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私の絵は線がはっきりしない。はっきりしないというか、たくさんの枝分かれができてしまう。何度も何度も同じような場所に線を重ねてしまうからだ。そのせいで絵全体が消しゴムを入れない状態で描き終えるとぼやっとしてしまう。描き始めるのにも描き終えるのにも時間がかかる。私は絵描きに向いていない。
となると、私は何が向いているんだろうと思う。大きな川の流れる橋に足がたどり着くと雲から夕焼けの光が私に冷たい風と一緒に突き刺す。
「さむっ」
寒い、めちゃめちゃに、寒い。でも、その光と風は私を遠くへと導いている気がした。
「行けるもんなら行きたい、仕事とかそういうのじゃなくて、そもそも私人間向いてない。」
家に着いたら何しようかな。お菓子あったらお菓子食べながらテレビを見よう。今日くらい良いさ。この、「今日くらい」は、ここ1か月5回目くらいだと思う。本当に最近生きる気力がない。皆そうだと思う。だけどそんな中動いてるんだと思うと、私の方はもっと自堕落になっていく。落ちるならとことん落ちよう精神がなぜか働く。
それから橋を渡り終えるまで
何も考えないで歩いていると何か踏んだ。何かと思って見てみたら、大きめの濡れた土の色に近い濃い茶色の財布。なんで視界に入らなかったんだろうと数秒、その財布を見つめた。そして拾い上げ、驚いた。
「分厚い」
重みもあって、この分厚さはプラスチックが入っているわけではないと分かる。そして、こんなに足をあげて歩いていたかなと考えた。
「…」
中身を見たくなった。でも見ない。そこはしっかりしてる。いくらニートでお金が欲しくたって、チャックは開けない。でも、見るくらいなら良いんじゃないかな、犯罪になるのかな?分からない。調べるほどのことでもないと思う。とにかく交番に行こうと思い、足を歩かせる。丁度もう少し歩いた先に交番はあった。中身をみたい好奇心を必死に抑えた。
「ん?」
交番の前に立つと目を引く張り紙があった。『アタラシイ国へお入んなさい』と真っ白い紙の真ん中に縦方向に太めの筆で書いてあった。
「新しい国?なんじゃそれ」
少し不気味に思ったが、紙の左端に小さく、多分ボールペンで新潟県警察 新潟警察署と書いてあって何かの広告なのかなと思った。ひとまずその張り紙を無視することにし、引き戸を開けた。一旦玄関みたいなところに入り、もう一枚の引き戸をジャジャジャと開ける。中は静かで見渡しても誰も居ないように思えた。
「す、すいやせーん」
恐る恐る声を出してみる。誰もいないのかな、どうしようと思い始めたとき、トイレの流れる音が聞こえた。屏風みたいなものがあって見えないが奥の方でドアの開閉音が聞こえた。足音と一緒にチャラチャラキーホルダーがぶつかり合うような音も聞こえる。2、3歩歩いたところで止まったので声をかけた。
「あのー、落とし物を届けにきましたー」
「…え!お客さん来てたの!ちょっと待ってね!!」
返って来た声は、想像していたものとは全くちがく、若い可愛らしい女性の声だった。女性というか、女の子のほうがしっくりくるような声。
その声の言う「お客さん」というフレーズもひっかかった。警察から見た一般市民私たちからの訪問者は「お客さん」で合っているんだろうか?と悶々としているうち、何かボタンをつけるようなパチッという音が聞こえた。声の持ち主は姿を現した。
屏風みたいなものの後ろからヒョコッと出てきたのは、ショートカットの小麦色の肌をした小さな女の子だった。7歳くらいだろうか?服はフードが着いていて、丈はスネまで長さのある目立つピンク色のジャンパーを着ている。腰にはバックが装着されており、先ほどジャラジャラ聞こえていた、たくさんのキーホルダーがぶら下がっている。よく見るとプリキュアの変身グッズみたいなキーホルダーだった。
「え…あ、えっと、」
なぜここに、こんな子がいるんだろうか。私は平静を保とうと必死だった。ちょっと笑いかけてみたりして。気持ち悪かったと思う。そして、1番納得のいく答えが浮かんだ。きっと警察が保護している迷子なのだと。
「迷子?」
そうきくと、ショートカットの少女は首をかしげた。
「え?迷子?あなたがですか?あれ?落とし物があったのでは?」
少女の薄茶色の瞳は私を真っ直ぐ見つめていた。
「警察の人にここのお留守番頼まれたの?ここの人いつ戻ってくるか、分かるかな?」
私は少女の問を無視して聞いた。少女は視線をずらし、手を顎にあてて、少し考えた。そして言った。
「すみません。今夜はあたしだけなんです。もし、別の者をお望みでしたら連絡をとります。どうされますか?」
大人びた言葉遣い、声までも、さっきまで聞こえてた声より加工されて脳に届く。重い財布を片手に、この謎の状況を整理整頓しながら、私は考え出す。
さて、どうしようか………