放課後、いつものように公園で話していると、突然彼女が無口になった。
まずい。これは彼女が爆発する前兆。そうならないように、とりあえずなだめるしかない。それが効果あったことはほとんどなかったけど。
「映山紅さん、落ち着いて。今は何を悲しんでいるの?」
「ボクが汚れていることをだ。 夏梅だって本当は心の中で、こんな汚れた女は適当に遊んでから捨ててやればいいってどうせ思ってるんだろう?」
「遊んでから捨ててやるなんて思ってないよ。もっと言えば、君がもうそういうことを経験してるからって汚れてるとも思ってない」
「性欲解消したいだけの男に好きだと言われてコロッと騙されて、性欲解消のおもちゃにされたボクが汚れてないというのか?」
「いつもそう言ってるじゃないか。汚れてると思ったらつきあってない」
「信用できるか! 男はみんな嘘つきだ!」
「男がみんな嘘つきでも、僕だけは嘘つきじゃない」
彼女はようやく沈黙した。どうやら怒りは収まったようだ。でもそれで安心してはいけない。
「うれしいこと言ってくれるじゃないか。童貞のくせに」
ほら。
汚れてると言えばさらに発狂し、そうかといって汚れてないと言えば傷つけられる。どう答えるのが正解なのだろう? つきあいだして三ヶ月になるが、いまだに分からない。
「つまり夏梅はボクを汚れてないと思っているというより、ボクのことが好きだから汚れているとは思いたくない、ということなのだと思うぞ」
「そうかもしれないけど、どっちにしても君を汚れてるとは思ってないわけだから、小さい問題なんじゃない?」
「いや、大問題だ。夏梅がボクを好きでなくなったらボクは死ぬしかない」
すぐに死ぬ死ぬと言い出すのが彼女の悪い癖。本気で死ぬ気はないんでしょと一度言い返したら、目の前で手首をナイフでスパッと切られた。返答には細心の注意が必要だ。