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博麗神社にて。
「れ、霊夢…ちょっと見ろよこれ」
「は?何よ…うわっ」
「このパンめっちゃカビ生えてる…おっこっちのせんべいかっちかちじゃん」
「あんた、ほんとにパン食べないよね…おかげでカビたじゃない、もう」
「なんで私のせいなんだよww」
私は和食派(笑)ですわと胸を張る魔理沙。
「にしても買った覚えがないわ…ちょっと食べてみる気はない?14枚目にどうよ」
「私をなんだと思ってんの?」
「残飯処理班」
「失礼な…私はか弱い乙女だぞ!!」
「どこが?」
あんたのどこが”か弱い”乙女なのよ…と言いたげな顔。
「あ?どっからどう見てもか弱い乙女だろうが笑」
「あんたがか弱い乙女なら私は何なのよ」
「紅白ゴリr」
霊夢がかつてないスピードで魔理沙を締め上げた。
「…紅白天才美少女」
「よろしい」
霊夢は手をパンパンと払う。
「いてて…なんで弾幕ごっこの時じゃなくて今本気だすんだよおかしいだろ」
「何のこと?」
「とぼけやがって…」
霊夢はふふん、と笑った。
「あんただけには負けてやらないわよ」
食べ物には、賞味期限がある。
食品の「おいしさ」と「安全性」を保証するために。
最高の味が失われてしまう前に、それをすべて味わい尽くすために。
そして、『賞味期限』は大体どんなものにもある。
人間さえ、例外じゃないから。
私にも賞味期限がある。
どんな強いやつだって、人間である限りはずっとそれに縛られるんだ。
なら、私は。
100年と持たないこの体で、いくつの星を掴めるだろうか。
何をこの世界に刻めるだろうか。
いくつ、他のやつに呪いを残してやれるんだろう。
普段は冷たいくせして、ふと自信満々に、不敵に笑ってみせるあいつを。
いつまで特等席で見られるかな。
私達は、人間だから、さ。
いつか来る最後の日には、最高の味だったって、笑えるように。
あいつの賞味期限が切れるまで、私は紅白天才美少女(笑)の隣を譲らない。
絶対、誰にも譲ってやらないんだ。
…なーんて、な。
「…魔理沙」
「なんだ、霊夢」
「私達、ここで終わりかしら」
「不吉だな、縁起の悪い」
満身創痍。
大きな赤い月が、2人を照らした。
「あんたは、まだ動けるの?」
「…どう思うよ」
背中合わせに座ったお互いの体は、徐々に温かみを失っていく。
「あー。お茶が飲みたいわ、私」
「戸棚に高級玉露がまだあったぞ」
「えー、飲んどけば良かった」
「私は味噌汁が飲みてえ」
あっつあつのやつ。と魔理沙は笑う。
霊夢もつられてちょっぴり笑った。
「私は…やっぱお煎餅。大福も食べたいし…あっ、今日洗濯物干しっぱだ」
「雨が降らないことを願っとくか」
「そうねぇ…今夜は晴れよ」
「それはもう清々しいくらいに、な」
夜空に映えた赤い月。
落っこちてきそうなくらいに近く見えた。
「ねぇ、魔理沙。赤い月って、なんか不吉じゃない?」
「そうか?私には、たまらなく綺麗に見える」
霊夢はにやりと笑う。
「なぁに、告白?」
「は!?なんでそうなる…あっ」
「ふふ、日本語の美学ね」
魔理沙は赤くなった顔を誤魔化すように言葉を重ねる。
「赤い月…まぁ、霊夢の象徴にも見えなくもないか」
「バカね。赤い月といえばレミリアでしょ…」
「漢字違いだ。残念だったな」
あいつのは紅だよ、と魔理沙はどこか得意げに言う。
「…そう。もうなんでもいいわ」
「そうか…」
あ。と霊夢が何かを思い出したように手を打つ。
「魔理沙。あんたが賞味期限切らしたせんべい、美味しかったわよ」
「食ったん!?」
「お茶漬けに乗せたら美味しいのよあれ」
「…そっか。今度私にも出せよな」
「ちなみにパンは捨てたわ。勿体ない…」
「それが正解だよ馬鹿野郎」
霊夢が、魔理沙の肩に頭を乗せた。
背中合わせでそれをすると、必然的に空を眺めることになる。
魔理沙は驚いたように数秒固まった後、同じように自分の頭を霊夢の肩にもたせた。
「空、綺麗ね」
「そうだな」
「…ねぇ、魔理沙」
「?」
「私は、楽しかったわよ。最高に。あんたと同じ空を見られて、本当に良かった」
「やめろよ。そんな、まるで最後みたいな言い方…」
「あのお煎餅みたいに、期限が切れても美味しく食べれるものもある。だけどね…私は、パンだったみたい」
「最高級の皮肉だな。…ま、安心しろ。私もだよ」
「最後が隣じゃなくて、背中合わせだなんて…ほんとはちょっと不満だけど」
霊夢は空に向かってとびきりの笑顔を見せた。
「魔理沙と出会えて、良かった!」
妙に素直な霊夢のセリフ。
これで最後かもしれない霊夢の声。
魔理沙の目から、色々な感情の混ざった雫が落ちた。
「私もそう思ってるよ、霊夢!」
また一緒に朝日を見ることも、せんべいを食べることも、洗濯物を取り込むことも、もう叶わないかもしれない。
だけど、最高にくだらなくって、楽しくて、最高に笑えた。
思い返せば、それで十分だろう?
まだまだ夜は長いけれど。
朝日なんてもう見られやしないけれど。
最後に背中を預ける相手が、こいつで良かったって。
背中合わせでも、一緒に、おんなじ空を見られて良かったって。
そう、思えてしまったんだ。