◆風磨 side
玄関の鍵が回る音がした瞬間、胸の奥がざらつく。
“泊まってく? 明日早いんでしょ?”
軽く言ったのは俺なのに、来たら来たで落ち着かない。
「お邪魔しまーす!」
元貴は、いつもみたいに丁寧に靴をそろえて上がる。
あいつのこういうとこ、妙に隙がなくて逆に油断させる。
ソファに座らせて、適当にお茶置いて、
俺はキッチンの影から様子を盗み見る。
元貴はリビングをゆっくり見渡して、
俺が換気扇まわしたかどうかみたいな細かいとこまで目がいくタイプ。
観察が癖なんだよ、音楽やってるからか。
「なんか…思ったより綺麗なんだね」
「よく言われる」
「へぇ」
その“へぇ”が、なんか気に入らない。
お前、誰の家でもそうやって興味深そうに見るわけ?
俺にだけじゃねぇの?
――収録のときみたいにさ。
他のゲストの話にもちゃんと笑って、
ああいう“優しい顔”するの、耐えれない。
こいつは悪気ない。
ないから余計タチ悪い。
「布団敷いとくわ」
「いいよいいよ!手伝う!」
「いいよ元貴はゆっくりしてて笑」
「そうなの?ありがとう風磨くん」
ふっと笑う。
その笑い方が、誰かが撮影現場で褒めてたやつと同じで、
胸の奥にカッと熱が走る。
わざとか? 本能か? どっちでもいい。
俺の前だけでやれよ。
寝る前、元貴がスマホを充電器に刺して、
俺のベッドの端に腰を下ろす。
本来泊まり部屋は客間だけど、
「寒くない?」って聞いたらこっちに来た。
来たら来たで距離が近い。
「風磨くんって、意外と気遣いすごいよね」
「“意外”いらねー笑」
「ふふ、ね。でも、ありがと」
その“ありがと”を誰にでも言うのかどうか。
聞きたくても聞けない。
台無しにしそうで。
このまま黙ると変な空気が流れるから、
何気ない声色で落とす。
「……誰の前でもそんな顔してんの?」
言った瞬間、気づく。
“隠す気ゼロじゃん、俺”。
元貴は少しだけ驚いて俺を見る。
でも、はぐらかすでもなく、否定でもなく、
ただ俺の方をちゃんと見て答えようとしてた。
そういうの、ずるすぎんだよ
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