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僕は1度深呼吸をし、扉を開ける。芥川は一瞬嬉しそうな顔をし、直ぐに睨むような顔に変わった。
「なんの用だ人虎。」
ベットの上に上半身を起こしている芥川は少しだぼっとした真っ白な病院着を着ていたが袖から見える白い腕は出会った時より幾分か細く見えた。それだけでも芥川の患った病は重く感じる。
「…………芥川ッ」
無意識にも名前を呼んでしまう。
「……用がないなら帰れ。僕(やつがれ)は貴様と話している時間などないのだ。だからッゲフッゴブッゴホッゴホッ」
話している途中で芥川が吐血する。バタバタッと音を立てながら赤黒い血が真っ白な布団にかかる。
「カヒュッはぁ、はぁ、、、2度も、、、云わせるな、、用がないならッ、、帰れ、、、、」
強がっている様子にしか見えず、僕は思わず云ってしまった。
「帰らない。お前が良くなるまで僕は此処にいる。」
芥川は厭そうな顔で睨む………………かと思いきや、
「そうか。」
と云って外を見る。絶対に厭な顔をすると思っていた僕は思わず
「厭じゃ、、、、ないのか?」
と聞いてしまった。芥川は外を見たまま、
「1人でぽつんと死ぬよりましだからだ。」
と答えた。『死』という単語に思わず顔を顰める。
「…………お前は、、、死なないだろ。」
事実を受け入れられない自分の願望が思わず口をついてでる。
「僕(やつがれ)は長くて残り1週間の命だ。だから貴様も此処に来たのだろう?何を思ってきたのかは知らぬが、哀れみだと言うのなら僕(やつがれ)の前に二度と顔を見せるな。」
「………違う。僕は…………」
僕は否定をするのが精一杯だった。今にも自分の目から涙が溢れ出して止まらなくなりそうな気がした。芥川は何も答えず、只窓の外を見ていた。暫くの沈黙が続いたあと、芥川がぽつりと云った。
「……僕(やつがれ)とした決闘、覚えているか。」
「…………覚えている。」
いきなり如何したと思いながら答える。
「………期日を早めてくれないか。」
「……………!…何故。」
「僕(やつがれ)の命は長くは無い。だから死ぬ前にやりたいのだ。」
「………………駄目だ。」
僕はかすれた声で答えた。芥川はむっとした表情で
「何故」
と聞く。
「何故だ……?貴様は僕(やつがれ)と戦うのが厭なのか?僕(やつがれ)が死ねば、貴様が勝つからやりたくないのか?そうやって逃げるのか?僕(やつがれ)は
「僕は、お前が生きることを望んでいる。死なないだろ。お前は。期日まで生きて、万全の状態で全力で戦うんだよ。僕と 。だから、簡単に死ぬなんて言うなよ………!!!!」
先刻まで我慢していた涙が溢れそうになる。暫くの間何方も何も云わず、気まずい空気が流れる。其の時、芥川がポツリと云った。
「………………無花果が食べたい。」
「………は?」
「………無花果は戸棚に有る。」
「………切れ、ってことか?」
「………嗚呼。」
僕は戸棚にある無花果を取り出して切り始めた。其の様子を見ながら芥川は
「………切れるんだな。」
と少し驚いた様子で呟いた。
「………昔孤児院で切っていたからな。」
「…………昔、か。僕(やつがれ)も、昔は何でも自分でやらねば生きていけなかったから判るが、貴様も同じだったな。」
「………嗚呼。」
そこから僕達は昔のことについて語り合った。芥川が太宰さんと出会った時の話や僕が孤児院でされていた事等を。芥川と交わした言葉数は決して多くはなかったが、僕は其れで十分だった。気づいた時には4日目の消灯時間だった