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るしゅ
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雨が静かに、そしてしつこく窓ガラスを叩いていた。まるで焦れた来客の指先のように。雫は細い銀色の筋となって窓を流れ落ち、街灯の薄暗い光を反射していた。秋山は小さなアパートの古びたへこんだベッドに横たわり、軽くいびきをかいていた。部屋は薄暗さに包まれていた。隣の部屋では姉のハナが静かに眠っていた。彼女はいつも弟を待っていた。たとえ重い夜勤を終えて深夜に帰って来る時でも。
突然、ベッド脇のテーブルに置かれた携帯電話が震えた。大きく執拗な着信音が夜の静寂を引き裂いた。
秋山はびくっと身を震わせ、目を開けた。数秒間、何が起きているのか理解できずに横になっていた。
「くそっ……」
彼はしゃがれた声で悪態をつき、手で顔をこすった。
「今何時だよ……」
電話は鳴り続けていた。秋山は嫌々ながら手を伸ばし、携帯を掴んで耳に当てた。
「もしもし……」
声は眠たげで、苛立ちと疲労が滲んでいた。
「秋山、俺だ、署長だ。」
受話器の向こうから緊張した早口の声が響いた。
「夜中に起こして悪いが、緊急事態だ。」
秋山はベッドに起き上がり、一気に目が覚めた。
「何があったんですか?」
「ちょっとまずいことになってな……市役所近くの『マルイ』スーパーが強盗に襲われた。かなり深刻だ。奴ら、店に火をつけやがった。もう大火事になってる。人々がパニックで逃げ回ってるんだ。すぐ向かってくれ。パトカーは二台向かわせたが、お前にもできるだけ早く現場に来てほしい。」
秋山は息を吐き、顔を手でなでた。
「襲われたって……何人です?負傷者は?」
「まだ正確には分からん。今のところ三人か四人だ。武装していたらしい。警備員が一人、すでに撃たれてる。急いでくれ、秋山。頼りにしてる。」
「了解しました。今向かいます。」
彼は通話を切り、立ち上がると素早く服を着始めた。警察の制服を身につけ、ベルトを締め、支給拳銃に弾を込め、予備のマガジンをポケットに入れた。出る前に静かに姉の部屋を覗く。ハナは抱き枕を抱えたまま穏やかに眠っていた。秋山はそっと扉を閉め、部屋を出た。
夜は冷たく、濡れていた。雨はさらに強くなっていた。秋山はパトカーのエンジンをかけ、人気のない明るい道路を走り抜けた。十分後には現場へ到着していた。
スーパーは炎に包まれていた。火は貪るようにショーウィンドウを焼き、濃い黒煙が夜空へ立ち上っていた。人々は悲鳴を上げ、四方へ逃げ惑い、泣く者もいれば助けを呼ぶ者もいた。中には携帯で撮影している者もいた。
秋山は急停止し、車を降りると拳銃を抜いた。
「警察だ!全員下がれ!」
彼は大声で叫んだが、その声は混乱の中にかき消されそうだった。
彼は銃を構えたまま割れた窓へ近づき、慎重に中へ入った。
「両手を上げろ!全員床に伏せろ!中にいる奴は一人ずつ手を上げて出てこい!」
彼は叫びながら、荒らされた売り場を警戒して見回した。
棚は倒れ、商品は床に散乱し、空気には焦げ臭さと煙が満ちていた。秋山が前へ進んだその時、外から金属音のような大きな「カチッ」という音が響いた。
彼は素早く振り向いた。
割れた窓の前に黒いマスクの男が立ち、グレネードランチャーを彼に向けていた。
「っ……!」
秋山は短く息を漏らした。
彼は瞬時に横へ飛び込んだ。ロケット弾は彼の横をかすめ、店の奥で爆発した。凄まじい爆風が彼を床へ叩きつけ、棚が崩れ落ちた。ガラス片と炎が四方へ飛び散る。
秋山はなんとか立ち上がった。服は破れ、すでに犯人たちは逃げ始めていた。彼はすぐ後を追って外へ飛び出した。
「止まれ!警察だ!」
銃声が響いた。一発が腕に当たり、さらに二発が腹部へ突き刺さった。焼けるような鋭い痛みだった。秋山は片膝をついたが、それでも反撃した。一人の犯人が頭を撃ち抜かれ、濡れたアスファルトへ倒れ込んだ。
残りの連中は車へ飛び乗り、雨の夜へ逃走した。
秋山はスーパーの壁にもたれ込み、腹を押さえた。血が指の間から温かい筋となって流れていく。視界がぼやけ始めた。彼は近づいてくるサイレンと人々の叫び声の中で意識を失った。
……
太陽がゆっくりと昇り、郊外の病院の小さな病室を柔らかく照らしていた。部屋には静けさがあり、医療機器の小さな電子音と点滴の滴る音だけが響いていた。
秋山は目を開けた。腹と腕の痛みは鈍く、それでも絶え間なく続いていた。病室の扉が開き、署長が小さな花束とリンゴの入った袋を持って入ってきた。
「調子はどうだ、秋山?」
彼は笑おうとしながら言った。
「昨日よりは顔色がいい。医者によれば運が良かったそうだ。弾は急所を外れてた。」
秋山は窓の方へ顔を向け、静かに答えた。
「まあ……なんとか。」
署長は花と袋をテーブルに置き、ベッド横の椅子へ腰掛けた。しばらく二人は黙っていた。
「なあ……よくやった。」
ようやく署長が口を開いた。
「犯人一人は死亡、残りはすぐに確保した。でも……ちょっと問題があってな。」
秋山は彼を見た。
「何です?」
「罰金を払わなきゃならん。」
署長はため息をついた。
「署に正式な訴えが来た。お前が撃ったあの男の母親からだ。精神的損害の賠償請求だ。最低でも三万イェン。もっと増えるかもしれん。」
秋山は長い間、天井を見つめたまま黙っていた。
「俺は何も悪くない。」
しばらくして、低い声で言った。
「俺は仕事をしただけです。奴らは店に火をつけて、俺に向かって撃ってきた。俺はどうすればよかったんですか。」
「分かってる。」
署長は頷いた。
「お前は正しい行動をした。でも法律は法律だ。彼女にとっては、お前は息子を殺した男なんだ。たとえそいつが犯罪者だったとしてもな。」
署長は立ち上がり、重く息を吐いた。
「何かする前によく考えろ。今は休め。俺はお前を責めてるわけじゃない。お前は手順通りに動いた。ただ……正しいことにも代償がある時がある。」
秋山は疲れた目で彼を見た。
「分かっています。」
署長は頷き、彼の肩を軽く叩いてゆっくりと扉へ向かった。
「早く治せよ。何かあったら連絡しろ。」
彼は静かに扉を閉めた。
病室の窓の外を、一匹の鮮やかな蝶が横切った。朝日の中で一瞬だけ羽ばたきを止め、そのまま朝の空へ消えていった。
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