「ねぇー美都、なんか最近すごく嬉しそうだよね?」
矢代チーフから交際を申し込まれて数日──
出社してパソコンを立ち上げていると、ふいに隣の席の愛未から、そう話しかけられた。
「えーっと……」と、言葉に詰まっていると、
私を挟んで愛未とは反対側の席に座る愛実の方からも、「そうそう、なんだかうきうきしてるように見えるもの」と、すかさず突っ込まれた。
「え、あ、いや別に、なんにも……」
やんわりと誤魔化す。あの矢代チーフとお付き合いをすることになっただなんて、さすがにすぐには話せなかったし、まだしばらく待っていてほしいと言われていたこともあって、うかつには喋れなかった。
それになんと言っても、早々と自分の口から話すほどには、まだふわふわとしていて夢みたいで、ちょっと現実味が足りていないこともあった。
「美都って、なんでも顔に出るよねぇ〜」
と、アミにほっぺたを指で突っつかれる。
「え、え、なにが?」
心当たりなんてなくてというふりをしたつもりだったのだけれど、
「ほんと、なぁーんにも知らないですってふりしてても、顔にはちゃんと『嘘です』って書いてあるんだもの」
エミからは、あっさりとそう指摘をされてしまった。
「えっ、いやー、なんのことだかさっぱり……」
そそくさとパソコンに向かう私に、
「わかってるくせにー」アミが言い、「ねぇ〜」と、エミが頷く。
両隣から詰め寄られ冷や汗をかきそうになったところへ、「おはよう」と矢代チーフ本人が入って来たものだから、びっくりするあまり「うん、ばっ!」なんていう間の抜けた声が口から飛び出た。
「「「うん、ばっ?」」」
アミとエミに加えて、チーフからもどうしたんだというような眼差しで見つめられる。
「ああっと……いえ、その……おはよう……ございます」
「ああ、おはよう」
とびっきりにイケてるクールな微笑みを投げかけて、矢代チーフが自分のデスクへ歩き去るやいなや、
「「わかっちゃった」」と、アミとエミの二人から、うつむいた顔を同時に覗き込まれた──。
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