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ふ
それにしても、あまりにも素っ気なさすぎる。別に期待していたわけじゃない。だが、もう少し何かあってもいいんじゃないだろうか。
そんなことを悶々と考えながら年末の仕事に追われていると、瀬名のデスクを数人の女子社員が囲んでいるのが見えた。
忘年会のときに一緒だった営業部のOLたちだ。
相変わらず仕事モードの時は前髪を下ろし、伊達眼鏡をかけている瀬名。しかし一度素顔を知ってしまった女子たちには、そんなカモフラージュは通用しないらしい。何を話しているのかまでは分からないが、楽しげな雰囲気だけは伝わってきた。
(仕事中に他の課に入り浸ってんじゃねぇよ、クソッ)
理人が内心いらついていると、瀬名がほんの一瞬だけこちらを振り返り、目が合ったような気がした。慌てて目を逸らす。
だがすぐに「やましいことなど何もないのだから逸らす必要はなかった」と気づき、チッと舌打ちした。
そんな理人の様子など気にも留めず、静かな室内に女子たちのきゃぴきゃぴした笑い声が響く。
この年末の忙しい時期にサボりか? 営業部の女どもはそんなに暇なのか?
瀬名も、彼女たちと話している間は完全に手が止まっていた。……もっとも彼の場合、こうして雑談していたとしても終業時刻までには自分の分を完璧に仕上げ、さらには新婚旅行で不在の萩原の案件まで代わりに処理してしまうのだから、問題にはならない。
それでも――面白くない。モヤモヤする。
こんな時は係長の朝倉がそれとなく注意してくれてもいいはずなのに。
朝倉はここ数日ずっと上の空で、ただでさえ悪い作業効率がさらに落ちてしまっている。
(チッ……本当に使えねぇ野郎だな……)
眉間にシワを寄せ、目の前の資料を睨みつける。
だが女子たちの黄色い笑い声は何度も耳に入り、集中できない。
落ち着け。今日は金曜日だ……。
さっさと仕事を終わらせて定時で戻れれば、きっと――。
終業時間になり、ふと、気が付いた時にはもう瀬名の鞄はなくなってしまっていた。
トイレにでも行っているのか? とも思ったが10分経っても戻ってこないので、きっと帰ってしまったのだろう。
以前までの瀬名だったら、金曜の夜になれば当たり前のように理人の仕事が終わるのを待ってくれていたのに……。
別に約束を取り付けていたわけじゃないし、泊まりに来いと言った覚えもない。
だから、瀬名がいつ何処で何をしようが、理人に咎める権利など無い筈なのに。
「……一言くらい、言えよアホが……っ」
ぎりっと、音がしそうな勢いで歯噛みして拳を強く握りしめると、理人は苛立ちをぶつけるようにダン! と机を叩き立ち上がった。