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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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夕陽が沈みかけて周囲が暗くなり始めた頃、十六番街の裏通りでは絶え間なく銃声が轟いていた。

シャーリィ達は逃走を続けているが、『血塗られた戦旗』の残党が相当数入り込んでおり表通りへと出られずにいた。

「困りましたね。これでは表通りへ向かえません」

物陰に隠れながら銃撃してくる敵を観察するシャーリィ。

「奴等屋根を飛び移りながら移動していやがるな。それに弾薬も豊富だ」

シャーリィの後ろに居るベルモンドが屋根を移動する敵を観察しながら呟く。

「連携が取れていますね、指揮官クラスが生き残っていたのでしょうか?」

「いや、抗争で目ぼしい奴は粗方死んだ筈だ」

「幹部のガイアが居る筈ですが」

「ああ、お嬢には知らせてなかったのか。ガイアなら死んだよ。何日か前水死体で発見されたんだ」

「その情報は知りませんよ?」

「死体が揚がったのは港湾エリアだ。下手に関与してるなんて疑われたら海狼の牙と揉めることになるからな。だからラメルの旦那も知らせて無いんだろ」

「仲良くお喋りとはいい気なものですね。楽しいですか?」

屋根の敵を掃射しながらカテリナが会話に加わる。

「楽しいですよ、シスター。私は安心感に包まれています」

「ふんっ、相変わらず小さな身体に似合わない大した度胸ですね。それで、どうしますか?」

「持久戦に持ち込みます。これだけの騒ぎですから、オータムリゾートが関与するのも時間の問題でしょう」

「つまり、時間を稼げれば俺達の勝ちなんだな?シャーリィ」

背後を見張っているルイスが声をかける。

「そうなります。エーリカ!」

「はいお嬢様!ここの家は無人です!裏口から入れます!」

「宜しい、持久戦ならば屋内です」

「火をつけられたらどうする?」

「二階から逃げます。さっ、行きますよ」

近くの家屋に裏口から侵入したシャーリィ達はそのまま二階へ上がる。

「これで狙えます」

「なにっ!?ぎゃっ!?」

二階に上がった直後カテリナが窓から掃射。向かい側の家屋の屋根に上がっていた敵二人を撃ち落とす。

「階段を塞いでください。私は脱出経路を探します」

「わかった!任せろシャーリィ!」

「あいよ。ルイ、手伝ってくれ」

近くにあった棚などの家具で階段を塞いでいく男性陣。

「シャーリィお嬢様、こちらから隣の家に飛び移れそうです」

エーリカが窓のひとつを指差す。

「有り難い。いざとなれば使いましょう。しかし、敵の弾薬が尽きませんね。残党だとしても、武器庫の大半はマナミアさん達が焼き払った筈ですが」

銃声は収まらず、常に少数ではあるが銃弾が撃ち込まれている。もちろんシャーリィ達も反撃して少なくない数を討ち果たしたが、まだ敵は多い。

「あの決戦で取り逃がした敵は二百を越えるからな。先日の襲撃でも生き残りが相当居たんだろうさ。その執念を別に向けりゃマシな生き方が出来るだろうに」

「そんな殊勝な考え方が出来るなら、表の世界で生きていますよ」

ベルモンドのぼやきにカテリナがマガジンを切り替えながら答える。

「シスター、残弾に余裕はありますか?」

「ありませんね。長いこと撃ち合える分は残っていません」

「ルイは?」

「邪魔なものが多すぎて、あんまり使えてない!だから弾には余裕があるぜ!」

ショットガンを持っているが、まだまだ有効活用出来ていないルイス。

ベルモンドは大剣、エーリカは剣。シャーリィは万能だが。

「魔法使えません。いや、いざとなれば使いますが、ここはオータムリゾートの縄張りです。私の魔法は威力が高いので、無意味な破壊を招いてしまいます」

「不便だなぁ、シャーリィ」

「仕方ありません。いずれは……」

シャーリィは少し離れた家屋の屋根に小さな光が点滅したのが見えた。次の瞬間。

「うぐっ!?」

「シスター!?」

「窓から離れろ!」

突如飛来した銃弾がカテリナの右腕を貫いたのだ。出鱈目ではない正確な射撃であり、直ぐにベルモンドがカテリナを窓から隠し、シャーリィとエーリカが駆け寄る。

「ぐぅっ……!腕の良い奴が居るみたいですねっ!」

カテリナは肘と手首の中間を正確に貫かれ、苦痛に表情を歪める。

「シスター!これを!」

エーリカは頭に巻いていた頭巾を脱いでカテリナの傷口に巻き付ける。

「シスター、痛みは?」

「今すぐ泣き出したいくらいに」

「それを言えるなら安心ですね」

軽口を叩き合う母子を見てベルモンドは苦笑いを浮かべる。

「早く帰ってロメオの奴に診て貰わねぇとなぁ。だがお嬢、これで悠長な事は出来なくなった」

「その通りです。シスター、立てますか?」

「問題ありません。銃は使えそうにありませんし」

「分かりました。皆さん、持久戦の方針を切り替え速やかに脱出します。家屋を伝いながら表通りを目指します」

「シャーリィお嬢様、行き止まりはどうされますか?限界があります」

「私が魔法でぶち抜きます」

「さっきの慎重なシャーリィは何処に行ったんだよ?」

あまりにあっさりと方針を切り替えたシャーリィに、ルイスも苦笑いとなる。

「母の危機なら形振りは構いません。お義姉様には直接お詫びをします。ベル、シスターを抱えてください。ルイ、エーリカは先導を。背後はお任せください」

「いけませんお嬢様!殿は私が!」

「時間がありません。異論は受け付けませんよ、エーリカ。さあ、行きますよ」

隣接している家屋の二階へそのまま飛び移り、メインストリート目指して突き進むシャーリィ一行。

「お嬢様!この先は行き止まりです!」

「ファイアーボール!」

エーリカが叫んだ瞬間火球が打ち出されてレンガの壁は轟音を轟かせて崩壊した。

「仕事早すぎるだろ!」

「細かいことは後で考えます。もう少しですよ」

シャーリィ達はメインストリートを目指して快進撃。残党達は道を使わぬ進撃を見て後手に回る。

だが、シャーリィ達は知らなかった。『ライデン社』北部工廠から『血塗られた戦旗』が奪った品物は戦車と榴弾砲だけでは無かった。

マーガレットも知らなかったが、実は北部工廠にはライデン会長がドワーフ達と試作した武器が他にも保管されていた。

それがM1903A4スプリングフィールドライフル、第一次世界大戦時から使われている精度の高いM1903の狙撃銃モデルである。

旧式ではあるが高い精度と信頼性からベトナム戦争まで使われた銃である。

ライデン会長が気紛れに試作し、そのまま北部工廠の片隅に放置していたものであり、記録もされていないからマーガレット達が知らないのも無理はない。

残念ながら『血塗られた戦旗』はこの狙撃銃を抗争で使うこと無く組織が壊滅したが、この狙撃銃はまだ倉庫に残されていた。偶然見つけたジェームズは自分の手下の中でも腕利きに持たせてた。

「金髪の女……だな?旦那」

「ああ、間違えるなよ」

メインストリートが良く見える塔の上でジェームズは狙撃手と共に待機。『血塗られた戦旗』の残党を煽り、その時を待っていた。

「アレだ!あの先はメインストリートだ!」

「待ってルイスさん!私が先に行く!」

そして路地裏からエーリカが飛び出した瞬間。

「金髪!」

「死ねやぁあっ!」

引き金が弾かれ、銃弾は一直線に飛来して。

「……えっ……?」

エーリカを貫いた。

「エーリカぁああっ!!」

夕陽が沈む十六番街にシャーリィの絶叫が響き渡る。

暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~

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