[涼架の才能と静かなる音楽]
若井side
俺が帰宅すると、リビングから静かなピアノの音色が聞こえてきた。
俺の家には、練習用の電子ピアノが置いてあったが、涼架がピアノを弾けるとは知らなかった
俺は驚き、音を立てないようにリビングの扉を開けた。
涼架は、俺のピアノに座り、目を閉じていた。
彼の指は鍵盤の上を滑るように動き、俺がかつて作った、元貴との思い出の曲を弾いていた。
俺は、息をのんだ。
涼架が弾くメロディーは、俺の作った原曲よりも、ずっと豊かで温かかった。
一音一音が、俺が込めたかった感情を完璧に表現している。
それは、寂しさだけでなく、希望や懐かしさ、そして何よりも、深い愛情に満ちた音色だった
涼架の指は、まるで生きているかのように、鍵盤の上を踊る。
俺は、その光景をただ見つめることしかできなかった。
涼架が、これほどまでにピアノを弾けるなんて
そして、自分の曲をこれほどまでに深く理解し表現できるなんて。
涼架の才能は、俺が知っているどんな人よりも突出していた。
俺は、まるで魔法を見ているかのように、彼の演奏に引き込まれていった。
(…こんな才能、どうして…)
(まるで、ずっと俺の曲を聴いてたみたいな… )
俺は、涼架がピアノを弾く姿を見て、強く心を打たれた。
演奏が終わると、涼架はゆっくりと目を開けた。
俺が立っていることに気づくと、涼架はハッとしたように、慌てて立ち上がった。
「わ、若井…!ごめん、勝手に…」
涼架は、顔を赤くして謝った。
「…大丈夫」
俺は、そう言って涼架の隣に座り込んだ。
そして、涼架の腕に巻かれた青いバンダナをそっと指でなぞった。
「…お前、ピアノ上手いんだな。俺の曲、弾いてくれてたんだな」
涼架side
若井の言葉は、謝罪ではなく尊敬と感謝の気持
ちに満ちていた。
僕は、若井の言葉に安心した。
そして、彼の瞳に、自分と同じ音楽に対する情熱の光を見つけた。
「俺さ、お前に出会ってから、またバンド組みたいって強く思うようになったんだ」
「今まで、元貴に悪い気がしてずっと一人で弾いてきたけど、今日のお前のピアノ聴いてそう思った」
若井の言葉に、涼架は嬉しそうに微笑んだ。
この瞬間、二人の間には、音楽という共通の言語が生まれた。
それは、僕が人間になった意味をそして僕らが出会った意味を、改めて示す出来事だった。
次回予告
[若井の心と消えた猫の影]
next→❤︎500