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「おばさんの団子楽しみだ」
「ほんと!月見は久しぶりだよね(笑)」
陽向と渚が楽しそうに笑う。
「めっちゃ昨日から張り切ってるからな…」
「ウケる(笑)」
いつものように軽口を叩きながらの帰り道。
「そういえば、天ちゃんは大丈夫?」
紅葉がこはるを見た。
「大丈夫です。……多分」
連絡も取れないままの従姉妹を思い出し、少しだけ不安になる。
「……まぁ、あの子なら……」
どこかで、妙な確信があった。
「そっか(笑)」
「それじゃあ一回帰って、夜また集合ねー!」
「遅れるなよー」
「誰に言ってるのそれ」
そう言ってそれぞれが帰路についた。
⸻
いつも通り誰もいない家の扉を開ける。
ガチャっ
「ただいま――」
「おかえりじゃ」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
そこには――
いつの間にか、部屋の中に立っている天ちゃんの姿。
「うるさいのう」
突然の叫びに、両耳を指で抑える帝釈天。
「び、びっくりするじゃないですか!!今までどこにいたんですか?!そしてどこから入ったんですか!?」
「ちょっとした用事でな」
けろりとした顔で答える天ちゃん。
「……もう……」
息を整えながら、胸を抑える。
かつてないほど心臓がバクバクしていた。
「死ぬかと思いました……」
「それより」
「この時代の食べ物は実に美味じゃの」
帝釈天の背で隠れていたテーブルの上には……
お菓子の袋が散乱していた。
「……満喫していたようで何よりです」
少し困ったように笑うこはる。
その顔を見た帝釈天は、後ろの袋からポテトチップスを一枚取り出すと、何食わぬ顔で口の中に放り込んだ。
パリッ
「なんのことじゃ?」
カバンを置き、着替え始めるこはる。
その間もずっと上機嫌の天ちゃん。
「月見、楽しみじゃな」
「……ふふ」
無邪気な姿に思わず笑ってしまった。
⸻
夕方。
雪斗の家。
「いらっしゃい」
扉を開けた雪斗と、その後ろから顔を出す母親。
「まぁ、こはるちゃん!いらっしゃい」
「今日はよろしくお願いします!」
頭を下げるこはる。
「いいのよいいのよ、楽しんでいってね」
と言い、こはるの横の少女に視線を落とす。
ぺこりと会釈をする少女。
「その子が従姉妹の…天音ちゃんね!いらっしゃい」
にこやかに迎え入れる母親。
「今日は突然すみません。よろしくお願いします♪」
「全然!こう言うのはみんなで楽しまないと♪」
そう言って微笑む。
「あ、そうだ。早速で悪いんだけど、こはるちゃん、ちょっと手伝ってもらっていい?」
「あ、はい!」
そう言って家に上がり、こはるは母親と台所の方へ消えて行く。
「…………」
「…………」
取り残された2人。
「とりあえず、中に入ろうか。飲み物でも飲んで待ってよう。」
「ありがとうございます!」
そう言い、家の中へ入って行った。
⸻
リビングでお茶を飲む天ちゃんと雪斗。
(こやつが……こはるの………)
チラッと横目で雪斗を見る天ちゃん。
「あ、そうだ。」
天ちゃんが雪斗に身体を向け、
少しだけわざとらしく聞いてみる。
「雪斗さんは、こはるお姉ちゃんのこと、どう思っていますか?」
「……え?!」
いきなりの質問に飲んでいたお茶を吹きこぼしそうになる雪斗。
一瞬、言葉に詰まる雪斗。
「急にどうしたの…?」
ニコニコ顔で見つめてくる天ちゃん。
「どうなのかなぁって思って」
「普通に……友達、だけど」
「ただの……友達ですか?」
「う〜ん……」
「昨日、こはるお姉ちゃんが喫茶店で手を握っていたので……てっきり……」
「あ、あれは紅葉のイタズラだよ」
ニヤニヤする天ちゃん。
「ふぅーん……」
「でも……」
「??」
「一緒にいるとなんだか落ち着く…というか、変な言い方だけど放っておけないみたいなのはある………かも……」
「……!」
その返答に驚き、クスリと笑う帝釈天。
「そうですか♪」
一度深く目を閉じる帝釈天。
少し間を置き、再び口を開く。
「一つ聞いてもいいですか?」
「なに?」
「もし、例えばの話なんですけど……」
「こはるお姉ちゃんがいなくなったら……どう思いますか?」
「いなくなる?」
「あ、ほら、こはるお姉ちゃんの家族は海外にいるじゃないですか?」
「それにこはるお姉ちゃんもついていく!とかってなって、ここからいなくなったとしたら……雪斗さんはどう思います?」
「ん〜……」
腕を組んで、しばらく考える雪斗。
言葉を探すように、ゆっくりと口を開いた。
「それが……こはるが決めたことなら応援するよ」
「でも……少し寂しいかな?」
「それに、会いたくなったら会いにいく。2度と会えなくなるわけでもないから。」
「……もし」
その答えに真剣な顔で最後の質問を投げかける帝釈天。
ほんの一瞬だけ、
その瞳の奥が、静かに沈んだ。
「……もし、2度と会えないとしたら?」
「ん〜」
少し考えた後、
「それでも……きっと会いにいくかな」
うまく答えになっていないと分かりながらも、笑って答える。
「そうですか……」
小さく呟き、帝釈天はふっと笑った。
「こはるお姉ちゃんは幸せ者ですね♡」
そう言いながら、
ほんの一瞬だけ――
寂しそうに笑った。
⸻
しばらくして、渚たちも合流。
「お邪魔します」
「おばさんの団子食べにきました!」
「久しぶりの月見だぁ!」
そう言いながら、ゾロゾロと家に上がってくる。
「みんないらっしゃい、こはるちゃんにも手伝ってもらってたくさん作ったから、いっぱい食べてね!」
「うわ!団子!」
「やったー!!」
「うさぎだ!」
縁側に並べてある白玉団子に目を輝かせる天ちゃん。
「これ……全部食べていいんですか」
「さすがに全部は食べられませんよ?」
わちゃわちゃとした空気。
笑い声。
ふと――
天ちゃんが、空の月を見る。
ほんの一瞬だけ。
何も言わずに。
「……?」
気づいたこはるは、首を傾げた。
⸻
月が、少しだけ高く昇る。
⸻
「あら、ちょっとごめんね」
雪斗の母親がスマホを見て、立ち上がる。
「電車止まっちゃってるみたい。お父さんこのままじゃ帰ってこれないから、迎えに行ってくるわね」
「え、大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫」
「少し遅くなっちゃうから、みんなはそのまま楽しんで。でもあまり遅くならないうちに解散するのよ?」
そう言って、家を出ていった。
⸻
少しだけ、静かになる空間。
「……あ、空いたお皿、片付けてきますね」
立ち上がるこはる。
「別にあとでいいって」
「大丈夫です。さっきお母さんに教えてもらったので」
そう言って台所へ向かう。
⸻
水の音。
食器が触れ合う音。
「……忘れておったわ」
背後から、声。
ビクッ!!
驚いて振り返る。
そこにいたのは――
帝釈天。
「……びっくりした……どうかしましたか?」
「久々の地上で、浮かれておった」
「肝心なことを伝え忘れるとはの」
空気が変わる。
「こはるよ……お主はこれから……どうするつもりじゃ?」
「どうって……」
腕を組んで壁にもたれかかる帝釈天。
「お主の願いは、前世の感謝を。そして、悲しまなくても良い。笑っていてほしいと、あの青年に伝えること。」
「………」
「……忘れてはおるまい?」
「……はい。」
「期限もあと、二ヶ月と少し……」
心臓が、跳ねる。
「その時が来れば――」
「お主の存在は――」
【消える】
「…………」
⸻
『それはただの自己満足。それを伝えたあとはどうする?』
「私はどうなっても構いません。」
知っていた。
『条件がある。それは….』
「それだけですか?」
『それでも良いなら….お主の願いを叶えよう。』
「ありがとうございます!」
でも………
⸻
「輪廻を外れた、転生の代償……」
「こればかりは……変えることはできぬ。」
「……わかっています………」
⸻
ずっと……この時間が続くと思っていた。
そんなことはないと分かっていながら……
手が大きく震える。
⸻
「今一度…………しかと考えよ」
「……はい」
その時。
キシッ
「!?」
帝釈天だけが気付いた、小さな物音。
⸻
(……気づくのが遅れたか)
物音がした方向を睨みつける帝釈天。
気配がなくなったことを察知し、会話を続ける。
「あの者たちは……いい人間だな」
「……はい」
「残された時間で……主の願いをどう叶えるのか……」
「………」
「後悔だけはせぬようにな……」
そう言い、帝釈天はその場を後にした。
⸻
(こはるの手伝いでもしようかな)
紅葉が、ゆっくりと台所へ向かう。
台所からは話し声が。
(ん?こはると天ちゃん?)
会話の邪魔しちゃ悪いと思い、物音を立てぬよう近づいていく。
「…前世の感謝………」
「……あと、 二ヶ月と少し……」
「………お主の存在は……【消える】」
(……!?)
2人の会話に動揺する紅葉。
言葉が、頭の中で反響する。
(前世の感謝?二ヶ月?え……消える?こはるが??なんで??)
静かに、その場を離れた。
⸻
玄関
動揺を隠しきれず、靴を履くのに手間取る紅葉。
「紅葉さん」
「!?」
帝釈天の声に振り返る紅葉。
「……天ちゃんどうかした?」
「今の話、聞いてましたよね」
口元は笑っているが、冷たい表情。
ゴクリ
こんなに唾を飲み込む音が響いたことがあるだろうか。
「…………」
少しだけ間を置いて。
「アニメか何かの話してたから、邪魔しちゃ悪いかなって。ごめんね、驚かせちゃって。」
その回答に、つい笑ってしまった天ちゃん。
「……ふふ」
「そうそう、漫画のお話をしてたんですよ。」
一歩、近づく。
「これはね」
その瞬間だけ。
帝釈天の顔になる。
「……結末の決まっている物語」
また一歩近づく。
「一羽の、うさぎさんのお話」
さらにもう一歩……
「だから――」
先ほどとは異なり、
優しく、
そして少し悲しそうに微笑む。
「どうか、その最後まで……」
「後悔の無い……幸せの道を歩めるよう、見守ってあげてくださいね?」
くるりと背を向ける。
「じゃあね、お姉ちゃんたちのところ、先に戻るね♪」
再び紅葉の方を向き直す天ちゃん。
小走りで横を通り過ぎていった。
「……」
紅葉は、動けなかった。
⸻
台所。
ジャー
水が流れ続ける。
「……」
手に、力が入らない。
震えが止まらない。
あと、二ヶ月……
「……私はどうしたら……」
(……どうしたらいいの……?)
今がこんなに幸せなんだって、
知ってしまったから。
知らなければよかった。
(私の願い……)
……こんな気持ちになるくらいなら……
転生なんて……
……しなければよかったのかな………
(でも、それを伝えるためには……)
(……怖い)
楽しい、はずだったのに。
涙が、止まらなくなった。