コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
俺はノエルの足元にゆっくりと膝を付いた。
恐らく俺はキースが本来操る風の魔法で運ばれたのだと思う。
リンドンが、大丈夫⁈と手を差し伸べてくれたので、それを取って立ち上がる。
その時だけ、少し塔が揺れた気はしたが……。
「お兄!大丈夫⁈」
「え、あ、うん」
大丈夫も何も、俺、割と優しくここに運ばれたので傷の一つもないわけで……。
ただリンドンとノエルは緊迫したムードだ。
キースを見遣ると、まあ、それにあわせた感はあるが……そして俺は困惑中。
ここの温度差凄いな、と思った。
そして今まで幾度となく感じた違和感も、ある。
「お兄!とにかく声をかけて!」
「え、えっ、ど、どんな⁈」
「お兄さんをこちらに戻さなきゃ‼色々あるでしょ!戻ってきて!とかさ!」
戻るも何も……あれはキースだと俺は思っているのだが。
──どうにも、おかしい。
俺を離す寸前、キースは『必要なこと』と言った。何が必要なのだろうか?
魔王というなら世界征服もしくは人間根絶……?
違う──それならもっとやりようはある筈だ。
キースの望み……はなんだ?何を……?俺に関わる何か……?
「お兄!」
考えを巡らしていると、ノエルの声に呼び戻される。
「あ、えっと……に、兄様…その、僕と帰りましょうー」
最後の方は間延びになってしまうわ、恥ずかしさで赤くなってしまうわ……。
勘弁してほしい、即興劇とか自信ないわ、俺……。
しかしノエルは、もっとちゃんとして!と叱責を飛ばしてきた。
「兄様!お願いだから戻ってきてくれ……ぼ、僕は、兄様にずっと傍にいてほしいんだ!」
頑張って俺は叫ぶ。
その言葉に反応するように、キース兄様の瞳が僅かに揺れた。
どこに反応したんだろうか、キースは。わ、わかんねぇ!
同時に、ノエルの放った光が闇を貫くように突き刺さる。
「キースさん、本当のあなたを取り戻して!」
光と闇のぶつかり合いが激しさを増し、やがて部屋全体が眩しい閃光に包まれる。
「……っ!」
数秒か数分か、もう少しか──光の爆発が収まり、室内には静寂が戻ってきた。
ぼんやりと白い光が漂う中、俺はキースが床に崩れ落ちるのを目撃した。
「に、兄様……!」
咄嗟に駆け寄り、その体を支える。キースの顔は色を失い、汗が滲んでいた。だが、薄く開かれた瞳には微かな光が宿っている。
「リアム……」
掠れた声で俺の名前を呼びながら、キースが弱々しく微笑む。そして、彼は目を閉じてしまった。
「兄様!?」
俺の叫び声に、ノエルが疲れ切った表情で近づいてきた。そして、そっと俺の肩を叩いた。
「お兄さん、大丈夫だよ。闇の力は全部消えた。ちょっと魔力を使いすぎただけだから、休めばすぐ元気になるって」
ノエルの言葉に、俺はほっと息を吐く。力が抜けたようにキースを支えたまま、俺はゆっくりと地面に座り込んだ。
──だが。
「……全部、消えた……?」
自然と口からこぼれた俺の問いに、ノエルは自信満々に頷いた。
「うん、確かだよ。闇の波動も消えたし、残留魔力も感じないから!」
その言葉を信じていいのかもしれない。だが──俺の腕の中にいるキースを見下ろすと、どうしても言い知れぬ違和感が拭えなかった。
彼の身体はいつも通り温かい。それでも、それに指先が触れる度に、何か冷たいものが背筋を撫でていくような気がするのだ。
──疲れてるのかも、な……。
自分をそう納得させ、俺はもう一度キースを抱きしめた。
「兄様、ゆっくり休んでください……」
ところで……この人、本当に気を失ってんのだろうか……。
ほんの一瞬、キースの唇が動いたような気がしたが、気のせいだろうか。 俺は腕の中にいるキースに少しの疑惑を向けた視線を落としたのだった。