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「亮祐常務、コーヒーお持ちしました。いかがですか?」


秘書課の女性がそう言って常務室に入ってくる。


朝からずっとこの調子だ。


代わる代わるに誰かしら女性社員がやってくる。


皆一様に媚びを含んだ上目遣いで俺を見つめ、さながら獲物を狙うハンターのようにしか思えない。



「ありがとう。でもそういうことは自分でするので、今後気を使わないで大丈夫ですよ」


ウンザリした気持ちを隠し、やんわりと拒絶しながら釘を刺す。


これで出社初日だと思うと、この先が思いやられて気分が重くなるのは仕方ないことではないだろうか。


新しいところに行くとまず受ける洗礼みたいなもんだから慣れてはいるが、早くある程度落ち着くのを祈るばかりである。



出社初日の今日は、専務である叔父と一緒にオフィスに出勤し、秘書課の面々に紹介してもらった後、役員関連の諸々の説明を受けた。


その後、デスク周りの備品を届けてくれた総務部の女性に、ついでにフロア説明を頼み案内してもらった。


総務部の女性に頼んだのは、秘書課の面々と比べて媚びがなく、単純に好奇心の目で俺を見ていたからだ。


午後からは部長以上の幹部メンバーが集まる会議に参加する。


様々な部署の幹部の面々と顔を合わせ挨拶をした。


人の顔と名前を覚えるのが早い俺は、この会議で主要人物は押さえられたと思う。


幹部の会議が終わり、会議室を出ようとするとある女性の幹部社員に声をかけられた。


彼女は確か広報部の部長だったはずだ。


パンツスーツを着こなしている彼女は、全く媚びがない真摯な目で俺を見て口を開く。


「広報部部長の安西です。亮祐常務、この後少しだけお時間いただけませんか?広報部は役員の方々とやりとりさせて頂く機会が多いので、もし差し支えなければ部のメンバーを連れてご挨拶に伺えればと思っておりまして。広報部のメンバーは外出してることも多いのですが、ちょうど今日は全員がオフィスにいるんです」


安西部長の申し出は非常に納得するものだった。


確かに今後広報部とは連絡を取り合うことも多いだろう。


顔を合わせておけばスムーズだ。


「そうですね、分かりました。この後、僕は特に決まったアポイントもありませんので問題ありません」


「良かったです!では、すぐメンバーを連れてこの後常務室に伺いますね」


「お待ちしています」


急いで会議室を出て行く安西部長を見送り、自分も役員フロアの自室へ向かう。


途中、秘書課に寄り、広報部が訪ねてくる旨を伝言した。


自室に戻り、しばらくパソコンでメールチェックをしていると、ほどなくしてドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ」と返答すると、安西部長を筆頭として、数人の社員が部屋の中に入って来た。


パソコンから目を離し、自分も立ち上がる。


「失礼いたします。お疲れ様です、亮祐常務。広報部部長の安西です。広報部のメンバーを連れてまいりました」


広報部のメンバーは、安西部長を含めて8人だった。


女性が多く、男性は2名だけだ。


会社の顔として社外対応をする機会も多い仕事柄のせいか、全体的にみんな身だしなみが整っている。



「広報部は取材の対応などで役員の皆様とやりとりさせて頂く機会も多いと思いますので、ご挨拶させて頂けますでしょうか。こちらが広報部に在籍している全メンバーです」


メンバーの前に立っていた安西部長はそう言うと、みんなを紹介するように、俺が見やすいようメンバーの横に並んだ。


改めて残り7人の社員を見ると、1人の女性社員と目が合った。


彼女は俺を見ると、なぜか驚いたようにわずかに目を見開き、動揺するように瞳を揺らした。


なぜだろうか。


少し不自然さを感じながらも、まぁそんな反応をする人もいるのだろうと、さほど気にすることなく俺は挨拶をする。



「皆さん、わざわざご足労ありがとうございます。大塚亮祐です。以後よろしくお願いします」


こちらから先に挨拶をすると、その後広報部のメンバーが1人ずつ自己紹介をしてくれた。



1人ずつの名前を聞きながら、チラッと先程の女性社員を盗み見た。


すると、今度は少し瞳を潤ませ、じっと俺を見ている。


しかもその瞳には、まるで恋する相手を見るような暖かな色と、少し淋しげな憂いを帯びた色が混ざっていて、なんとも言えない色が浮かんでいた。


こんな目で見られるのは初めてだ。


潤んだ目で見られることはよくあるが、彼女の瞳の色は全くそれとは違う。


先程の驚き動揺したような瞳といい、彼女は一体どうしたのだろうか。


気になってしょうがない。


他の広報部のメンバーに挨拶しながらも、俺は無意識に彼女を目で追う。


そして自己紹介が彼女の順番となった。


安西部長に呼びかけられ、ハッとする彼女を、今度は盗み見るのではなく真正面から見る。


彼女は可愛らしい感じの整った顔立ちだが、綺麗と表現されることの方が多いだろう雰囲気を纏った美人だ。


少し童顔なのか、丸味のあるパーツと、大人っぽいゆるやかなウェーブのかかったロングの髪型がマッチしている。


身長は女性の平均くらいの160㎝くらいの高さだが、すらりと伸びた細い手足が艶かしい。


全体的に華奢で細身なうえ、柔らかそうな白い肌が目立ち、さらにあの憂いを帯びた瞳のせいで、少しミステリアスで庇護欲をそそる女性だった。


外見だけで言うならば、正直タイプである。



「あ、えっと、あの。な、並木百合と申します。よろしくお願い致します」


彼女が自分の名前を名乗った。


百合っていう名前は雰囲気に合っているなと思った。



「次号の社内報で亮祐常務の紹介をさせて頂こうと思ってまして、近々並木さんが亮祐常務を取材させて頂きますね。女性社員が楽しみにしている企画なのでご協力頂けますと嬉しいです」


安西部長が並木百合を見ながら俺に話し掛ける。


つまり、近々彼女と仕事をする機会があるということだ。


無意識に俺の心は浮き足立つ。


「そうなんですね。分かりました」



彼女のあの瞳を見つめながら、にこやかに了承した。


あいかわらず、彼女はあのなんとも言えない複雑な色を浮かべた瞳だった。


彼女の外見以上に、今まで見たことのないこの瞳が俺は気になり、目が離せなくなっていた。



「では、今後ともよろしくお願いします。失礼いたします」



安西部長が退室の挨拶を告げると、皆が部屋を出て行く。


並木百合が俺に背中を向けた後も、なぜか目が離せずに彼女を見送った。



ーーこれが俺と並木百合の出会いだった。

私の瞳に映る彼。

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