この作品はいかがでしたか?
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時は3月の下旬。周りは桜が咲き始め、春の訪れが少しずつ迎えて来ている頃、今日はとある結婚式場のパンフレット撮影に来ている。この式場は年一でパンフレットを更新していて、ジューンブライドでもある6月より1年間、今年は我々rainbowが担当になる。というより正確に言うとrainbow代表でという事で、じゃんけんの末に勝った私が担当になった。因みに男性はイケメンなモデルさんというのだけ聞いており、後は楽しみにという事でそれ以外は聞いていない。逆に向こうも誰が来るかは内緒らしい。
「こんにちは」
私はマネージャーと来てそう言って中に入ると、1人の受付嬢が私達の所に挨拶しながら来た。
「こんにちは、今回パンフレット撮影でお世話になるrainbowのマネージャーの島田と言います。そして今回モデルになるrainbow代表の上原です」
「上原咲楽と言います、よろしくお願いします」
先にマネージャーが挨拶した後に私がそう挨拶を言った。
「存じ上げています。個人的に咲ちゃんのファンなので嬉しいです」
そう言いながら”うぁー本物だー”と小声で言う受付嬢。最近ちらほら見えてきていた女性ファン、まさかこんな近くにファンが居るとなると凄く実感が湧く。
「そうなんですか!思いが通じたのかも知れませんね(笑)」
私が冗談を言うとケラケラ笑いながら
「どうやって咲ちゃんになったんですか?」
「先ずは出たい人という感じですね。当然、女性なら憧れるウェディングドレスなので全員手を上げちゃったので、じゃんけんで勝ってここに来ました」
「うぁー、じゃー本当に思いが通じたのかも知れませんね(笑)。では今回のお相手の男性の方がまだですのでここでお待ちください。ちょっと担当を呼んできます」
すると出入口横の何人か座れるような待機場に案内された。そのまま 待機していると、1分もせずに担当と思われる方が来た。
「こんにちは、上原さんですかね?」
確認の声掛けに私達は立って小声で”はい”と言う。
「すみませんお待たせしました。私が今回担当になります佐藤茉莉(サトウ マツリ)と言います」
「凄い変わった名前…」
「よく言われます」
するとマネージャーの島田さんは席を立ち、
「じゃーすみません、私は他の仕事があるのでこの辺で」
今日の島田さんはあくまでも送迎。別メンバーの仕事に付かないといけないのでそちらに向かう事になった。残りのメンバーは今回とあるクイズ番組に出演している。最近は前にゲーム大会や今回の式場モデル等、個人で動く事が多くなって来て、最近マネージャーの求人を出しているとか。
「マネージャーも大変ですね」
「一人で動いてますからね」
すると担当は書類を出して
「後でお相手のモデルさんが来られてから別部屋に移動して話しますが、先にソロ部分もあるので、来られるまで先にそれを話しますね」
私は返事をして説明を受けた。
色々と話を聞いていると5分後…
「こんにちわーすみません、私、ジャパンシープの金本と申しまして、今回式場パンフレット撮影でお世話になる、モデルの西です」
西…?ジャパンシープ?
私はその言葉に身体が勝手に反応してしまって思わず振り向いてしまう。ジャパンシープというのは、雑誌モデル出身が多く所属している事務所の事でまだ歴史は浅い。以前に西君は、『ボーイズ&メン』の専属モデルとして学生ながらモデルのバイトをしていた話をしていたと思うけど、その事務所が最近破綻してしまったので、当時は破綻前から別事務所を探している段階ではあったが、本当にあの西君なら、あの後に決まったという事になる。
「どうも、西優秀と言います。よろしくお願い致します」
やっぱり西君だ!噓でしょ!?って事は新郎役は‥西君!?嘘でしょ噓でしょ嘘でしょ!?
まさかだと思ったがフルネーム聞いて間違いなく西君だと確信した。私はまだ信じられずに脳内はパニックで顔を上げられない。
「話には聞いております。お相手の方は既に来られてますのでこちらへ」
「お、新婦さんが来られてるんですね、分かりました」
少し笑いが起き、そのまま先程案内された受付嬢が案内する。その距離にして10m。私達が居る待機場は玄関柱があって、そこから3段降りた所にあるので丁度見えない。
どうしよどうしよ‥‥
どう迎えるか。頭をフル回転させるが何も思いつかずに西君が案内される。
「こちらです」
先に案内人の受付嬢が現れ、その後に西君が現れる。
「どうもこんにちは、今日はお世話になります、担当の佐藤です」
位置的に担当の佐藤さんは受付側が見えるので、先にそちらから挨拶する。そして遅れる事ほんの僅か。私も見えた為に挨拶を行う。
「こんにちはー…ってあれ、咲良さん!?なんで?!」
「どうも…rainbowの上原咲良です」
見事なリアクションを見せる西君に、取り敢えず軽く会釈しながら挨拶をする私。西君はrainbowの事を知っているので細かい自己紹介は省いた。西君は思わず口を押さえて一歩身を引く。
「お知り合いですか?」
担当の佐藤さんが疑問を抱く。すると西君はその疑問に
「知り合いも何も、僕、咲良さんの大ファンなんです!何これ、もしモニターか何かですか?(笑)」
定期的にTVで放送される『もしモニター』。これは”もしも芸能人と遭遇したら”等、非日常な事を体験出来る人気のドッキリをモニタリングする企画である。西君は恐らくそれと勘違いしている。
大ファンだなんて、嬉しい!
私はそう思いつつもここは現実というのを知らせるべく、
「違いますよ、だとしたら私もですよ、現に私も知らなかったんですから(笑)」
「マジっすか!?って事は、新婦役は咲良さん!?」
余程驚いているのか、目は大きく見開き、終始口を押えながら物事を話す西君。
「そうなりますね」
少し前に知った私だが、ここは冷静に対応する。
「だとしたらこれってこの前話したやつ、正に運命じゃないですか?フラグ回収しちゃったですね」
「この前というと?」
西君は興奮の余り、ゲーム大会で会って話した事を口に出してしまい、佐藤さんが反応して私を見る。それを見た西君は口が滑った事に気付いて片手だったのが思わず両手で口を塞ぐ。
「あいゃ…この前って言うの‥」「この前っていうのは、以前に私達の新曲イベントの握手会に来て頂いて、その時が初対面だったんですけど、冗談半分で”何処かで会ったら運命ですね”って会話してた所なんですよ、ね?」
と、西君があたふたしている所に被せる様、私は我ながら咄嗟に出てきた言葉に、こんなに回転速かったのかと疑いつつ、慌ててそう言って西君を見た。すると西君は頭を掻きながらも、
「そ、そうなんですよねー…、自分も学生の傍らですが、こういったモデル活動もしているので、握手会以外で会ったら中々凄いっすよねー的な感じでですね、えへ」
西君もその後は私の言葉足らずをフォローす様に足して上手く話をした。それに対して佐藤さんは疑いを持つことなく、逆にノリノリな感じで”じゃー尚更今回の仕事は最高じゃないですか!”と言い、それに対し西君も”そうっすね(笑)”と言うしかなかった。
何がともあれ一先ず難を逃れ、改めて軽く挨拶をすると衣装がある部屋に案内された。部屋は個室同士が重なった部屋。パーテーションで半分に仕切られていて、そこで着替えの際にパーテーションを掛けて男女で別れる感じだ。ここではパンフレット撮影様にドレスやら和装、男性はタキシード系等、様々なウェディング衣装がずらり。どれもが凄く奇麗で女性の憧れのやつだ。私はこれを見るまでは結婚に対して全くという所ではあったが、流石にこれを見ると結婚願望は抱いてくる。
私達は近くにある椅子に座り、机を挟んで佐藤さんが座る。
「では先ず、一通りの流れをご説明いたします」
そう言って説明を受けた。内容としては、実際に結婚式に向けて行われる前撮りみたいな内容で色んな衣装を着て撮影し、その中で数枚が選ばれる。まぁ普通のアー写といった宣材写真や雑誌撮影みたいな感じ。その他にソロ部分があったりと、そこは慣れているから大丈夫だろう。
ただ問題はここからだ。結婚式の写真、つまり見つめ合ったり、手を握ったり。キス‥は流石にしないけど、それに近い感じとかあるらしい。しかも先程、西君は私の事の大ファンという事で、佐藤さんもこれはチャンスと思ったのか凄く気合が入っている様子。嫌な予感しかしない。
仕事…これは仕事…
つくづく俳優さんは凄いと思いつつ、そう自分に言い聞かせるしかなかった。
「それでは衣装選んで下さい、折角なんで、西さんも一緒に」
佐藤さんがそう言って撮影の準備をするので少しだけ席を外す間、ウェディングドレス、カラードレス、そして和装と3種類を着用しないといけないので、数ある中から好きなものを選んで良いと言われた。一方の男性は基本的に女性が選んだ服装に対して合わせるのが主流だとか。なので似たような衣装になるっぽい。流石結婚式は女性が主役と言われるくらいな感じはある。因みにどれも実際にレンタルとして使用する物らしい。佐藤さんはそのまま部屋を出た。まさかの2人きりに困惑する。
「と、とにかく見て見ましょうか」
場の空気に耐えれず私が言い放って席を立ち、衣装を見渡す。
「にしてもどれも綺麗で大きい」
「初めてですか?見るのは」
遅れて西君が近くに来てそう言うと私は、
「昔、親戚の結婚式に行った事があるくらいで、ていうかそもそも私がまだ幼い頃だったからあんまり覚えてないですよね。西君はあるんですか?」
そう言うと西君は咄嗟に
「シー!ここでは西”さん”で。アイドルのあなたが言葉を気を付けないと、君付けは怪しまれちゃいますよ」
私はメールで言ってるからか、無意識に君付けで呼んでしまった。
「ご、ごめんなさい!私つい…」
「まぁでも、君付けで言ってくれるの嬉しかったです」
やばい格好いい…
そのなんでもないセリフと笑顔に思わずキュンとしてしまった。
「ちょ…可愛すぎるから見つめるのずるいっす」
向こうも向こうで胸キュンしていた。
「ごめんなさい」
「いや全然全然。可愛いから許します」
「やったー」
「だから可愛すぎますって、もう速く選びましょう(笑)」
お互いでそう言いながらも西君は照れながらそう言う。私はここぞとばかりに可愛い仕草を見せ、西君もここぞとばかりに可愛いを連呼する。
普段言い慣れている筈のこの『可愛い』。なんで西君の場合はこんなにも嬉しい気持ちになるのか。もっと言われたいしもっと好きになって欲しいという気持ちになっている。
何これ普通のカップル感。幸せなんだけど
「そうですね、折角なんで好みのあります?それを着ますよ」
「マジで?ただでさえこの運命的な出会いで夢みたいな話なのに、まだ夢見せてくれますの!?やばいよ今日!運使い果たしている感じで逆に今後が怖い!」
私のファンならばという何気なしに言ったつもりがよくよく考えれば、確かに西君からすれば大ファンのアイドルと運命的な出会いに式場パンフレットの仕事でまさかの新郎新婦のモデル。その新婦役からの好きなドレスを選べってこんな夢心地な事はない。逆の立場で私の好きな漫画キャラが目の前に居て同じ状況だったら倒れるレベル。
「大袈裟ですよ。こういう機会、今後絶対にないと思うんで。どれでもいいですよ、なんならこういう胸元が出たセクシーのでも(笑)」
私は興奮している西君に落ち着かせる為にそう言いうと西君は
「実は…それが個人的に気になってて…」
「まさかのこれですか!?(笑)」
冗談で言っていたドレス。その1つのウェディング衣装をハンガーから取って西君に見せる。
そのドレスは方からではなく二の腕付近からのタイプで、こういった衣装は他にもあるのだけど、この衣装は他のに比べて胸元の部分が小さく作られている。これは私みたいな貧乳ではなく、巨乳を活かす衣装だと思う。到底合わない感じだが…
「敢えて言わないですけど、男性の欲の詰まりですね」
「すみません…あの、全然他のでも良いんで」
西君は遠慮してそう言う。正直恥ずかしくて乗る気ではない所だが、西君の要望に応えたい自分も居る。私は悩んだ末、
「…良いですよ」
「え?でもあまりにも露出が激し目な衣装っぽいですし」
まさかだと思ったのか、少し驚きを見せる。
「でも着て欲しいんでしょう?」
「まぁそうですけど…」
「じゃー着ましょうか?」
「でも…申し訳な‥」「どっちですか?」
「えへ?」
畳み掛ける私の問いに引く所か思わず笑みが零れる西君。会話を楽しんでいるのか、M素質なのか、はたまたこのドレスを着た私の事を妄想しているのか。分からないけどなんだか可愛い。なので
「着て欲しい意志をしっかりと伝えて下さい」
最早着る前提で私は確認する様に再度西君に聞く。
すると西君は姿勢を改めて
「そのドレスを着て下さい!」
私はその言葉を聞くと、笑顔で
「わかりました」
そう言ってその衣装を選んだ。他にもカラードレスと和装を選び、横長の机に置いた。時を同じくして佐藤さんが戻ってきた。
「あ、選ばれましたか?」
「はい」「はい」
私と西君はやまびこの様な流れでそう返事した。
「先ずウェディングは…おっほ、これですか(笑)」
佐藤さんは少しにやけながらウェディングドレスを手に取って言った。
「西さんの希望です」
私は透かさず暴露する。
「え⁉なんで言うんすか⁉」
西君はまさか暴露されるとは思わなかったのか、驚きを見せて私を見る。
「へぇ~、因みにこれ選んだの過去9回あって初めてですよ」
そう佐藤さんは言う。
「そりゃーそうですよ(笑)。綺麗ですけど、いざ着れと言われたら正直中々勇気がいります」
「えーー」
私がそう言った事に対して頭を抱える西君。
「あ、言い直すと、選択肢の候補としてはありましたが、最終的に選んだのは今回が初めてです。この衣装自体は我々も冗談半分で作成したんで(笑)」
「ですって。ある意味記念ですね」
佐藤さんの言葉にそう伝える私。
「はい、なんかすみません」
「いゃなんで謝るんですか?全然大丈夫ですよ」
「因みに、これにした理由は?」
「えっと…それは‥」「欲の現れですよね?」
「うぇ!ちょっと待って…なんでも正直に言わなくても…」
私は西君をからかう様に言った。言われている西君も、なんだかまんざらでもない様子だ。するとその姿を見ていた佐藤さんは
「今までモデルなさった方々でも断トツにお似合いですね。まるで本当のカップルさんみたいで、握手会を除いて本当に初対面?って感じで」
私達はドキッとしてお互いに見つめ合ってしまった。その為少し間が開くが
「いゃいゃ、本当に握手会が初めてでそれ以来ですよー。握手会自体も約3ヶ月前だったので、1シーズン以来です」
と、私がそう言った
「凄い。だとしてもここまで意気投合してるのは初めて見ました」
すると西君が佐藤さんに質問する。
「つかぬ事お聞きしますが、先ほど”今までモデルなさった方々でも断トツ”とおっしゃってましたが、過去にこの仕事を切っ掛けにお付き合いされた方とかいらっしゃるんですか?」
「そうですね、過去にこの仕事を切っ掛けに結婚に至った組は9組のウチ、5組いますね」
「「5組も⁉」」
「わー、息がぴったり!そうですよ、この式場を選ぶのも、この仕事が切っ掛けだったからって」
そう佐藤さんは言った。約5割越えの確率で結婚に至っているという事実。式場のだけあってご利益がありそうだ。
「ご利益があるんですね、この式場」
私が思っている事をまんま言葉に表す西君。
「そうですよ有り難い事に」
佐藤さんはそう言いながらウェディングドレスを置いて他のも見る。
「…なるほど分かました。でしたら、これに合わせて西さんは決めましょうか」
そう言われて西君は二つ返事で一緒に探す。男性は基本タキシードと事で、新婦の衣装に合わせて中のベストを変えたり、時には上着の部分だけ脱いだりと意外とシンプル。なので、女性に比べて短い時間で衣装を選ぶ。選び終えるといよいよ本題の撮影に入る。
先ずは外からという事で外に出た。最初の撮影は『初めての式場』という事で、お互いで初めて式場に足を踏み入れるという所の撮影だ。動きはあるが全て静止画撮影らしい。
今日は”私服で来て”という事でお互い私服である。私は春という事もあり、白無地の長袖シャツに膝下まであるベージュトレンチコートと言われるを身に纏い、式場という事で下は黒のパンツを敢えてくるぶしの所で折り曲げて、履物は紺の流行りでもあるスニーカーというファッション。
一方の彼は、ここで知った183cmという高身長を活かし、これまた春衣装で白シャツの上に敢えてそのシャツは見えるようにピンクのパーカーを来て、下は茶色い7部パンツ、靴はこれまた流行りのスニーカーを着用。めちゃくちゃ格好いい。
この式場の門でもある出入り口には1人風景を撮影している1の女性がいた。その女性は私達に気付くと撮影を止めて会釈する。私達もそれに合わせて会釈した。
「お疲れ様です」
佐藤さんがそう伝えると、応えるように片手をスッと上げて
「お疲れ様」
そう言った。
「本日カメラマンを担当する新高(ニイタカ)さんです」
担当の佐藤さんより案内が入り、
「新高です、宜しくお願いします」
「「宜しくお願いします」」
私達は一緒に挨拶をする。
「では先ず早速ですけど、この門を背景に手を繋いで入るというシーンを撮りますねー」
手…手を繋ぐ…
いきなりステーキ並にいきなり難易度高めの事が起きた。
「‥どうかしました?」
彼も同じ考えだったのか、2人共返事をしないという謎な空気になった。すると、思い出したかの様に佐藤さんは
「あ、西さん、実は彼女の大ファンなんですよね?」
「えーーそうなのーー!?」
新高さんは驚きを見せる。
「はいまぁ…だから緊張が」
そう言って照れ笑いする西君。
「じゃー今日は独り占めじゃなーい?なんで遠慮してるの」
そう言うと新高さんはカメラを下ろし、彼と私の手を握って強制的な手繋ぎをされる。
「あちょ…」
決してチョップした訳ではなく、突然過ぎたあまり驚いた私から漏れた声だ。新高さんは”よし!”と言って私達の手から離れる。
「あー待ってマジやばい!」
テンションが上がっている西君だが、手汗から感じる彼の緊張感が伝わる。そこには恐らく嬉しさも混じっているのだろう。
「良いカップルよー」
新高さんはそう言うと、今の感じを逃すまいとカメラを持ってシャッターを切る。なんなら私も今まで男性と手を繋いだ事ないから緊張をしている。黙っているのがその証。握手とはまた違うこの感じ…。彼氏とか出来たらこんな感じかと思うと思わず顔がニヤけてくる。
それが西君だったら…え、待って何この感情?私は西君の事が好きなの?
今までになかったこの感情。小学校からアイドル一筋でこの業界に入って丸8年。彼氏の1人や2人出来てても可笑しくない年齢…。しかし現状、今の事務所は恋愛禁止だから先ず無理。恋愛してしまったら迷惑だけじゃ済まないだろうし、折角の玖瑠実が代表で規制を緩めた意味も無くなってしまう。
でも今だけなら…
凄く葛藤する私。そもそも西君は私のファン。私自身も緊張ばっかりだと、折角の西君との思い出が台無しになっちゃう。これは何かの縁、取り敢えず今日は最高の思い出にしよう。 彼の方が年上とはいえ、遠慮している姿を見て新高さんは
「西さんは撮影とはいえ、お相手の方が本命の方なんでしょう?」
「そう…ですね」
本命なんだ…、嬉しい。本当に好きな人はいないのかな?
私はアイドルであり、いわば芸能人でもある。一方の西君はモデルと言いつつも学生さんであり一般人。彼にとってこの仕事はアルバイト的な感じなので、私達みたいな芸能人の類に入るかは正直微妙な所。恋愛に置いて良く芸能人が一般人と結婚というニュースを視るけど、あれは片方が元芸能人というのが殆どで、普通は芸能人の方が色々な事を考慮して距離を置くから、先ずお付き合いというのが難しい。
稀に友人の繋がりで芸能経験がない純粋な一般人と結婚というのを聞くけど、あれはウルトラレアに等しい。だからこそ西君は芸能人では私で、別で普通に好きな人が居ると思っていた。
「本命ですか?お付き合いされている方は居ないんですか?」
嬉しさで何故か突然彼女の存在確認をする私。
「もちの論です!」
照れ隠しか、少し捻った答えを出した。彼女が居ないと分かった瞬間、心が妙に開放された感じがした。それが嬉しさによる開放というのがわかり、思わず
「ありがとう、凄く嬉しいです」
彼の目を見て心からそうお礼を言った。
「なんだか本当のカップルみたい。彼はタジタジだけれども(笑)」
「すみません」
するとそれを見た新高さんはある提案をしてきた。
「本当に西さんは上原さんの事好きなんだなって良く伝わるし、上原さんは上原さんでそれに対してしっかりと受け止めていて、素晴らしい方ですね」
まさかそんなに褒めてもらえた事に対して私は思わずお礼を伝える。すると佐藤さんは続けて、
「そうですね、緊張しても無理はないから、そのタメ口って言うのも手だけど、折角なら少し慣れるまで時間を作ります?見ている感じだと、上原さんは大丈夫そうだけど、彼がまだっぽいから」
「え、でも撮影は…」
新高さんの突然の発言に、西君は慌てて新高さんへ問い掛ける。
「ちょっと異例だけど、やり方を変えてみます」
「はい…すみませんなんか…」
言われるままに取り敢えず返事する西君。すると新高さんはカメラを片付けながら
「大丈夫ですよ、こちらとしては結婚式っぽい撮影が出来ればいいですからなんも支障もありません、心配しないでね。ていう事で佐藤さん、少し2人に時間を上げてやって」
「はい、わかりました。では一旦自由にされてみますか?」
「「自由⁉」」
私は佐藤さんの言葉に驚く。
「はい、自由って言ってもこの式場を出られても困りますので、ここは花道とか噴水やら、撮影用で色々セットがあるので、それを見に行かれたらどうですか?私たちは離れていますから、その間2人でお話でも」
そう言われて私達2人は式場周辺を歩きだした。途中、それまで遠くで見ていた西君のマネージャーに休む様に声を掛けられるも、少なからず私にも責任があると思い、
「大丈夫です、お互い緊張してるんで先ずは少し話しさせて下さい、お気遣いありがとうございます」
と、西君ではなく私がそう言って振り切った。
歩き出して直ぐに近くのお花畑のベンチがあり、少し落ち込み気味の西君に座る様に声掛けし、隣同士で座った。
「本当にすみません、俺のせぃで咲良さんだけではなく、スタッフの方にまで迷惑かけてしまって」
第一声は西君からの謝罪だった。私は謝罪させてしまった事に少し罪悪感を覚える。
「いえいえ、大丈夫です。緊張するのも無理ないです」
私はそう言うしかなく、
「いゃ…、仕事で来ている以上、それなりの覚悟でしないといけないのに、恥ずかしい事に咲良さんに対してニヤニヤしてばかりで、全然仕事に集中出来てなくて‥マジで申し訳ない…」
そう言って頭を抱える西君。その声は震えていて、物凄い責任感がある方なんだなと感じた。普段あんなに優しくて、且つ、自分より相手ファーストで接していて格好いい印象しかなかった彼の意外な一面に心がキュッとなった。同時に、『彼のそういった弱い一面も傍で癒したい』そう言った気持になり、私は彼に近づく
「手…貸して」
今は何言っても余計に彼を苦しめると思い、私はそう言って手を差し伸べる。
「え…」
とは言いつつも西君は何かを察知してか左手を差し伸ばす。私はその左手をギュッと握りしめる。本当だったら抱き締めたい気持ちにもなったけど、それはちょっと世間的に宜しくない。今の自分の精一杯の慰めだ。
「本当にごめんなさい」
「ううん」
私は小声でそう言って彼の手を握っている左手の甲をもう片方の手で撫でる。この時の気持ちとして『私は西君の事が好きになって来ているんだな』って思った、
わかんないけど…
このわかんない理由としては恐らく『アイドル』という清廉潔白な壁が立ちはだかっているのだろう。何処かで『好きになってはいけない』という想いと、『好きになりたい』という想いがぶつかり合っている。まだ『好きになってはいけない』という想いの方が勝ってはいるけど、いつどこでこれが逆転するかわからない。
もしすると、案外直ぐかもしれない…
to be continued…
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