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怖がりな🌵を🌶が連れ出して2人で日常から逃げてみた話。少し暗めのお話です。
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「という事でね!また次の配信で、お会いしましょう!」
コメント欄がいつもの様にスタンプで埋め尽くされた。
暖かいな、沢山の人達に応援してもらえて、好きでいてもらえて。
でも俺は強欲だから、それだけじゃ心に空いた穴は満たされないらしい。
不安になっちゃうんだ。こんなに好きでいてもらえても、冷めて離れてく人は沢山いて。何年も見てくれてる人も、新しく見てくれてる人も。いつかは離れていくと思うと怖くなる。むしろ最初から俺を見ないでくれとまで、思ってしまう。
きっと俺は、怖がりなんだろう。誰よりも。
いつも通り配信を終えたのは深夜。夜が深まり、世間が静まった頃。
夜って、心が寂しくなる。良くない事を考えて、マイナスな気持ちになる。一人でいると辛くなっちゃうから。自分を騙す為に、夜に配信をするようにしている。
気付かぬうちに限界が来ていたらしい。
いつもの様に配信を付けようとしても上手く手が動かない、まるで辞めろと、手が意志を持ったみたいに。次第に身体の震えが止まらなくなった。
まだ出来るって、俺なら大丈夫だって信じたかった。だって俺はいつも元気でうるさくて、どう見たってこんな弱い奴じゃない。見てくれてる人達に、絶望されたくない。
そんな一心で、無理やり配信をつけた。
元よりやる予定だったゲームを起動して口を動かした、つもりだった。
上手く、口が動かなかった。
「あー…えっと」
こればっかり。言葉が喉に詰まって上手く喋れない。手の震えだって未だに収まっちゃいない。だから操作だって覚束無い。
コメント欄はそんな俺を隠すように笑いが絶えなかった。俺があえて雑にやっていると思っているんだろう、でもそう思ってくれていた方が俺としては助かる。
「いや〜流石にバレたか笑 んじゃ本気出すわ!笑」
なんて、言ったはいいものの。何も上手くはいかなかった。指が動かなくて操作も上手くできないせいで次第にコメント欄が不穏な空気に包まれた。
“え、大丈夫?”
“さっきのもガチのヤツ?”
“これも嘘?”
心配する人、困惑してる人、疑う人。
どうしよう。だって俺は、うるさくて元気でゲームもそれなりにできる。それでやってきたのに。どうして。
呼吸が安定しない。不規則な呼吸を繰り返し始め、やがて過呼吸を起こし始めた。
ピコンっ
そんな時だった。何やら音がしてPCの画面に目を向けたらそこには“たらこ”の文字があった。
つまりたらこが俺に通話をかけている。どうして?配信中なのは知っているはず、そんな時にたらこがわざわざ通話掛けてくるなんて有り得ない。何かあったのかと心配になって思わず反射的に通話の開始ボタンを押した。
「あ!ぐちさん?聞こえるー??」
“えったらちゃん!?”
“なんでなんで!?”
コメント欄はたらこの登場により不穏な空気から一変した。それに対する安堵と、たらこに対する疑問があった。
「え、と…どうした?てか配信中なんだけど…」
「なんも無いけど〜ぐちさんとゲームしたくなった、みたいな?」
「…ふは、なんだよそれ」
特に何かあったわけでもなく、ただゲームがしたかった。そう告げるたらこを見て心が落ち着いた気がする。話しているうちに不規則な呼吸も落ち着き、手の震えも落ち着いていつもの調子を取り戻した。楽しく、うるさくゲームをして気が付けばもう深夜の二時。そろそろ辞めるか、と通話を切って解散した。
「じゃ!また次の配信で」
いつもの挨拶をしては配信を切る。その瞬間、どっと疲れが来たのか自分でもよく分からない虚無感に襲われた。
楽しかったはずなのに、なんで。
訳も分からないまま俺はぼうっと“配信終了”と書かれた画面を見つめていた。すると画面が切り替わり、そこにはまた“たらこ”の文字があった。
すまん、たらこ。今は話せそうにない。俺はすぐさま通話を拒否してごめん、とメッセージを送った。
その数分後、たらこから返信が来た。
“2人で逃げちゃおうよ”
この一言だけだった。その一言が、今の俺の心に響いた。でも逃げるって、どうやって。どこに。いつまで。リスナー達は、限界のみんなは、配信は。そんな疑問が何個も頭の中を巡った。正直ただの戯言のように思えた。何となく言ってみた言葉、そんなもんなんだろうと思いながら。もう何かを考えるのもしんどくなって“いいよ”とだけ送ってそのまま眠ってしまった。
すぐに返信が来たような気がするが、もう目を開ける気力もなかった。
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ピンポーン
インターホンが鳴った。何も頼んでいないしこんな朝からなんだよ、と渋々インターホンを確認した。
そこにはたらこが立っていた。何やらでかいリュックを背負って早く開けてよ〜、とうるさかった。訳も分からず仕方なく家の中に招き入れ、何しに来たんだよと問いかけた。
「え?もしかしてメッセージ見てない?迎えに行くねって言ったじゃん」
「は?」
俺は慌ててメッセージを確認した。そこにはちゃんと“じゃあ明日迎えに行くから待ってて”と返信が来ていた。
「…マジかよ」
「マジだよ。早く準備してー。あとお茶ちょうだい、喉乾いた」
「はいはい」
今から逃げるとは思えないくらいいつも通りののんびりした会話だった。俺は実感も湧かないまま、どれぐらい逃げるのかも何も知らない状態で適当にボストンバッグに荷物を詰め込んだ。
準備は意外とすぐ終わって数十分後には出れる状態にまでなった。たらこに聞けば行く場所は決まってないしいつまで逃げるのかも決まってないらしい。とにかく遠くに行こうとだけ。もしかしたらもうここには戻ってこないかもしれないし、数日後には戻ってきてるかもしれない。逃避行なんてそんなもんでしょ?とたらこは言った。まあ、そうだけど。と不安ながらに返事を返した。
「じゃあ行こっか」
「うん」
それから俺たちの逃避行が始まった。