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生まれた病院が一緒。幼稚園も3年間同じクラス。
小中は学校は離れてても習い事は一緒。
ジャニーズに入ったのは少しズレていたけど同じ年で同じグループ。
高校、大学も一緒。
誰がなんと言おうと翔太と涼太は間違いなく幼馴染だ。
しかし実は翔太と涼太には、もう2人、幼馴染がいる。
こちらは幼稚園からの幼馴染の、双子のゆりとりりだ。
さすがに3歳なのではっきりした出会いなど覚えていないが、
両方の親たち曰く
「幼稚園に入れてまもなく
いつの間にやら4人でくっついていて
何をするにもどこへ行くにも一緒で
先生も困ったほどだった。」
と口をそろえて言うほどだった。
しかしそんな関係なんてたいてい成長していくにつれ
薄れていくはずなのに。
なぜだろう。
「…こんな素敵なところ、彼女とくればいいのに。」
あきれ顔で翔太を見るこの女性。
雪村 ゆり。
なかなか予約の取れないイタリアンの個室の
おしゃれな間接照明に照らされる少しうつむいた顔。
幼稚園から一緒の、双子のゆりの方だ。
「たまたま今日だけ予約が取れて彼女の都合が悪かったんだよ。」
「代わりですか。そうですか。」
嘘。
ほんとうはゆりと来たくて
友人に無理やり予約を取ってもらった。
でもそんなこと口が裂けても言えない。
だってただの『幼馴染』だから。
ため息とともにきらきらと光るシャンパンを流し込もうとするゆりのグラスを
翔太はぐっとつかんだ。
「…何?」
「飲みすぎ。強くないんだから。
送る方の身にもなれ。」
「送ってはくれるんだ?」
「一応女だから。」
「…一応、ね。」
いつからだろう。
お互い探り合うようになったのは。
いつからだろう。
一緒にいるとき少し緊張するようになったのは。
それでも一緒にいて
家も行き来したりするのに
同じ空間にどれだけいても
それ以上発展しない関係に諦めがついてきたのは。
TRRRR…
ふいにゆりの携帯が震えだした。
「あ、ちょっとごめ…」
「………」
「もしもし?あ…うん。今日はちょっとでかけてて…」
断るゆりの声に、少しだけ優越感。
多分これは相手は、『彼氏』だ。
「うん、ごめんね。
来週なら大丈夫。またね。」
電話を切ると同時に翔太はゆりの携帯を取り上げた。
「ちょ…返してよ。」
「彼氏?」
「え?」
「彼氏?」
もう1度聞き返す。
「…そうだって言ったら?」
「…はい。」
少しすねたような顔で素直に翔太は携帯を返した。
「そっちだってよろしくやってんじゃん。」
「言い方!」
私はあんたみたいにとっかえひっかえじゃないわよ、と言い返してくるが
正直ゆりの恋愛も長続きするほうではなかった。
けれどそれを口にすればこのあやふやな関係もきっと終わる。
触れてはいけない領域がふたりには存在してしまう。
「…デザート、もうすぐ来るよ。」
「…そうだね。」
なんとなく気まずくなりそうだったので
この話題はここでやめておいた。
「ここのデザート可愛いし、美味しいらしい。」
「ほんと?楽しみ。」
それでもゆりが笑うから。
今だけは、自分だけのもののように錯覚できるから。
だからもう少しだけ、この関係を続けさせてください。
誰にともなく祈りながら
翔太はこうしてこれからも
あいまいであやふやなこの関係を続けていく。
それはゆりもしかりで。
かれこれこうして10年以上、
2人はこうして過ごしていた。
そうでないと一緒にいられないことに
なんとなく胸をもやもやさせながら。