次の日
「…おはようございます」
今日も1番早くにクラスに来てしまった。
先生と2人きりで緊張するんだよな、と思っていると…
「篠宮さん、今いい?」
私の顔を覗き込みながら、穏やかな声で私にそう問いかける。
「はい!」
緊張して思ったより勢いよく返事をしてしまう。
「…昨日の事、ごめん」
「え?」
突然の謝罪に驚く。
「いやいや、全然気にしてないですよ!」
慌ててそう答える。
本当に全く気にしていない。
「…それはよかった、でも…」
「でも…?」
ガラガラガラッ
「相良せんせー、おはよ!」
いつも明るい女子生徒が登校してきた。
「…ごめん、また後で話すね」
「あ、はい!」
結局何を言おうとしたのだろうか。
私自身は、相良先生が喫煙者であることは気にしていない。
周りに言うつもりもない。
私にバレてしまったこと自体を気にしているのだろうか。
そんなふうに考えながらSTを待った。
昼放課
「篠宮さん、今朝の話の続きしていい?」
「はい!」
ガヤガヤ
「…ちょっと場所移動するか」
「そうですね」
図書室へと移動する
「ここなら大丈夫かな」
「人も少ないのでよさそうですね!」
窓際の2人席に座る。
少しこちらを見た後目を逸らされた。
やはり話すのが気まずいのだろうか…。
「あの、話したくないのであれば全然大丈夫なので…!」
「いや、これは俺が話したい話なんだ」
それくらい、タバコに思い入れでもあるのだろうか。
「俺は、中学生の頃までは真面目だった」
「…今も真面目じゃないですか?」
「それは、俺が作っている人物像だ」
そう話しながら遠くを見つめる。
「俺には当時、中学から付き合ってる方がいた」
「けど、俺は高校から少し…グレてしまっていた」
今の先生からは考えられないことを言われつい驚く。
「グレてもその人とは交際を続けていた」
「けどある日、今の慧は私の好きだった慧じゃない、って言われたんだ」
「え…」
つい声に出てしまった。
「それから俺は真面目にならなきゃいけない、そうしないと好きな人からも振られるって思うようになった」
「…だから真面目だと思われそうな教師を目指した」
「誰にでも優しいと思われるような教師になろうと思った」
勉強が好きで、真面目な先生だと思っていた。
私には衝撃的な事実だった。
「…けれど、タバコだけは吸うようになった」
「でも、また人から引かれるのが怖くて隠していた」
「だから、篠宮さんに見られた時は焦ったよ」
そう笑う先生は、目が笑っていないような気がした。
「そうなんですね…」
「ああ、」
数秒の沈黙が流れる。
「…その、相良先生は何故私にそれを話そうと…?」
「…やっぱり、引かれるのが怖いんだ」
「この話をすれば引かれないと思っているわけではない」
「ただ、少しでも引かれないために話そうと思った」
珍しく先生が俯きながらそう話す。
「もしこの話を聞いてさらに引いたりしたら本当にごめん」
「いえ、全然…!」
「ならよかった、ありがとう」
「あと、この事は秘密にしておいてほしい」
困り眉ですこし笑いながらそう言う。
「もちろんです!」
キーンコーンカーンコーン
「あ、予鈴ですね、教室に戻らなきゃ…」
「ああ、俺は職員室に戻るから」
「そうなんですね!さようなら」
先生から『秘密の話』をされたことにドキドキしつつ教室へ繋がる渡り廊下を歩く。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!