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あれからすくすくと成長して歩けて喋れるようになった俺だが、あんまり喋れない風を装っている。なんでかって?役立たずのクソ野郎って思われてる方が家出しやすいだろ? 家出しても探されないような男になるのが目標です。
因みに俺のフルネームはオルド・ジェイデンと言うらしい。中々カッコいい名前だ。
「おいジェディ」
「……はい」
「俺が呼んだらすぐに来い」
この偉そうなやつが俺の兄。オルド・ライアネル。
時期この国、東の海に存在するレドリック王国の国王になる予定の人物だ。自分が王様になるということを信じて疑わない。そして弟である俺を小間使いか何かだと勘違いしている脳内お花畑のバカ王子でもある。
こいつは俺が言う通りに動かないことが大変気に入らないらしく、会うたびにこうして睨みつけてくる。
まあ正直言ってこっちだって好きでこんな奴の相手なんてしたくないのだが、今はまだ我慢の時だ。この家を衝動的に出ていったところでそこらのチンピラにやられるのがオチだろうからな。ここが前の世界と同じだったのなら、ある程度衝動的に出ていっても良かったかもしれない。だがここは漫画の世界なのだ。
『ONEPIECE』――海賊王を目指す少年モンキー・D・ルフィ率いる麦わら一味の冒険を描いた長編ストーリーの漫画。
俺はその世界に転生した。これを知ったのは割と最近で、ニュース・クー、並びに世界経済新聞で知った。
最初は何かの間違いかと思った。でも何度見ても、目を擦って見直してもそこには確かに海賊・赤髪のシャンクスの記事が載っていた。しかも写真付きで。
いやああの時は驚いたぜ。危うく新聞を引き裂くところだった。何とか堪えてちゃんとスクラップにしましたよ。スクラップブックも、手配書コレクションもこのクソみたいな城の中で唯一安らげる癒やしの空間になっている。
閑話休題。
とにかく、いくらここが『平和の象徴』とも言われるような東の海だとしても、犯罪者がいないわけではない。ここで俺がひょいと城を出て行ったところでどうなってしまうか、なんて目に見えているわけだ。
だから、もう少しだけ我慢しようと思う。
「…ディ……ジェディ、聞いているのか?」
おっと、今は兄上様のお相手をしなければ。俺が返事をしなかったのが気に入らなかったようで、眉間にシワを寄せてこちらを見下ろしてきている。やれやれ面倒臭い兄を持ったものだ。さっきの話を聞いていなかったことにすれば、きっともっと怒るんだろうなぁ……。仕方ない、適当に相槌を打っておくか。
「はい、もちろんです。あにうえさま」
俺がそう言うと、ライアネルは満足げな顔をした。チョロいな。俺も人のこと言えないけど。すると、突然横から手が伸びてきて俺の首根っこを掴んだ。ぐえっと情けない声を出しながら、俺は宙ぶらりんになる。
一体誰だ? 俺がそう思っていると、そこにいたのはこの城のメイド長であるリリアナさんだ。どうやら彼女に捕まったらしい。彼女はとても力が強く、俺のような子供なんかひょいっと持ち上げてしまう。力が強いのは大変素晴らしいことなんですが首が苦しいので離してくれませんかね?
そう思ってジタバタしていると、リリアナさんの後ろからこれまた美人な女性が現れた。
ふわっとしたピンクブロンドに青い瞳をした、いかにも優しそうな人。最近来た俺の家庭教師だ。名前は確か……マリアベル・ハーティス。この国の貴族の娘で、とても博識な人である。
「ジェイデン様。お勉強のお時間です。ライアネル様も、もうすぐお稽古の時間ではございませんか」
彼女がそう言うと、ライアネルはハッとした表情を浮かべたあとチッと舌打ちをして俺を解放した。そしてそのままスタスタとどこかへ行ってしまった。やっと解放された……。
ライアネルの姿が消えるのを確認してから、俺は彼女の方へと向き直ると、彼女はにこりと柔らかな笑みを浮かべる。
「それでは、私達も参りましょうか」
俺はこくりと頷く。
俺の自室で彼女は勉強を教えるのだが、俺は出来ない振りをする。やってることは簡単な計算とか文字の練習だけど、俺はそれを頑張って必死に解いているのだ。普通の家庭教師ならば匙を投げるくらいのレベルだと思う。俺が先生だったらとっくに投げてるかも。
実際に家庭教師さんはハーティスさんで3人目だ。最初の先生は途中で帰っちゃったし、次の人は途中で俺を殴ろうとしてきた。俺があまりにも出来なさ過ぎてついイラッと来たんだろうね。あまりにも人に教えるのが向いてなさ過ぎて笑いを堪えるために頬の内側をちょっと噛んでた。
そんな感じで俺の教師になってくれる人がなかなか見つからなくて困っていたところに、このマリアベル家の令嬢がやってきたというわけだ。この国の貴族には珍しいタイプだと思った。だってこの国の貴族は大体、金と権力にしか興味のない奴ばっかりだからな。
まあそういうこともあって、期待とかしてなかったんだけどこの人は初っ端からにこにこと笑顔を絶やさないのである。解けない振りをするのが大変申し訳なるくらいには優しい。
「ジェイデン様、問題は解けましたか?」
「あともぉちょっと……です」
もたもたと、まるで幼児のような速度でペンを走らせる。問題を解くスピードも遅い。それでもハーティスさんは横で頑張れ、頑張れ! といった表情で応援してくれる。……なんて良い人なんだ。
この人の前だと演技するのを忘れそうになる。
「できた!!」
「よくできました! 流石はジェイデン様です」
よしよしと頭を撫でられる。くすぐったいな、と思いながらも、されるがままにしておく。
俺が満面の笑みを向けると、彼女もまた嬉しそうな顔になった。