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# 記憶障害
北斗は 、 記憶障害を抱えていた。
事故の後遺症。新しい記憶が、毎晩リセットされてしまう。
…… 北斗、 昨日のことは、覚えてないんだよね、?
「昨日…?」
俺は、北斗の恋人だった。
それでも毎朝、“他人扱い”されることに慣れていた。
いや、慣れようとしていただけかもしれない。
俺は、何度目かも分からない説明をする。
毎日毎日、北斗に同じ話をして、同じように驚かれて。
それでも、俺を“知らない顔”で見つめる北斗に会いに来ることを、やめなかった。
「俺のこと、本当に知らないんだ?」
俺の問いに、北斗は頷く。
「うん。でも……俺は、君のこと、毎日思い出してる」
「……なんで?」
「好きだから」
北斗の表情が曇る。
「俺、そんなこと言われても……困る」
「うん。知ってる」
「…………」
俺は笑って言った。
「でもさ、面白いんだよ。毎日、君は俺にまた恋してくれるんだ」
「…………は?」
「ほんと。初対面から始めて、昼にはちょっと笑って、夜には俺の手、握ってる」
北斗は、少しだけ言葉を失った。
「そんな……俺が?」
「うん。だから今日も、君に会いに来た。今日の君が、どんな恋をするのか見たくて」
今日もまた、北斗への行き場のない愛がどこかに溜まっていく。