コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「…やだ」
「もう。ほんと頑固ですね」
諒真はそういった後、腕の切り傷の血をズッと啜った。
「諒真…何して…んだ」
諒真は俺が戸惑っているのを気にも留めず、口に含んだ血を俺の口へ移す。
「んっ…」
口移しされた瞬間、諒真の体温と鉄の味が混ざって、何かがぷつんと切れた。
その血を飲み込み、諒真の口が離れた瞬間、俺は諒真の首元に噛み付いた。
そしてそのまま、血をゴクゴクと飲んだ。
「…そうです。それでいいんですよ」
諒真が少し辛そうにそう言う。
(…諒真、痛いよね…早く止めないと…)
そう思ったのに、体が言う事をきかなかった。止めようと思っても止まらない。今はただひたすらに血が欲しかった。
「…瞬さん。そのままもっと飲んでください。俺は大丈夫ですから」
″俺は大丈夫ですから″
その一言で、俺の中の熱が一瞬で冷めた。俺はパッと諒真の首元から口を離す。
「あっ…ごめんっ、諒真。大丈夫?」
「…大丈夫ですよ。もういいんですか?」
そう言う諒真の腕を俺は見る。腕からはまだ、血が出ていた。そして、明らかに顔色が悪い。
「…何が大丈夫だよ!こんなに血が出てるのに…!」
俺が怒鳴るようにそう言うと、諒真はふふっと笑う。
「…こんなの、どうってことないですよ。…瞬さんこそ、もう大丈夫なんですか?」
諒真は少し苦しそうにそう言う。
「俺はもう大丈夫だから。とにかくここを出よう」
俺は立ち上がり、ドアへ向かう。ドアノブを回して引いてみるが、鍵がかかっているようで開かない。
俺はドアをドンドンと叩く。
「開けてください!諒真の命が危ないんです!」
俺はドアの向こうにそう叫んだが、返事はなく、人気はないようだった。
(どうしよう…このままだと諒真が…)
そう思って振り向くと、諒真は横になっていた。
俺は慌てて駆け寄る。
「諒真」
「…なんですか」
諒真はか細い声でそう言う。意識が朦朧としているのだろうか。俺の心臓がバクバクと鳴る。
「絶対死なないで」
「…大丈夫です…俺は死なないですよ」
諒真は説得力のない声でそう言う。
「…待ってて」
俺は諒真にそう言って再びドアに向かう。そしてドアをドンドン叩いた。
「開けてください!お願いします!」
ドアに向かってそう叫ぶが、先程と同様に何も起こらない。俺は諦めず、ただ叫び続けた。
少しして、遠くからパトカーと救急車のサイレンの音が聞こえた。こちらに近づいてきているようだ。
(誰か気づいてくれたのかも…!)
俺は諒真の元へ駆け寄る。
「諒真、今助けが来てくれたかもしれないから、もう少しだけ頑張って」
「…よかった。これでまた…瞬さんと…」
そこで言葉は途切れ、諒真は目を閉じた。
「諒真?」
そう呼びかけるが、返事がない。
「諒真!…諒真!目を開けて!」
俺はそう叫んだが、諒真は目を閉ざしたままだ。
その時、後ろの扉の方から複数人の足音がする。そして、扉の向こうから声がした。
「誰かいますか?」
俺はそれを聞いてドアに向かって叫ぶ。
「います!助けてください!怪我人がいるんです!」
「今開けますから、安心してくださいね」
ドアの向こうからそう聞こえた後、扉が無理やりこじ開けられる。扉が開き、人が入ってきた。警察だ。
「もう大丈夫ですからね」
そう言う警察の後ろから担架を持った人達が入ってくる。そして、医者らしき人が諒真の状態を見る。
諒真は担架に乗せられ、運ばれてく。そして、諒真は救急車に乗せられ、病院に運ばれた。俺は警察の事情聴取を終えた後、諒真の元へ向かった。
諒真のいる病室は、心電図の電子音だけが、静かな病室に響いていた。
俺はベッドの脇に座り、諒真の手を握る。
「…諒真、ごめん。俺のせいで…」
(あの時、諒真のことを信じてすぐに血を飲んでたら、こんなことにならなかったかもしれないのに…)
俺は罪悪感に駆られながらも何も出来ず、ただ諒真の手を握り、目を覚ますのを祈るしかなかった。
あの夜から、どれくらい時間が経ったんだろう。外はもう、真っ暗になっている。
(このまま目を覚まさなかったらどうしよう…)
俺はそう不安になる。
「諒真、お願いだから目を開けて…」
俺は諒真の手をぎゅっと握りながらそう言った。けれど、諒真はずっと目をつぶったままで、目を覚ましてくれない。
「諒真」
そう言う俺の声が震えた。目からは涙も出ていた。俺はそのまま、しばらく泣いてると、諒真の目がゆっくりと開く。俺は慌てて呼びかける。
「諒真!俺だよ、分かる?」
「…分かりますよ。俺の大好きな人です」
諒真はそう言ってぎこちなくもニコッ笑う。俺は安堵し、また涙がこぼれた。
「何泣いてるんですか」
「だって…もう目覚まさないかと思ったから…」
俺が泣きながらそう言うと、諒真はそっと俺の顔に手を差し伸べ、俺の涙を拭う。
「言ったじゃないですか。俺は死なないですよって。瞬さんのこと、1人にしたりしないです。だからもう泣かないでください」
「…わかった」
俺は涙を拭って立ち上がる。
「お医者さん、呼んでくるね」
そして診察が終わり、医者の話を聞いた。諒真はしばらく入院が必要とのこと。しばらく入院すればいつも通りの生活を送れるらしく、俺はホッと息をついた。医者が部屋を出ていくと、ベッドに座っていた諒真が俺を呼ぶ。
「瞬さん」
「なに?どっか痛い?」
「いや、違います」
「じゃあどうしたの?」
「ただ、また瞬さんとこうやって話せるのが嬉しくて」
諒真はそう言ってニコッと笑う。
「…なんだよそれ」
いつもの調子の諒真に安心しながらも、俺は少し照れてしまう。そんな俺を諒真はもう一度呼ぶ。
「瞬さん」
「…なに?」
少し間を置いて答えると、諒真は自分の口を指さしながらニコッと笑う。
(もしかして…)
俺は諒真の顔に自分の顔を近づける。1度目を逸らしてしまったが、もう一度諒真と目を合わせた後、諒真の口にそっとキスをした。
口が離れた瞬間、恥ずかしくなりパッと顔を離す。
「…病み上がりのくせに欲求不満かよ」
「でも、瞬さんだってしたかったんでしょ?素直にしてくれましたし」
諒真はそう言って満足そうにニコニコ笑う。
「ま、まぁ…そうかもな」
俺がそう言うと、諒真は少し驚いた表情をした後、嬉しそうに笑う。
「瞬さんが素直だ」
「俺もう、自分の気持ち隠さないって決めたの。だから…」
そこで1度止まり、俺は諒真の目をまっすぐ見る。
「だから、これからはちゃんと素直な俺でいるから」
「ほんとですか?」
「うん。今から証明するね」
俺がそう言うと、諒真は不思議そうに俺を見る。そんな諒真に俺はそっとキスをした。
「諒真、好きだよ。これからもこの先もずっと、諒真のこと大好きだよ」
俺がそう言うと、諒真は驚いた表情をした後、ニコッと笑って言う。
「俺も大好きです。これからもこの先も」
そんな諒真を俺は呼ぶ。
「諒真」
「なんですか」
「やっぱり…諒真の血が飲みたい」
俺がそう言うと、諒真はクスッと笑う。
「なんですか、それ」
「諒真の血はすごく美味しいから」
「そうですか?それなら、いつでもいくらでも飲んでください」
「じゃあ、いつでも遠慮なく」
俺がそう言って微笑むと、諒真は少し照れたように笑い、俺の頬を撫でた。
「ねぇ、瞬さん」
「ん?」
「俺の血も、俺の全部も、ずっと瞬さんのものですよ」
「俺の全部も、ずっと諒真のものだよ」
そう言いながら笑う2人の笑い声が、白い病室にやわらかく響いた。