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📖 第十三章:「夕焼けの余白」
廊下に出た瞬間、空気が変わった。
教室の中よりも少し冷たい風が、二人の間をすり抜ける。
夕焼けはまだ濃く、窓ガラスに反射して、世界全体がオレンジ色に染まっていた。
冴は何も言わずに歩き出す。
その背中は、迷いがなくて、まっすぐで——どこか強引で。
○○は、一瞬だけ立ち止まったあと、静かにその後ろを追った。
靴音が、規則正しく廊下に響く。
その音だけが、妙に大きく感じられた。
外に出ると、空はさらに広くて、夕焼けがゆっくりと夜に溶けていく途中だった。
グラウンドの向こうで、部活の声が遠くに聞こえる。
冴:「……どっか寄るか。」
唐突な一言。
○○は一瞬、意味を理解できずに目を瞬かせた。
○○:「……は?」
冴は振り返らず、ポケットに手を入れたまま続ける。
冴:「このまま帰るの、つまんねぇだろ。」
その言い方は、いつも通りぶっきらぼうで。
でもどこか、自然に誘っているような響きがあった。
○○の心臓が、また少し速くなる。
○○:「……別に、帰ってもいいけど。」
わざとそっけなく言う。
でも——
足は止まらなかった。
冴は小さく息を吐いて、少しだけ歩く速度を落とす。
冴:「じゃあ帰れば。」
淡々とした声。
けれど、完全に突き放すわけでもなくて。
まるで、試されているような感覚。
○○は眉をわずかに寄せる。
○○:「……行く。」
小さく、でもはっきりと呟いた。
冴はそれに対して何も言わなかった。
ただ、ほんの少しだけ口元が緩んだ気がした。
――気のせいかもしれないけど。
*
二人が向かったのは、学校から少し離れた小さな公園だった。
人はほとんどいない。
古いベンチと、自動販売機。
夕焼けに照らされた遊具が、長い影を落としている。
冴は何も言わず、自販機の前で止まる。
冴:「何飲む。」
○○:「……なんでもいい。」
冴:「じゃあ適当に選ぶぞ。」
ボタンを押す音。
ガコン、と缶が落ちる音が静かに響く。
冴はそれを拾い、○○に軽く投げた。
○○は慌てて受け取る。
○○:「……ありがと。」
視線を合わせないまま、そう呟く。
缶の冷たさが、手のひらにじんわりと広がる。
二人は並んでベンチに座った。
少しだけ距離がある。
でも——教室より近い気がした。
沈黙。
遠くで風が木を揺らす音。
缶を開ける小さな音。
○○は一口飲むが、味なんてほとんどわからない。
意識は全部、隣にいる存在に向いていた。
冴:「……静かだな。」
ぽつりと呟く。
○○:「……あんたが喋らないからでしょ。」
少しだけ棘を混ぜて返す。
冴は軽く肩をすくめる。
冴:「無理に喋る必要ないだろ。」
その言葉に、○○は少しだけ言葉を失う。
確かにそうだ。
でも——
何もないこの時間が、妙に落ち着かなく
て、でも嫌じゃなくて。
○○は視線を前に向けたまま、小さく息を吐く。
○○:「……なんで、ここ来たの。」
冴はすぐには答えなかった。
少しだけ空を見上げてから、ゆっくり口を開く。
冴:「……教室だと、落ち着かねぇから。」
短い答え。
でも、それだけじゃない気がした。
○○は横目で冴を見る。
夕焼けの光が、彼の横顔を照らしていた。
影が濃くて、表情が少し読めない。
冴:「……お前も、ああいう場所苦手だろ。」
その一言に、○○の心臓が止まりかける。
図星だった。
○○:「……別に。」
いつものように否定する。
でも声は少しだけ弱かった。
冴はそれ以上追及しない。
ただ、静かに缶を傾ける。
その距離感が、逆に優しく感じてしまう。
沈黙が戻る。
でも今度は——少しだけ、心地いい。
風が吹く。
○○の髪がふわりと揺れて、冴の肩にかすかに触れた。
その瞬間、○○の呼吸が止まる。
慌てて少し離れようとするが——
冴が、ふと手を伸ばした。
○○:「……え?」
驚いて振り向く。
冴の指が、○○の髪に触れる。
ほんの一瞬。
軽く整えるように、耳の後ろに流すだけ。
冴:「……さっきから、邪魔そうだった。」
低く、落ち着いた声。
まるで、それが当たり前みたいに。
○ ○の顔が、一気に熱くなる。
○○:「……っ、別に……!」
思わず強く否定するが、声が少し震える。
心臓がうるさい。
さっきよりも、ずっと。
冴は何事もなかったように手を引く。
冴:「暴れんな。危ねぇだろ。」
その言い方すら、どこか自然で。
○○はもう、どう反応していいかわからない。
視線を逸らして、缶を強く握る。
――なんでこんなに、近いの。
――なんでこんなに、普通なの。
冴:「……そろそろ暗くなるな。」
ぽつりと呟く。
空はもう、オレンジから紫へと変わり始めていた。
○○は小さく頷く。
でも——
立ち上がりたくなかった。
この時間が終わるのが、少しだけ惜しいと思ってしまったから。
冴は立ち上がる。
そのまま、少しだけ振り返る。
冴:「……帰るぞ。」
短い言葉。
でも今度は——
どこか、待っているような響きがあった。
○○は一瞬だけ迷ってから、立ち上がる。
そして、隣に並ぶ。
帰り道。
街灯が一つずつ灯り始める。
二人の影が、さっきよりも近く重なる。
会話は少ない。
でも——
さっきよりも、距離は確実に縮まっていた。
○○はふと、心の中で思う。
――知らないうちに、近づいてる。
――でも、それが怖いわけじゃない。
むしろ——
もう少し、このままでいたいと思ってしまう。
隣を歩く冴の横顔を、そっと盗み見る。
冴は気付いていない。
でも、その存在は確かに——
○○の心を、少しずつ変えていた。
END
告白どっちにさせよーかな…? ))
コメント
1件
ああああああああッッ天才!!!!