旅行中のつづきです。一応前のお話から内容は続いていますが、それぞれ単発で読んでも大丈夫かと思います。
叶side
『』叶
「」葛葉
窓から差し込む白い光で目を覚ます。
横を見ると僕の右腕にしがみつくようにして寝ている葛葉。
昨日のことを思い出して自然に頬が緩む。
・・可愛かったなぁ、昨日も。
僕は葛葉を起こさないようにそーっとベッドから出て窓から外を見る。こんこんと降っていた雪はいつの間にかやみ、暖かな光が雪景色を照らしている。
静かに外へのドアを開けて朝の露天風呂へ乗りだす。気温はまだ低いが雪がやんでいるせいか昨日よりはまだ暖かい。
ちゃぽん
『ふぅぅううううう』
思わず声が漏れる。最高の景色に最高の温泉、部屋に入れば愛しい葛葉が寝ている。
『・・幸せだなぁ。』
まだまだ何日もある葛葉とのバカンスを想像して1人で笑顔になってしまう。
十分あったまってまた部屋に戻る。
まだ葛葉は寝ているだろう。
そう思い静かに扉を開けると、いつの間に起きたのか掘りごたつから頭だけだして何かを見ている葛葉がこちらを向く。
「あ、帰ってきた」
『葛葉、起きてたの?早いね』
「ん、なんか目さめた」
『もしかして僕が起こしちゃった?』
「いや、起きたらもうお前いなかったよ、なぁ、これ行かね?」
そう言いながら葛葉は紙を差し出す。
部屋に置いてあった周辺の観光地図。少し歩いたところにメインの温泉街があり、それなりに店も並んでいるようだ。
『あ、いいね、温泉街歩きたい』
「叶こーゆーの好きそーだよな」
『うん、僕食べ歩きとかしたい』
「え、そんなんできんの」
途端に目を輝かせる葛葉。
『温泉街といえば食べ歩きでしょ』
「や、俺そもそも温泉あんま行ったことねーあら、、、」
そう言い頭を搔く葛葉。
・・そうか、温泉自体がそもそも、、
僕は少し驚きながらも、葛葉のはじめての思い出の傍に自分がいることに嬉しくなる。
『じゃあ、朝ごはん食べたらぶらぶらしよっか』
(朝食後)
「・・うまかったー」
『和食と洋食選べるのすごくない?しかも毎日違うってさ』
「・・もうここに住もーぜ」
『住むかぁ、機材持ってくるか』
そんな冗談を言いながら葛葉と2人洗面台で支度をする。葛葉はうつ伏せで寝ていたからか前髪がにわとりみたいになっている。
そんな自分を鏡で見て呆然とする葛葉。
「・・俺シャワー浴びるわ」
『ん、その方がいいww』
葛葉が部屋のシャワーを浴びている間、僕は着替えてヘアセットをする。
『だぁあーー、っぱりしたぁ』
浴室から出てきた葛葉がフルフルと頭をふる。
水しぶきが飛び散り僕の顔にかかる。
「あ!わりぃ!」
『・・なぁお前その癖どうにかしろって』
僕は半分呆れながら目の前の濡れた子犬のような葛葉を見る。
葛葉は八重歯を覗かせてわりぃと言いながらドライヤーをしている。
・・まぁかわいいからいいけど。
結局葛葉には甘々な僕も悪いんだよなぁ。
そう思いながら葛葉と並んでまたヘアセットの続きをする。
「っしゃ、行こーぜー」
『葛葉、マフラー』
「あ、さんきゅ」
玄関で靴を履き、部屋のドアを開ける。棟自体が別なので本当にほかの滞在客とは全く顔を合わせずに外に出る。
10分ほど歩くと、観光客と思われる人も増えてきた。見るとメインの温泉街に着いたようだ。
道路を挟んで両端に軒並み並ぶ土産物屋や飲食店。中には縁日のような屋台が並ぶところもあるようだ。とてもいい匂いが鼻をくすぐる。
「・・すっげぇ!!!」
ニコニコしながら僕の手を掴んで早歩きする葛葉。
1番近くの土産物屋に入ると、中はとても広く、定番のおまんじゅうから割とオシャレな雑貨までいろいろと置いてある。
葛葉はキョロキョロしながら商品を物色している。僕も何か買おうと一度葛葉から離れお菓子コーナーを眺める。
「叶〜」
少し離れたところから呼ばれる。その声の方に向かうと、葛葉はあるコーナーの前で立ち止まっていた。
「これ良くね?」
見るとこの温泉街の旅館でもよく使われている身体を洗うようのタオルを手に持ち悩んでいる葛葉。
・・たしかに旅館のやつ、すごいふわふわで泡立ちも良かったな。
ふと思い出しながら僕も眺める。
「買おーぜ、これ。お前が青で俺がこの赤っぽいやつな」
そう言い青とピンクのボディタオルを持つ葛葉。
・・葛葉さん、それ赤じゃなくてピンクです。自分ピンクとか可愛すぎるだろ。
そう心の中でつっこみながらもいい物を見つけて上機嫌な葛葉に着いていく。
レジで商品を包んでもらい、いそいそと自分のリュックに詰め込む葛葉。
「次、どーする?」
『なんか僕甘いの食べたいかも』
「お、センスいいねぇ〜」
そう言いながら店を出るとすぐ隣の店で、焼きたて団子が売られいい匂いがただよっている。
くるりと振り向く葛葉。何も言わないが目で「食いたい」と訴えている。
『いいよ、葛葉これ食べようか』
僕は笑いながら買いに行った葛葉を待つ。みたらしをたっぷりかけた焼きたて団子を手渡されている。
店のおばさんに「まぁ〜2人ともハンサムでねぇ〜」と言われ葛葉は「うす、あざす」と小さい声で繰り返している。
そんな葛葉を遠目で笑いながら待っていると、嬉しそうに団子を3本持って戻ってくる葛葉。
「なぁ!なんか1本おまけだって!!」
『良かったねぇ葛葉』
ニコニコしながらみたらし団子を食べて葛葉はすっかりご満悦だ。
団子を2本食べている葛葉を待ちながら周りを見渡す。土産物屋が立ち並ぶ中で1つの店の看板に目が行く。看板にネコが書かれている。
目を細めてその店を見つめていると、いつの間にか団子を食べ終わった葛葉が僕の視線の先に気づいたのか「行こう」と歩き出す。
『でもなんの店かわかんないよ』
「だから行くんだろ」
それもそうか、と妙に納得して慌てて葛葉のあとを追いかける。
『か、かわいぃぃぃ〜』
大量のネコ雑貨を前に限界化する僕。
ネコをモチーフにした雑貨専門店のようで、店の端から端まで様々な商品が置かれており目移りしてしまう。
とりあえず入口の近くから真剣に物色していく僕。そんな僕を笑いながらも一緒についてきてくれる葛葉。葛葉も葛葉で何やら商品を手に取って眺めたりしているようだ。
普段使いできそうなタオルやヘアピンをカゴに入れつつ、ぬいぐるみコーナーを見ていると、ロトに似ているネコを見つけた。思わず手に取ったものの、僕のデスク周りに置くにはサイズがでかいし、ベッドにはロトがいるし、、何より持って帰るのにかさばるし。。
そう思い、そのぬいぐるみを棚に戻す。
振り返り葛葉を見ると、音を出すと拍手するぬいぐるみ相手に一生懸命手を叩いている。
そんな葛葉を微笑ましく思いながらレジに行き会計をする。葛葉に声をかけ店を後にする。
「いいの買えた?」
『うん!見てヘアピン買っちゃった』
「おーいいじゃん」
そんな会話をしながら温泉街をあとにする。まだ何日もあるのだ、今日全部行かなくったっていい。
旅館の部屋に戻り、掘りごたつでのんびりする。そろそろゲームでもしようかと腰を上げた時だった。
「叶、ほら」
葛葉からそんな言葉を投げかけられ、袋を手渡される。僕はよくわからないまま袋を受け取り開ける。
中には、さっき1度手に取ったロト似のネコの小さなボールチェーン付きマスコットが入っていた。
驚いて葛葉を見ると、葛葉はくしゃっと笑いながら
「お前ほんとはこれ欲しかったんだろ、小さければ邪魔でもないだろ」
と言う。
『葛葉ありがとう、、こんなのあったんだ』
「ふつーにレジの横にあったぞ」
『・・見逃してた』
「お前ずっとあのでけぇぬいぐるみ持ってんだもん、絶対欲しかったっしょ」
『・・欲しかった、ありがとう葛葉!!』
僕はそう言いさっそく持ってきた普段使いのリュックにそのマスコットをつける。
・・めちゃくちゃ可愛い。
ゲームの準備をしながら僕は言う。
『葛葉って意外と僕のこと見てくれてるよね』
「・・意外とってなんだよ」
『今回も僕が見た時はぬいぐるみに一生懸命手叩いてたから』
「・・その言い方は語弊があるだろ」
『知らない間に買ってくれてるなんて、めちゃくちゃ良い奴じゃんお前』
「・・まぁ、一応彼氏だし」
隣に並んでいる葛葉から思いもよらない言葉が出て僕は思わず目を見開いて葛葉を見る。
「はーいやりまぁす!!!」
照れた葛葉はそう言いゲーム画面のスタートボタンを押している。
僕は笑いながらコントローラーを握る。
『葛葉照れるなって』
「照れてねぇし」
『はいはい、でもほんとにありがとう、嬉しかった』
「おーよかったよ」
そう言いながらも若干照れて下をちらっと向く葛葉。
僕はここぞとばかりにゲーム画面で葛葉をボコボコにする。
「なぁおいっ、お前っ!!おまえぇぇ!!!」
大絶叫する葛葉。
僕はけたけた笑いながら先ほど葛葉にもらったマスコットを見る。
心無しかマスコットのネコもにやっと笑ったような気がした。
おしまい
旅行編まだ続きます