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NGS_ヘビーなしっぽ
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#ヒトコワ
御堂 冥
43
澪
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レイカはいつだって完璧だった。
髪型、服装、立ち振る舞い。そして何より、カメラを向けた瞬間に作る、ミリ単位の狂いもない美しい笑顔。
「ねえハル、綺麗に撮れた?」
スタジオの液晶画面を覗き込み、レイカは満足そうに微笑む。画面の中の彼女は、まるで絵画のように美しい。
だが、写真家のハルは、その完璧さにずっと苛立ちを覚えていた。
「……うん、綺麗だよ。でも、レイカ。僕が撮りたいのは『綺麗な仮面』じゃないんだ。人間が感情を爆発させた瞬間、理性が消え失せた『本当の顔』が撮りたいんだよ」
レイカは小首を傾げた。
「本当の顔? これが私の本当の顔よ。私はいつだって幸せで、美しくいたいの。それの何がいけないの?」
「お面なんだよ、それは」ハルは吐き捨てるように言った。
「怒り、悲しみ、恐怖……そういう醜い感情を剥ぎ取った顔なんて、ただのプラスチック人形と同じだ」
レイカは少しだけ目を見開いたが、すぐにいつもの完璧な笑顔に戻った。
「じゃあ、いつかハルが満足するような写真を撮らせてあげるね」
その日はそれで解散した。
―――
一週間後の深夜。ハルのスマートフォンが激しく震えた。レイカからだった。
『ハル、今すぐ私の部屋に来て。最高のシャッターチャンスをあげる』
メッセージと一緒に送られてきた位置情報は、彼女のマンションの部屋だった。
ハルは胸騒ぎを覚えた。カメラバッグを掴み、夜の街へと飛び出す。
売れない写真家としての本能が、何かが起きていると告げていた。
レイカの部屋のドアは、なぜか数センチだけ隙間が開いていた。
隙間から漏れる明かりの中に、妙に生々しい、鉄錆のような匂いが混じっている。
「レイカ……? 入るよ」
ハルがそっとドアを押し開ける。
リビングの床は、赤黒い液体で濡れていた。
その中心に、レイカが座り込んでいた。
彼女の黒いワンピースは真っ赤に染まっている。
そして彼女の足元には、見覚えのある男――レイカにしつこく付きまとっていたストーカーの男が、虚ろな目をして横たわっていた。ピクリとも動かない。
「ハル、遅いよ」
レイカがゆっくりと振り返る。
ハルの心臓がドクンと跳ね上がった。恐怖で足がすくむ。
だが次の瞬間、ハルは自分の目を疑った。
この凄惨な状況、返り血を浴びた絶望的な瞬間であるにもかかわらず、レイカの顔には「いつもの、ミリ単位の狂いもない完璧な笑顔」が張り付いていたからだ。
目は三日月型に笑い、口角は美しく上がっている。
声のトーンも、いつも通り軽やかで上品だった。
「あのね、この人、私の『完璧な生活』を壊そうとしたの。だから、お片付けしちゃった。ねえハル、早くカメラを構えて。今、私はすごくドキドキしてる。これって、あなたの言う『感情が爆発した瞬間』でしょう?」
ハルはガタガタと震える手で、首から下げたカメラを構えた。
ファインダー越しにレイカを見る。
狂っている。
普通の人間なら、泣き叫ぶか、取り乱すか、あるいは冷酷な冷や汗を流すはずだ。
しかし彼女は、死体を前にしてもなお、「美しく微笑む自分」という仮面を1ミリも崩すことができない。
彼女にとっての狂気は、殺人ではなく、この「完璧な笑顔への執着」そのものだったのだ。
「いいよ、ハル。撮って。私の本当の顔を」
レイカがカメラのレンズを真っ直ぐに見つめる。
ハルは恐怖に涙を流しながら、取り憑かれたようにシャッターを切り続けた。
カシャ、カシャ、カシャ、カシャ。
白いフラッシュが、赤く染まった部屋と、世界で一番美しい「狂気の笑顔」を、永遠に切り取っていった。
コメント
1件
めっちゃゾクゾクしたわ……。「完璧な笑顔」って概念そのものがホラーに変わるところ、最高に鳥肌立った。レイカの狂気が「美しさへの執着」から来てるって解像度、ガチで刺さる。続きが気になりすぎる🔥