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「お、大河。おかえ…ええー?!」


アートプラネッツに戻った大河に一瞬目を向けた後、2度見しながら透が驚いて目を見開く。


「ちょっ、お前、ほんとに大河か?」


すると、なんだ?と洋平や吾郎も顔を上げた。


「は?!大河、なんでまたそんなゴテゴテに攻めてんの?もしや、隣の金髪美女を落とす為に?」


「お前、急に恋愛に目覚めたのか?それにしても、二人してすごいオーラだな。えーっと、そちらの美女はどちら様?」


大河はサングラスを外し、ニヤリと瞳子に笑いかける。


「アリシア、自己紹介したら?」


瞳子は、むーっ!と唇を尖らせた。


「からかわないでください、大河さん」


ええー?!と、またもや3人が声を上げる。


「日本人?え、待って。この声、どこかで聞いたような…」


瞳子はサングラスを外してお辞儀する。


「瞳子です。皆様、お騒がせして申し訳ありません」


「と、瞳子ちゃん?!ほんとに?」


「はい。あの、今回は私のせいで皆様に多大なご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません」


「いや、待って。ビジュアルがすご過ぎて、話が頭に入って来ない」


3人はポカンとしながら、瞳子を遠巻きに眺める。


「ほんとにあの瞳子ちゃん?えっと、目のやり場に困るんだけど…」


「あ、すみません。すぐに着替えてきます。お部屋をお借りしてもいいですか?」


すると大河が、こっちだ、と隣の部屋に案内した。


「この部屋を自由に使ってくれ。トイレとバスルームはここ。冷蔵庫とレンジはオフィスにあるから」


「ありがとうございます。でもよろしいのでしょうか。このお部屋は皆さんお使いにならないのですか?」


「ああ。仕事が立て込んで、徹夜続きになる時に仮眠室として使うけど、今は忙しくないから誰も使ってない。だから気兼ねなく使って」


「そうですか。本当にありがとうございます」


大河が頷いて出て行くと、瞳子は千秋が持たせてくれた着替えが入ったバッグを開けた。


「え、ちょっと、千秋さん?」


バッグに入っていた着替えを取り出しながら、瞳子は驚いて声に出してしまう。


「どうしてこんな際どい服ばっかり…」


ボトムスはともかく、トップスはどれもピタッと身体のラインを拾う、胸元が開いたものばかりだった。


「えー、もう。どうしよう…」


取り敢えず、一番マシなオフショルダーのカットソーに着替え、ロングカーディガンを羽織った。


カーディガンの前をしっかり留めれば胸が隠れるかと思ったが、Vラインが深く、胸の下までしか合わせられない。


「うーん、これなら逆にボタンは留めない方がいいわね」


ゆったりと羽織ってさり気なく胸元を隠すようにする。


それからスマートフォンを取り出し、いつも利用しているネットショップで何着かダボッとした服を注文した。


ついでに下着や部屋着、基礎化粧品なども購入する。


「これでよしっと。明日届くから、今日一日だけなんとか乗り切ろう」


意を決して、瞳子は皆がいるオフィスに戻った。




「それで、これが今取り組んでる次回作なんだ。夏休みに開催する子ども向けのミュージアム。テーマは、水とか海にしようかなと思ってる」


パソコンを操作しながら、透が瞳子にいくつかの動画を見せてくれる。


「なるほど。綺麗な水色や川のせせらぎが、涼しげでいいですね。海をテーマにすると、魚や生き物にも広げられそうです。ほら、子ども達のお絵描きをスキャナーで映像に反映させられるでしょう?」


「ああ、確かに。あのコーナーは海をテーマにした方が良さそうだね」


「はい。子ども達の絵で、海が色んな生き物でいっぱいになるのを見てみたいです」


「ウーパールーパーとかも泳ぐかもね?」


「あはは!楽しそう」


明るく笑う瞳子に安心してから、大河はネットニュースを密かにチェックする。


敢えて瞳子にテレビを見せないようにしながら、記事の反響を調べていた。


やはり今一番人気のイケメンアナの熱愛発覚とあって、ネットでは多くのコメントが飛び交っている。


週刊誌の記事では、もちろん瞳子の実名は伏せられているし顔にもモザイクがかかっているが、一般人のSNSでは、既に顔がはっきり分かる写真が名前と共に挙げられていた。


『倉木アナの彼女、これだよね。ホーラ・ウォッチのイベントで谷崎 ハルとトークショーしてた間宮 瞳子って人』


『なんかやたら背が高くて、胸もデカそう。エロいなー。しかもハーフっぽい?羨ましいぞ、倉木!』


『えー、倉木アナってこんな趣味なの?もっと清楚で可愛らしい子が好きなのかと思ってたー。なんかガッカリ』


『この女がたらし込んだんじゃないの?派手で軽そうだもん』


『だよな。爽やかなイケメンアナも、お色気にコロッといっちまったか』


次々と書き込まれるコメントに、大河はギリッと奥歯を噛みしめる。


(何も知らないくせに、好き勝手書きやがって)


今、自分の目の前にいる笑顔の瞳子は、およそそんなふうに言われる子ではない。


(こんなコメントを彼女に見せる訳にはいかない)


なるべく気を逸して仕事の話をしようと、大河はスマートフォンの画面を閉じた。





デリバリーのランチを皆で楽しみ、午後の仕事に取り掛かろうとして、ふと大河は瞳子の様子に気づいた。


(なんだかまぶたが重そうだな。あ、そうか。夕べ寝てないのか)


昨夜、自分はデスクに突っ伏していつの間にか眠ってしまっていたが、瞳子はそっとここを抜け出していた。


恐らく一睡もしていないのだろう。


「しばらく隣の部屋で休んでこい」


ぶっきらぼうに声をかけると、瞳子は、でも…とためらう。


「いいから。特にやってもらう仕事もないしな。なんだったら、バスルームの掃除でもしてくれるとありがたい」


そう言うと瞳子は、分かりましたと素直に部屋に向かった。


ついでにシャワーも浴びれるだろう。


その後少し眠ってくれればいいが。


そして瞳子がいなくなったオフィスのソファに、4人は真剣な表情で集まった。


「週刊誌の反響はどうだ?」


大河が小さく切り出す。


「呼び出し音をサイレントにしてあるが、電話がひっきりなしにかかってくる。留守電設定にして、ご用の方は携帯番号におかけくださいと入れてある。取り引き先の人なら、俺達の仕事スマホの番号は知ってるはずだからな」


洋平がそう言うと皆も頷いた。


「あと、ミュージアムにも問い合わせの電話が多いらしい。そっちは留守電にする訳にはいかないから、これから俺が音声案内をセッティングしてくるよ。対応し切れない質問は、俺のスマホに転送するように設定する」


「ああ、すまないな洋平」


「大丈夫だ。それに現地スタッフの話だと、倉木アナ効果でミュージアムの来場者も一気に増えてるらしいぜ?なんでも『あの二人が座ったベンチ』とか言って、外のベンチがフォトスポットになってるらしい」


すると透がおかしそうに笑う。


「あはは!そんなことになってるんだ。面白いね」


「まあな。人の噂も75日って言うし、俺達には大きな影響はないだろう。だけど瞳子ちゃんは大変だな」


「ああ」


しばし4人は黙り込む。


やがて透がぽつりと呟いた。


「瞳子ちゃん、倉木アナとどういう関係なんだろう」


大河はゆっくりと口を開く。


「彼女は、記事の内容は事実無根だと言っていた。倉木アナの恋人ではないと」


「だけど、それならどうしてレセプションパーティーを二人で抜けたの?外のベンチに二人並んで、何を話してたの?倉木アナは瞳子ちゃんに自分のジャケットまで貸してさ。この記事がここまで騒がれるのは、みんなそれが気になってるからだと思う」


重苦しい沈黙が広がる。


今まで黙っていた吾郎が、低い声で話し始めた。


「瞳子ちゃんが倉木アナと以前から知り合いだったのか、もしくはあの日に知り合って意気投合したのか。どちらにせよ、ジャケットを彼女に掛けた倉木アナは、瞳子ちゃんに好意を寄せているように見えるな。この騒動は、倉木アナが何らかのコメントを出すまでくすぶりそうだ」


「そしたら瞳子ちゃんは、それまでずっとマスコミに追いかけられるってことか?たまったもんじゃないな」


そう言うと透はソファにもたれてため息をつく。


「倉木アナがコメントを出すとしたら…。SNSに倉木アナのアカウントあるか?」


洋平の言葉に、皆は一斉にスマートフォンを取り出した。


「あ、1個あるね。うわっ!炎上してる」


皆も同じ画面を見て顔をしかめる。


倉木の最後の投稿は、アートプラネッツのミュージアム、プレオープンイベントの様子を書いたものだった。


『今までにない、新たな世界が体験出来る素晴らしいミュージアム!見て、触れて、感じて、子ども達も大いに楽しんでいます』


その記事に、矢継ぎ早に書き込まれるコメント。


『倉木さんよー、このあと彼女とよろしくしちゃったんですかー?』


『仕事で行ったの?それともデート?』


『見て、触れて、感じてってwww』


『何やってたんですか?やらしー』


『あーらら。爽やかなイケメンアナがこんなふしだらな穴だったなんてね』


それ以上読むのは耐えられず、4人は画面を閉じた。


「くそっ!酷いこと書きやがって」


「誹謗中傷ってやつだな。匿名で書かずに、顔見せて名前名乗って堂々と言ってみろ!ってんだ」


「倉木アナがお前に何かしたのかよ?単なるストレス発散に軽々しく人を傷つけておいて、しれっとしてる。許せんな」


忌々しそうに言う3人に、大河は黙って考え込む。


「それで大河。これからどうするつもりだ?」


3人に注目されて、大河はおもむろに顔を上げた。


「今はとにかく彼女を守る。マスコミの接触だけでなく、心無いコメントからもな。ニュースやネットも、なるべく彼女の目には触れないようにしてくれ。それから夜は交代でここに泊まって欲しい。彼女のそばには、いつも誰かがいた方がいいと思う。それと食事の買い出しも頼む」


分かった、と3人は頷く。


「あとは倉木アナがどう出るか、だな。彼女に連絡してくるかもしれないし。二人がどういう関係か分からないから、気にかけておくしか出来ないが」


「そうだな。とにかく瞳子ちゃんが心穏やかに過ごせるようにしてあげよう」


ああ、と皆は頷き合った。





「ごめんなさい!私ったらうっかり寝ちゃって…」


午後3時を過ぎた頃、瞳子が隣の部屋から慌てて駆け込んで来た。


「大丈夫だよ、よく眠れ…」


壁際のカウンターでコーヒーを淹れていた透が顔を上げ、瞳子の姿を見て絶句する。


寝起きで急いでいたのか、カットソーの胸元が乱れて谷間が見え、カーディガンも前がはだけている。


足元もヒールが高いパンプスの為、透よりも瞳子の方が背が高くなり、すぐ目の前に胸の谷間が迫っていた。


ガタッと後ずさった透は、カウンターに背中をぶつけてコーヒーをこぼしそうになる。


「わっ、熱っ!」


跳ねたコーヒーが手にかかり、思わず透は顔をしかめた。


「大変!透さん、すぐに冷やさないと」


瞳子はカップを奪うと透の手を握り、シンクの水を流した。


「この辺ですか?」


「え、あ、うん」


流水に手を晒して冷たいはずなのに、透は身体が熱くなる。


少し身を屈めている瞳子の胸元が、大変なことになっていた。


(やばい、見える。見えそうで見えない。もう少しで見えそう。いや、見るなよ。見てはいけない)


『見る』の色んなバリエーションが頭の中を駆け巡る。


「透さん、もう熱くないですか?」


「いや、かなり熱い」


「え、そんなに?もう少しこのままの方がいいかな…」


「いや、離れたら冷えると思う」


「そうなんですか?」


「うん、ありがとう」


怪訝そうな瞳子に礼を言って、透はその場を離れた。


(はあ、やばかった。今のはマジでやばかった。どうしよう、俺。身が持つかな?いや、瞳子ちゃんだと思うからいけないんだ。彼女は金髪の、そう、アリシアなんだ。そう思えばまだ落ち着ける)


タオルで手を拭きながら、透は心の中で独りごちた。





ピコン!とメッセージを受信して、大河はさり気なくスマートフォンを手に取る。


なぜだが赤い顔の透と一緒にパソコンの前に座っている瞳子に目をやってから、そっとメッセージを確認した。


見ると、1時間前に出かけた吾郎から2枚の写真が届いている。


大河は吾郎に、千秋の事務所の様子と、千秋から聞いた瞳子の自宅マンションの様子を見てきて欲しいと頼んであった。


届いた2枚の写真は、どちらも大勢のマスコミが写っていて、建物の入り口が確認出来ない程だった。


(ざっと見ても30人はいるな)


これでは当分、瞳子は事務所にも自宅にも近寄れない。


大河は、Thank you!のスタンプを押して画面を閉じると、再び倉木 友也のSNSを確認してみた。


本人の新しい投稿はなく、誹謗中傷と言えるコメントだけが大量に増えていて心が痛む。


(そう言えば、倉木アナの番組ってどうなってるんだろう)


詳しくはないが、確か彼は土曜日のスポーツ番組を担当しているはず。


他には、夕方のニュース番組でリポーターとして出演しているのを見たことがあった。


(リポーターはしばらく控えるだろうな。スポーツ番組はメインMCだから、簡単には休めないか。そこで何かコメントを発表するかも?)


今日は火曜日。

土曜日までは4日ある。


(テレビ局が火消しに動いてくれればいいのに)


そう思ってホームページを見てみたが、それらしき記載は見当たらなかった。


そうこうしているうちに夕方になり、吾郎や、ミュージアムのフォローに行っていた洋平もオフィスに戻って来た。


「夕食も何かデリバリー頼もうか。何にする?」


透が皆に声をかける。


「んー、俺、中華が食べたい」


「おっ、いいな。オードブルで頼むか?」


「そうだな」


吾郎の案に皆が賛成し、透は最後に瞳子を振り返った。


「アリシアも、それでいいかい?」


…はっ?!と、皆は鳩が豆鉄砲食ったような顔になる。


「透、なにその安っちい海外ドラマの吹き替えみたいな口調は」


「ほんとだよ。ハイスクールなんとかって学園ドラマの、おちゃらけキャラかよ?」


瞳子も困惑しながら苦笑いを浮かべている。


「まあまあ、いいってことよ。じゃあ中華で決まりな」


透はスマートフォンでサクサクとオーダーを済ませた。

極上の彼女と最愛の彼

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