テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
すちとみことが実家に着いたのは、らんとこさめより少し前だった。
「ただいまー」
控えめな声で玄関に入る。
返事はない。靴箱の前を見ると、両親の靴がない。
スマホに届いていたメッセージには、買い物に行ってくる、と。
「なつ兄といるまくんはいるらしいけど……静かだね」
みことがきょろりと家の奥を見つめる。
確かに気配はあるはずなのに、降りてくる様子はない。
「ちょっと様子見てくる?」
すちが階段の方へ視線を向けると
「……いい」
小さく、ぼそり。
「ん?」
聞き返すと、みことはすちの服の裾をきゅっと掴んだ。
指先が遠慮がちに布を握る。
「見に行かなくていい、から……」
言葉が途切れる。
それでも、ゆっくり顔を上げる。
上目遣い。
ほんのり赤い頬。
少しだけ潤んだ瞳。
「キス、したい」
空気が、止まる。
すちの理性がぐらりと揺れる。
さすがに玄関では、と言いかけた、その瞬間。
「……だめ?」
追い打ちの一言。
可愛すぎる。
完全に、みことの勝利。
頭の中で、勝利のゴングが鳴る音がした気がした。
「……ずるい」
小さく呟いたあと、すちはみことの顎にそっと指をかける。
そして、唇を重ねた。
最初はゆっくり。
けれどすぐに、深く。
唇を貪るように重ね、角度を変え、もう一度。
みことは目を閉じて、素直に受け入れる。
すちの舌がそっと触れる。
みことの唇がわずかに開き、甘く絡み合う。
静かな玄関に、微かな吐息が混じる。
みことの手がすちの胸元をきゅっと掴む。
力が抜けていく。
そのまま、腰が崩れそうになる。
「……っ」
それに気づいたすちは、みことの背を支え、そのまま壁へと押し付ける。
みことがもたれかかれるように。
壁に挟まれ、逃げ場を失う形で、キスは続く。
角度を深め、何度も重ねる。
みことの表情はとろけるようで、幸せそうで。
すちはその顔を見て、さらに理性を削られていく。
指先がみことの腰に回り、ぐっと引き寄せる。
玄関ということも忘れかけた、そのとき。
――ガチャ。
ドアノブの音。
はっとして顔を上げた瞬間、扉が開いた。
そこに立っていたのは、らんとこさめ。
時間が一瞬、凍りつく。
すちは「あ」と間の抜けた声を出し、 みことはぽやんとしたまま。
そしてらんの、あの一言へと繋がるのだった。
両親が「買い物行ってくるね」と声をかけて出ていったあと、家の中はふわりと静かになった。
ひまなつはすでに目が覚めていて、ベッドの上で横になったまま、隣の存在を眺めていた。
いるまはまだ眠っている。
布団に半分埋もれ、髪は少し乱れ、呼吸はゆったり。
やがて、もぞりと動いた。
「……今日、集まる日か……」
寝ぼけた声。
目は半分しか開いていない。
その無防備さが、ひまなつの胸をくすぐる。
「寝起きからかわいいとか反則だろ」
小さく呟きながら、そっと身を寄せ、いるまの唇に軽く触れるだけのキスを落とす。
いるまは驚きもせず、当たり前のように受け入れた。
それどころか、目を閉じたまま腕を伸ばし、ひまなつをぎゅっと抱きしめる。
「……ん」
甘えるように擦り寄る。
ひまなつの理性が危うい音を立てる。
「そんなことすんなよ。手出しそう」
「今はダメだ、ばか……」
まだ夢の中に半分足を突っ込んだ声で、いるまはそう返す。
それでも、離れない。
抱きしめて、またキスして。
額に、頬に、唇に。
じゃれ合うような、穏やかな朝。
いるまはまだうとうとしている。
瞼は重く、反応もゆるい。
ひまなつはにやりと笑った。
「なあ、いたずらしていい?」
「んん〜……」
意味を理解しているのかいないのか、曖昧な声。
「じゃ、いいってことで」
勝手に解釈。
ひまなつはそっと首元に顔を寄せる。
鎖骨のあたりに唇を押し当て、吸い付く。
一つ、くっきりと。
それでもいるまは反応が鈍い。
寝息混じり。
「ほんと起きねえな」
面白がるように、もう一つ。
さらにもう一つ。
首筋、鎖骨、肩口へと、印が増えていった。
やがて。
「……は?」
いるまが目をぱちりと開けた。
完全に覚醒。
体を起こし、鏡代わりにスマホを確認する。
そこには、赤い痕がいくつも散らばっている。
「何してんだよっ!」
頬も耳も一瞬で真っ赤になる。
ひまなつは悪びれもせず肩をすくめる。
「起きないお前が悪い」
「悪くねえ!」
抗議の声が部屋に響く。
ひまなつはクローゼットからパーカーを取り出し、ぽいっといるまに渡した。
「ほら、隠せ」
「お前のせいだろ!」
文句を言いながらも、結局それを着るいるま。
首元までしっかり隠れるように整え、まだぶつぶつ言っている。
着替え終えた二人は、並んで階段を降りる。
足音がリビングへと近づく。
その途中。
玄関から、かすかな物音。
降りきった先で目に入ったのは――
こさめの腕の中でぽやんとした表情のみことと、気まずそうな すち。 呆れ顔のらん。
いるまは一瞬で状況を理解し、 自分のパーカーの中身を思い出し、 すちへとじとりとした視線を向けた。
「……お前」
どこもかしこも、甘ったるい空気が充満していた。
コメント
1件
翠黄のきすまでこんなに尊いやりとりがあったんですねぇ