『もうやだ仕事潰したい………』
仕事で失敗した私を嘲笑うかのように光輝く夜空の星を涙目で睨む。
親との仲が絶望的に悪く、中学卒業後は逃げる様に家を出て死に物狂いで働いた。
何とか溜まったお金で格安のアパートを借り、やっと1人で生きられるとホッとしたのもつかの間、今度は上司からのセクハラパワハラの毎日。救いようが無さ過ぎて最早笑いまで込み上げてくる。
『……どこで間違えたんだろ』
声にすらならない、掠れた呟き零し、糸をたぐるように過去の出来事を思い出す。
15の時に家を飛び出て、もう3年。
18になった今、やっと生活は安定してはきたけど未成年の私には働ける範囲も時間も限られており、どう頑張っても生活はギリギリ。記憶を遡っても良い思い出なんて微塵もなくただただ嫌な過去だけが泡のように湧いて出る。
『早く成人したいよぉぉ……』
ズビズビと獣のような泣き声をあげながら街灯の少ない真っ暗な夜道を進む。お化けやら何やら飛び出してきそうな雰囲気だが、もうこの際、お化けよりも上司の方が何万倍も怖い。
やっと家が見えてきたと思ったときにはもう涙が眼球全体を覆い、視界激しく歪んで足元がフラフラとおぼつかない。傍から見たら化け物である。
カツン、カツン、とハンマーで叩いたような音をあげ、鉄の階段を「やっと家に着いた」という安堵と「仕事が終わった」という解放感に包まれながら、一段一段噛みしめるように上る。
「……ゲホッ」
『なんかいる』
ニッコニコ笑顔で階段を上り終え、光の速さで家に駆け寄ろうとした私の目に、自宅の扉に背を預け苦しそうに息をする少年の姿が映り、困惑で眉が歪む。
肩まで届く白髪に褐色肌、花札のピアス。私より少し下だろうか。
少し見慣れたその容姿にワンテンポ遅れてお隣さんだったなと思い起こす。
確か「黒川サン」だっけな…と記憶の片隅に残る表札に書かれた名前を思い出す。
『えっと………大丈夫?』
突然のこと固まる喉を必死に動かし、言葉を紡ぎ出す。その間も少年はフーフーと荒い息を繰り返し、時折喉が潰れているじゃないかと不安になるほど苦しそうに何度もせき込んだ。
長い白髪がカーテンのように彼の顔を囲んでいるせいで見えづらいが、微かなすき間から見える彼の表情は酷く歪んでいて、顔は少し前に廊下ですれ違った時とは比べ物にならないほど血の気の伏せた色をしていた。
『た、立てないくらい苦しいの?』
一向に動かない少年の様子に流石にやばいんじゃないかと顔色が蒼くなるのを感じる。社畜に重なり自宅の玄関の前で人の死を目の当たりなんて可哀想すぎる。私が。
「は?舐めんな立てるわ」
『元気そうだね良かった』
パシッと心配で伸ばした手を力の無い手で叩かれ、動けることを確認し安堵する。
初めて聞く少年の声は酷く掠れた声で言葉というよりも息を吐くという表現が正しそうな弱弱しい音だった。
だが立てると強がっても所詮は病人。何とか立ち上がれても、それからはフラフラと雲の上を歩くみたいに足元が定まっていない。
『…ねぇ大丈夫?すっごいフラフラしてるけど…』
歩行が怪しく今にも倒れてしまいそうな彼の姿に、薄情者と有名だった私の心にも流石に心配の雪が積る。夢遊病者のように虚ろな顔で彷徨うみたいに歩く彼の体を支えようと、肩へ手を置いた瞬間、手に伝わる服の湿っぽい冷たさと肌の焼けるような熱さの温度差に頭を殴られたような驚きが全身を貫く。思っていたよりも高熱だったから、というのももちろんあるが、1番の問題は服の湿っぽさだ。何故こんなに濡れた跡があるのだろう。
数秒頭を捻らせ考えていると、一つ、心当たりが稲妻のように閃く。
『……ねぇ、まさかだけどさ』
ふと脳裏に朝・バ先に設置されているテレビで見た、機械のようにスラスラと本日のお昼の天気は雨です。と、にこやかに告げるお天気お姉さんの姿が蘇る。
『昼の雨ン時からずっとここに居たとかじゃないよね…?』
ほぼ賭けに近い質問だった。もしそうだったら…と妄想に近い恐れを抱く。
どうか彼の首が横に振ることを期待したが、当の本人はバツが悪そうに静かに俯く。
『…アンタバカなの!?』
望んでいない反応が返ってきてつい夜だということも忘れて叫んでしまう。
久しぶりに声を荒げ、裂けるような感覚が喉を木霊する。
『昼からずっとって……もう21時だよ!?マジで死ぬよアンタ!!』
「うるさい!」
『やだすみません!!!!』
2個隣の部屋に住む皺がれた老人の声に電流が走ったみたいに背筋をピンと伸ばし驚く。
真新しい鉛筆のように背筋をピンと伸ばす私と反対に少年はさらに息を荒くしていき、胸を押さえるように姿勢を低くしていく。心なしか顔色は先ほどよりもずっと悪くなっており、死人のような青白い顔を浮かべていた。
『うそマジで死ぬ?待ってストップ、家へ行こう、鍵出して。』
困惑と焦りが最高級まで達しつい語尾のたかぶった、叱る様な激しい声を出してしまう。
「…別に、死んでも良い」
『馬鹿野郎、意地でも私が治してやる。』
頭叩いて部屋まで連行した。
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コメント
3件
イザナくん年下…なるほど、 続き楽しみです!
追記 イザナくん 16歳 夢主ちゃん 18歳 です❕❕