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1.おしまい
星野が台風で飛んでくるもの全てをぶった斬る。建物の残骸のみならず、コンクリートの欠片や車など、恐ろしい威力で吹っ飛んでくる。
「リヅ!カマキリ女とデンジが戦ってる間にイサナと逃げろ!!」
院瀬見が自身の後ろにいるリヅに叫んだ。
「えっ…でも─」「良いから行け!!」
リヅが驚いて身をすくめ、イサナの手を強く握る。
「今はとにかくここから離れろ!!巻き込まれて人員が足りなくなったら終わりだ!私もすぐ行く!!」
「はい!!イサナ、行くで」
リヅはイサナと手を繋いで裏路地から逃げていった。
ドチャア!!!
「!!」
院瀬見がその異常な音に振り返った途端、つい先程まで吹き荒れていた風が止んだ。見ると、台風の悪魔がドロドロになって死んでいる。
「あ”!?倒したのか!?」
いつの間に倒したのか。全く見ていなかった。
気づけばデンジとレゼの姿が消えていた。院瀬見はその2人を探しながら、残骸が残る道を走った。
結局、味方と敵の姿は見つかることなく、爆弾の悪魔人間との戦いは終焉を迎えた。
2.似た者同士
次の日、院瀬見ら3人は何事もなかったかのように出勤した。絆創膏だらけ、傷まみれのそれぞれの顔だけが、昨日の惨劇をハッキリと表している。
「昨日のアイツ…どこ行ったんだろうな…」
「…デンジさんもいないよね…?」
院瀬見とイサナが不思議そうに顔を見合わせる。
「ちゃんと倒せてたらええんやけどな。まぁ、デンジのことやし、心配せんでも大丈夫やろ」
リヅがあくびをしながら寄ってきた。寝ぼけているのか、なんと先程買ったコーラをシャカシャカと振っている。
「あ、バカ…」
プシュァァ!!
遅かった。リヅの顔はぼたぼたと垂れる泡塗れになっていた。
「ッハハざまみろ!!こないだレバーは肉じゃねぇとか言ってたバチだ!」
「なんでそんなんでバチ当たんねん!事実を言うとっただけやろ!!」
再び2人が喧嘩を始める。オロオロするイサナはとりあえずリヅの椅子にかけてあったタオルをリヅの顔面に押し付けて拭いた。
「…もうそんなことどうでもいいから…」
「どうでもええ!?何言うてんレバーが肉か肉やないかなんてメッチャ大事やん!」
イサナがため息をついた時だった。
「相変わらずくだらねぇ話してんな」
「!」
振り向いた先にいたのは─
「星野!!」
「敬語を使え厨二病女」
2課隊員・星野だった。彼女もまた、左頬に大きな絆創膏をし、右の二の腕には包帯が巻いている。
星野とはつい先日会ったばかりだ。その口の悪く荒っぽい性格が似ているためか、院瀬見と星野はお互いにバチバチしている。
院瀬見のこめかみにだんだんと青筋が立つ。みるみるうちに引き攣った顔になっていく。
「ッるせぇテメェだって厨二病だろうがこのカマキリ!!」
その一言で星野にもスイッチが入った。
「んだとこの眼帯カメムシ!!」
「私はカメムシじゃねぇ!!」
「いーやカメムシだ!どう見てもカメムシだ!!」
普段は冷静沈着な星野も、院瀬見が絡むと途端に感情が爆発するらしい。この2人の仲を取り持つことなど100万年かかっても無理だろう。
「なんか…クソくだらん喧嘩しとるな…」
「…ハナちゃんのレバーの話もこのくらいだよ」
「えっ」
リヅはいかにも心外というような顔をして、前を素通りしていくイサナを見つめた。
3.敵と言う名の味方
イサナが自販機のオレンジジュースをピッと押す。ガタンと音を立てて出てきたのは味噌汁だった。
「…」
イサナは何も言わず、味噌汁を持って自席に戻った。
「─つか、なんでテメェがずっとここにいんだよ」
院瀬見は相変わらず星野と口論をしていた。見て見ぬふりをして味噌汁の缶を開ける。
「普通に考えて分かんねぇのかよ。テメェの脳ミソ存在意義ねぇだろ」
「…」
無言で殴りかかろうとする院瀬見を必死に押さえるリヅ。院瀬見の背中側から精一杯羽交い締めしている。星野は心底うんざりしたような顔になった。
「2課隊員が私以外全滅しといてどうするってんだよ。今日から私も4課なんだよ」
「……」
院瀬見とリヅの目が点になる。
「「はァァァ!?!?」」
とんでもない大声に驚き、イサナは味噌汁を吸い込んでゲホゲホと噎せた。
「うーわよりによってコイツと同じ課とか最悪かよ死んだ方がマシだわ!!」
「よ…4課に…異動…」
院瀬見は頭をぶんぶん振り、リヅは口を押さえて青ざめる。そんな2人を星はついに無視してほったらかした。
そして。
「なぁ」
「?」
星野はそのままイサナの耳元に顔を近づけた。
「これ」
「! これって…」
星野から渡されたのはハンカチだった。以前、星野に釘を刺されて使い物にならなくなったハンカチと全く同じ物─
「悪かったな。あのカメムシのせいでイラついてたんだ。こんなんでチャラになるなんてことは思ってねぇけど…一応」
そう言って、星野はイサナに背を向けて去っていった。
イサナの、星野に対する気持ちが、少しだけ変わった気がした。
レゼ編 終