テラーノベル
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遊園地のお化け屋敷の前。角名倫太郎は、いつもの気だるげな雰囲気で看板を見上げていた。
「……思ったより本格的。
🌸、ほんとに入るん?」
ゆっくりした関西弁混じりでぼそっと呟く。
怖いのか、面倒なのか。
どちらにしてもテンションは低め。
「大丈夫だよ、りんちゃん。怖くないって」
🌸が笑うと、
「そう言うやつが一番びびるよな……。
まぁ、ついて行くけど」
と、スマホを胸ポケットに仕舞って歩き出した。
しかし、中に入って数歩。
──カタン……
暗闇に響く小さな音。
角名の足が“カチッ”と止まった。
「……え、今の……なに? 」
目だけ大きくなっている。
普段ほぼ無表情の彼の珍しい反応に、🌸は思わず吹き出しそうになる。
「りんちゃん、怖い?」
「いや。……まぁ、ちょっとは。油断した」
冷静を装いながらも、
指先が自然と🌸の服の端をつまんでいた。
次の瞬間、
通路の奥で白い影がぬっと動く。
「……っ、近い近い近い」
声が若干早口になっている。
レアすぎる。
「りんちゃん、後ろ来たら?」
🌸が言うと、
「……後ろ行く。お前が見えないの嫌だし」
あっさり彼女の背に隠れた。
普段は落ち着いているのに、
怖いとすぐ正直になるのが角名らしい。
暗闇の中を歩きながら、
りんちゃんはぽつり。
「……🌸、なんで平気なの?
俺よりデカいやつ後ろにいるのに」
「だって、りんちゃんがかわいくて」
「は?」
一瞬、角名の動きが停止する。
「かわいいって……俺だよ?
お化けよりそっちが怖いわ」
ぼそっと呟きながら、
しかし耳の先がほんのり赤い。
出口の光が見えると、
彼はそっと🌸の背中から離れ、
スタスタと歩幅を戻した。
外に出た瞬間——
「……ふぅ。
あー……マジで疲れた。精神的に」
めずらしく大きく息を吐く。
「りんちゃん、怖かった?」
🌸が聞くと、
「怖かった言うたら、……俺の株下がるじゃん。
けど、まぁ……ちょっと。……ちょっとだけね」
認めるまでがすごく長いタイプ。
そして不意に、
彼はスマホを取り出してパシャッ。
「撮ったよ。
お化け屋敷出た直後の🌸。
……めっちゃ可愛い顔してた」
「えっ、なんで撮るの!?」
「何でって……記録用。
俺の癒し。ほっといて」
軽く笑う口元は、
いつも以上に緩んでいた。
「……次は、お前の怖がってるとこ撮りたいけど……
今日の感じやと、俺の方が怖がるかも」
そう言いながら、
そっと彼女の頭に手を置く。
「ついてきてくれてありがとう。
……ほんと、隣で助かったわ」
りんちゃんの声は低くて、柔らかい。
その穏やかさが心にじんわり染みた。
そして最後に、
いつもの調子でひと言。
「帰ったら、その……
今日のこと、覚悟して?」
悪ノリ半分、愛情半分。
角名倫太郎らしい、落ち着いた笑みだった。
コメント
1件
怖がる角名とか最高かよ