テラーノベル
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手を止めて一息。
太陽が顔を出すと、表の看板を裏返す。
カウンターの奥で苦い香りがたちはじめる。
「コーヒーいれましたけど」
「ん、あんがと」
受けとり口に含むと、苦味が口に広がる。
机の上に出しっぱの書類を眺めながら、もうすぐ聞こえてくるであろうベルの音に耳を傾ける。
「…まだやと思いますけど」
「分かってるよ。気にせんで」
「ふっ…はい」
「何笑とんねん」
「いや別に…ふふっ…」
「笑とるやろ!!」
軽く睨み付けながら小さな木箱を手に取る。
昨日お客さんが置いていったものだ。
鍵穴がないが入れ物のようで、軽くふると、コロコロと何か音がする。
かなり昔の物のようで、角が丸く削れている。
蓋らしき部分はあるが、力を込めても開きそうにない。
鍵穴はない、年期がはいっている、蓋はある、傷も少し。
持ち主を思い出す。
壊すのが早いのだが、依頼内容は解錠なので出来ない。
いじりながら考え込んでいると、部屋が先程までより少し明るくなってきた。
「魁星さん6時」
「ん」
机の上に乱暴に置かれていた書類と道具、木箱を、奥の部屋の棚に隠すように片付ける。
あと一時間ほどで二人が来るだろう。
今日は朝から遊ぶらしい。
…若いって元気だね。
仕事は出来る限り昨日で終わらした。
増えた分は、明日の自分に任せる。
責任背負い投げ~する。
最後にまた木箱を眺めてから、サングラスを手に取った。
[カランカラン]
軽快なベルの音が鳴る。
そのすぐあとに、二人分の足音と明るい声。
「おはざまーっす!」
「おはようございますー」
「おはようございます、北見さん、榊さん」
「龍さんおはよ!寝癖ついてるよ?」
「ほんとだ!珍し」
「今日は魁星さんおいて爆睡したんで」
三人の視線が、ゆったりとこちらへ向けられる。
口角を上げて、声を明るく。
大丈夫。
「僕も結構寝たわ…マジさっき起きたもん」
四人分の笑い声が、薄暗い鍵屋に響く。
この瞬間は、ここがなんだか忘れてしまいそうになる。
本当に、この瞬間は。
「んで、今日何すんだっけ?」
「きたみんが見つけた所行くんだろ?自分が言ったんじゃんw」
「あーそうそう。この前呪術師の仕事でいったとき、なんかすごい、誰かの秘密基地あったんだよね」
「へー?それ大丈夫なん?」
「結構昔のっぽいし、大丈夫だろ!」
ニカッと笑うと、スマホのマップを開き、机に置いた。
龍は奥の自室から車の鍵を取りに行った。
「あれ?んー…」
と、こちらが不安になる声を漏らしながら画面を動かしていく。
行ったり来たり。
うろ覚えだがどこらへんかは忘れていないらしく、同じような場所を行き来している。
「あ、ここ!この山の…この辺!」
“誰か”の秘密基地。
マップにも詳しく表示されていない、山の奥。
誰にもバレないと願って、二人で一生懸命作った秘密基地の場所。
「そんな山奥?車入れなさそうじゃん」
「歩けばよくね?」
「マジすか。朝から…」
「りゅーちゃん夜型やもんね」
「夕型です」
「何それw」
少し重く感じる足を動かして、外の駐車場にある車に全員が乗り込む。
ピッタリ4人乗り。
龍が運転席、助手席には僕で二人は後ろに座っている。
いつものなんとなくの配置。
少しモヤるんやが…まぁ気にせんでええ。
「そこマップ設定できないんで、近くの駐車場行きますね。2時間くらいでつく思います」
「ありがとう、お願いします」
「ありがとー!よろしくです!」
「ありがと、よろしくりゅーちゃん」
「はい。じゃあ行きまーす」
通勤、通学時間と被っているからか人通りの多い道を進んでいく。
記憶の奥を探りながら、窓の外を小さく睨んだ。
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