笑い声が響き渡る。
「んなワケないじゃ~ん! バ~カ!!」
魔族は、足に岩盤を形成し、バーンの高火力な一撃を易々と防いでいた。
「認識を改めよう…。貴様は必ずこの手で仕留める」
そんな攻防を見るやいなや、闘技場内の三人も動き出す。
「ラス殿、属性相性的に、水魔法の僕の剣術ではバーン殿の足を引っ張ってしまうかも知れません…。僕とドラゴレオ殿でもう一体を引き受けるので、バーン殿の援護に向かえますか…?」
「あぁ、それが良いだろうな」
そう言うと、ラスは一瞬でその場から居なくなり、
シュバッ!
気が付くと、ヒノトの目の前に現れた。
「父さん…?」
「ヒノト、母さんとの約束、覚えてるな?」
『どんな時でも、勇者なら笑ってみせるのよ』
その言葉に、家を出る前に母に言われた言葉を脳裏に巡らせる。
「笑う…?」
「あぁ、それで良い」
そう言うと、すぐさまバーンの下へと飛び立っていた。
ラスの居た足場には、氷の結晶が広がっていた。
そんな中で、ずっと叫び続けていた二人の声は止んでいた。
そして、全員は唖然と目を見開く。
「どうして…二人の髪から黒い毛が生えてきているんだ…?」
レオ、ソルの二人の髪からは、リゲルの時のように、中央から黒い髪が出てきており、グラムのように、真っ黒な眼光へと変貌していた。
ボン!!
「ちょっと…ヒノト…!?」
ヒノトは、咄嗟に会場内へと降り、レオの前に立ち塞がった。
慌てて、リリムも後を追い掛ける。
ゴォン!!
二人の変貌を幕切りに、観客席の下部にある医療区域からも爆発音が鳴り響く。
その音に、リオンはハッと思考を巡らせる。
「カナリア…!!」
そして、リオンとグラムは、医療区域へと向かった。
「レオ! おい! 大丈夫かよ!!」
しかし、レオからの反応は全く持って見られない。
そんな中で、変貌した姿の二人の上空に一人の影が現れる。
「コイツら、 “魔族化” してるんだろ…? ならさ…全力で闘っていいんだよね…!!」
そこには、満面の笑みでソルに襲い掛かる、SHOWTIMEのメンバー、ロス・アドミネが、ギンギンの魔力を身に宿して上空に飛び上がっていた。
「ちょっ…二人がまだどんな状況か…」
ドォン!!
しかし、言葉を言い切る前に、ロスの拳はソルへと直撃した。
「アハハッ!! 俺さぁ、ソルとは一度全力で戦ってみたかったんだ!!」
砂煙の中で、ソルは地面へと伏させられていた。
しかし、ゆっくり立ち上がると、戦いの相手を見定めたかのように、ソルは魔力を膨れ上がらせる。
「風の魔力に…闇の魔力を感じる…。なんだ…? 不思議な感覚だ…」
”風魔法・舞羽”
すると、以前は真っ白な羽が舞い散ったはずだが、真っ黒な羽がソルから放出された。
「あ? 攻撃魔法ですらなくなってるじゃん…。弱体化してんのか…?」
「ダメだ…! ロス…!!」
”岩防御魔法・断崖”
舐め腐った態度で構えるロスを、咄嗟に、SHOWTIMEのシールダー、グロス・ラドリエは、咄嗟にロスへ岩シールドを張った。
ガンガンガンガンガン!!
すると、大きな音を立てて、黒い羽はロスの岩シールドにぶつかった。
「は…? 風魔力が少ない…?」
「侮るな! ロスは確かに、我々のパーティで一番魔力感知が得意だが…今のは俺の得意分野…体術の気を感じた…」
「え…? 魔法なのに、体術…?」
しかし、そんな中でもロスはニタリと笑みを浮かべる。
「うっは…いいねぇ…楽しくなってきたじゃん…!!」
そんな中、レオの眼光も、ヒノトを捉えていた。
「レオ…」
”雷魔法・迅雷”
ゴォッ!!
”闇魔法・幻花”
レオの唐突な雷を帯びた剣に、リリムはヒノトを幻化させるが…
「どう…して…?」
ヒノトの腹には、バチバチと雷を帯びたレオの剣がズブリと刺さり、血を流した。
ズォン!!
ヒノトが口からも血を噴き出した瞬間、大きな影がレオを襲った。
「キラさん…!」
ヒノトを庇うように飛び出したのは、キラ・ドラゴレオだった。
しかし、突然の奇襲も、レオは咄嗟に防いでいた。
「おいおい…どうしちまったんだよ! 雷帝!!」
焦りを見せるキラに、レオは表情を変えずに、その大きな剣を防ぎ続ける。
「キラさん、そのまま…」
”草魔法・ショット”
ヒノトの背後から、今度はルークも加勢し、レオに草魔法を付着させた。
”雷狼剣・打破”
ルークの掛け声に合わせ、キラは剣の向きを変えると、刃のない向きでレオに剣を翻し、雷の連撃を放出させた。
ドォン!!
ルークとキラの起こす “激化” に、レオはモロに攻撃を喰らい、吹き飛ばされる。
その大きな物音と同時に、ヒノトも地面へと倒れた。
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