テラーノベル
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書類を進める
カキカキと紙の上でペンを走らせる音とチクタクと時計の針が進んでいく音が部屋中に鳴り響く
部屋には山積みになっている書類が1、2……あの時の枚数とは桁違いの量となっている
今ではあの時の風景が羨ましく思い、何度も何度も夢に出てくる
…あれ、あの時ってなんやっけ……
また何か忘れたんか?俺は
忘れて……あれ…なんだっけ、俺の名前…何もかも分からなくなってきた
こういうときによく俺は爪を噛んだり髪を引っ張ったり皮膚を傷つけたりする
悪い癖だってわかってる、分かってるんやけどやめられないんよ
だって大切なナニカを忘れてる無能なんて要らんやろ?
正さないと、正さないと見てくれない
認めてくれないし、見向きもされない
有能は無能になってはダメなのだ、だから自分を奮い立たせるよう追い込む
そうしたら全部上手くいったから、今日も昨日も今までも
……今まで、も……
うまくいった、から……だからこれでみんな見てくれ…あれ…
もうよくわかんなくなってきた。
自分はなんのために此処に居るのかも、” あの時 ”というものが分からなくなってきた。
俺のそばに居てくれて…俺を認めてくれて…俺を支えてくれて……あの時の変な感覚ってなんなんや
誰かが、俺をちゃんと見てくれて…有能じゃない無能の部分も見てくれ、てて…
『 おい無能、時間だ 』
「 あ、…はい。 」
呼ばれた。
みんなのストレスが解消することを目的としたこの昼間の時間
俺はそのサンドバッグ要員、皆のストレスを晴らさなければいけない、俺だけがこの苦しみを抱えれば良い
また痛い思いをしなければいけないが
……痛い…あぁ、それすらも分からんくなってきた。
部屋に出る前、壁に張り付いている鏡に視線を向ける。
「 ……ははッ笑 」
そこに映っていた自分の顔は
「 醜いな…笑 」
非常に醜く、目を逸らしたくなるほど無様な姿だった。
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ガチャ……バタンッ
扉を閉める音が部屋中に響く
あの地獄のような時間は終わった
傷だらけのまま廊下を歩いても誰も見向きもせず、空気のような扱いになる
ぶつかったらぶつかったで怒られてまた殴られる
理不尽な世の中だ、本当に
また鏡を見る。
あの時間が来る前もひどい顔だったのに今は更に酷くなっていて汚らしく、吐き気がするほど気味が悪かった
思わず顔を隠したくなるほど、
……せや、覚えてはいない記憶であるあの時につけていた豚の被り物をつけよう
そう思って荷物を漁る
何故かその被り物だけ回収されておらず、躊躇もなくその被り物を頭につける
するとどうなるのだろうか、あまりにも醜かった顔が隠れたではないか
誰にもあの気味の悪い顔を見せることもないし、俺の顔を見られることもない。
どちらもWin-Winじゃないか、w
「 なんで元からこうせんかったんやろ…w 」
そう呟いてまた書類を手に取り、仕事に没頭していく
窓から差し込む太陽の光は全く無く、部屋は明かりが灯らない____暗いまま作業を進める。
今の俺に光なんて要らない、そんな眩しくて手を伸ばしても届かないものを気軽に使うような、
そんな哀れな者でもなんでもないから。
『 〜〜〜…!!!〜〜〜〜、! 』
……なんでやろ
覚えてもない知らない記憶なのに、金髪で……太陽のように何処か眩しくて、綺麗で、
何処か砕け散りそうな強度が弱い宝石のような、手を伸ばしたくなるような輝きを持っている貴方は誰?
なんでこんなに醜くて独りぼっちで、無能の俺に話しかけてくるんや?
アンタと俺では住む世界が違うじゃないか。
これはただの幻覚?それか夢?
でもなんで声が聞こえるんや…?
あんたは誰なん?
こんなに汚いおれに手を伸ばしてくれるやさしいアンタはだれなん?
「 ……ぁ、 」
意識が戻った時、書類の半分が終わっていて窓から見える景色は闇夜と国民が苦しんでいるままの街が
視界に映った。
…今日も徹夜やな、そう思いながら書類を着々と進めていく。
少し肌寒く感じる。
そう思って咄嗟に自分の首元に手を伸ばしてしまう、何もないのに
元々首元に着飾ってあったものはなんなんだろう、そう疑問に思いながら窓から差し込む月の光を眺める
なんだろ、あの闇夜に溶け込むような人物が記憶の片隅に居る
お前も誰なん、さっきからどいつもこいつも覚えてないやつらばっかり
記憶に残っとらんのに、脳が知らないと否定しとるのに、本能が、体が懐かしさを感じさせる
誰なん…?こいつもあいつも、お前も
もうなんも分からん、この俺は誰なん?知らん俺が本当の俺だとしたらこの俺は偽りなんか?
俺は一体何者なん?
何故か頬に涙が伝っていく。
悲しくなんてないのに、寂しくなんてないのに勝手に涙がポロポロと流れていく
俺は、どうしたらええん?
何をしたら正しい道に進めるん?
有能でいればええん?
無能のまま消えたらええん?
……あぁ、そっか。
何も分からんこんな無能は要らんやん、忘れてた
「 ……しね、 」
しんじまえ、こんな俺なんか
全部思い出した。
アンタも、アイツも、どいつもこいつも、全員、全部思い出した。
大事な奴らを忘れるような無能なんか必要ないやろ
「 ……せや、 」
「 全部居なくなればええんや。アイツラの害虫になる奴らは全員 」
全部滅べば良い
アイツラの足枷になるものは全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部ぜんぶ
全部!!!
居なくなれば良い
そしたらアイツラもハッピーエンド。はは、ええやん俺
こんな無能でも出来ることあったやんか。
思ったことはすぐに行動するべし
即座に何故か部屋に置いてあった油をばら撒く
水のようにばら撒いていって、この哀れな馬鹿どもが寝てる間にばら撒いていく
そしてマッチを数本取り、火を付ける。
「 …全てはMein Führerの為 」
「 燃えて尽きてしね。 」
そう一言言い放ち、俺はマッチを手から離す。
重力に逆らって落ちていくマッチは良い眺めだった。
俺は被り物を被ったままその場を去っていく。
持ち物なんて必要ない、こんな醜い顔を隠せる被り物があれば良い
俺の後ろでボウッと燃え上がる炎はあまりにも綺麗だった。
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gr「 ……彼奴を助け出す方法は見つかったか? 」
os「 何も、 」
gr「 そうか… 」
バンッ
ut「 はぁ、はぁッ…… 」
kn「 お、d先生どうしてん! 」
ut「 い、いやッ……良いか悪いか分からんお知らせや 」
【 先日、世界で話題の■■■国が夜中に炎で燃え、奇襲を仕掛けたA国に滅ぼされたそうです。 】
【 国民はあまりにも過酷な暮らしをしており、軍と貴族だけがーーーーーーーーー、ーーーーー。 】
ut「 あ、あのッ………tnちが居ったって言ってた国が、 」
ut「 何故か分からんけど滅びてん、…ッ 」
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「 …はー、ほんま全員無能ですわ 」
「 あんなんで国が動いとるって思うと反吐が出るわ、うぇ 」
「 ……あの人らには会えんけど、 」
コメント
2件
、 美味しかったです
㌧ チ かっ くい 〜 !! 全員 の 喋り 方 が 自然 で 読み やす い です ! 更新 ありが とう ござい ます !! !