つい1時間半前に見た光景だが、今気分の良い中眺めると色鮮やかに見えた。
実際には色合いは変わっていないんだろうけどそんな気がした。
そんな色鮮やかな世界を新鮮に眺め、歩いているといつの間にか駅についた。
改札前の柱に寄りかかり「Crystal Peanuts」さんの別の曲を聴きながら
意味がわかると怖い話を読み、クイズをノリノリで解く。
今まで「怖い話」をこんなノリノリで読むなんてことはなかった。それはそうだ。
なんせ「怖い話」なんだから。もちろん普段はゾクゾクしながら読みクイズを解いている。
そんな意味がわかると怖い話を読み、クイズを考え待っている間
時間が経てば経つほど心臓は苦しくなるほど高鳴ってくる。
たまに鼻から深呼吸をしながらスマホで意味がわかると怖い話を読み、クイズを考える。
そんな読んでいる話は怖いし、クイズも考えるで悩ましいはずなのに
心持ちはノリノリというなんとも不思議な感覚でいると
スマホの奥に、こちらに爪先を向けた靴が立ち止まるのが視界に入る。
それに気づき鼻から深呼吸をする。そして顔を上げる。
薄水色のモンターニュのスニーカーに紺色のロングスカート。
そのロングスカートにインしたネコのオシャレなイラストの白Tシャツ。
その上に丈が少し短めの薄い色のGジャン。
少し栗色の少し内側に巻いた肩にかかるかかからないかの長さの髪の毛。
首。そしてその上に妃馬さんの顔が視界に入った。
足から顔まで一瞬だったがスローモーションにも感じた。
僕は耳に突っ込んでいた右側のイヤホンを外す。
「お待たせしてごめんなさい」
小説やマンガ、アニメやドラマでの定番のセリフが妃馬さんの口から僕の耳に届く。
「いえ、全然待ってませんよ」
僕もお決まりのセリフを返す。そして
「じゃあ、行きますか」
と言って改札に交通系電子マネーをあて、駅構内に入る。
天井から吊り下げられた電光掲示板を見て電車が来る時間を確認する。
ホームで電車を待っていると
「そういえばなんで駅だったんですか?待ち合わせ」
そう聞く妃馬さんに
「え、あ、いや、まぁ大学校内でも良かったんですけど
妃馬さんのお友達に見られるかなって思いまして」
と答えると妃馬さんが首を傾げ
「どうして見られちゃダメなんですか?」
と聞く。目を合わせて話すだけで心臓が高鳴る。
心臓は高鳴ってはいるがなぜかなんとなく落ち着いていた。
「いや、たぶんですけど、後で話のタネになるじゃないですか。
そのとき妃馬さんにとって面倒になるかなって思いまして」
そう答えるもまだ納得していない表情を浮かべる。
妃馬さんが喋り出そうとしたときに駅構内にアナウンスが鳴り響く。
どうやらもうすぐ電車が来るようだ。
「別に見られてもいいですよ」
そう言う妃馬さん。
「そりゃ妃馬さんは「ただの友達だよー」って言うでしょうけど
友達は広げたがりますよ〜たぶん」
「まぁ私の友達は、ほとんどみんな恋バナ好きですね」
「ほら」
「でも私も恋バナ好きだしあえて広げたり」
そうイタズラっぽい表情で言う妃馬さんにドキッっとしてしまう。
ドキッっと跳ねた心臓が合図のように駅構内にアナウンスが流れる。
そのアナウンスから間もなくして電車が風を引き連れ入って来る。
風で靡いた妃馬さんのスカートが右足に当たる。
僕と妃馬さんは左右に別れ、電車内から降りる人を待つ。そして乗り込む。
比較的空いておりシートに空きがあったので
「すぐですけど良かったら座ってください」
と左手で空いているシートを紹介するようにすると
「ありがとうございます。でもすぐなんで立ってます。
怜夢さんこそせっかくなんだし座ればいいのに」
そう言う妃馬さんに
「妃馬さん立たせておいて、僕が座るのは…ねぇ?」
と言い2人で扉を挟むようにして立った。シートの端の壁にもたれかかる。
電車の扉が閉まりゆっくりと動き始める。
いつもなら僕の鼓膜を揺らすのはイヤホンから流れる音楽だが今日は違う。
電車内のなんとも言い難い音と電車が走る音。
定期的に訪れるガタンゴトンという電車を代表するような音。
そしてなにより妃馬さんの声だ。
「そういえば急にどうしたんですか?」
そう聞く妃馬さん。たしかに。そもそも妃馬さんを誘った訳を話していない。
話していないというより、そもそもそんな「訳」などなかった。だから今その「訳」を作った。
「いや妃馬さんゲーム買ってくれるって言ってたので
間違わないように一緒に行こうかなぁ〜って」
咄嗟に思いついた「訳」を言う。すると妃馬さんは
「そんな子供じゃないんですから。間違えませんよ」
と不機嫌な子供のように口を尖らせる。
「えぇ〜でも姫冬ちゃんと同じ血が流れてるし、妃馬さんも天然なとこあるかもだしなぁ〜」
と少し揶揄うように言ってみる。すると妃馬さんは腕を組み
「ふんっ」
と言ってそっぽを向いてしまった。
「ごめんなさい。からかい過ぎました」
と言うと妃馬さんは顔はそっぽを向けたまま、視線だけをこちらに向け
少し僕の様子を見てから
「まぁたしかに母に「お父さんに似て少し天然だよね」って言われることはあります」
と言う。その話を聞き僕は
「てことは姫冬ちゃんはもっとお父様に似てるってことですか?」
と聞く。すると
「姫冬は完全に父似ですね」
妃馬さんが腕を組みながら頷きながら言う。
少し妃馬さんと姫冬ちゃん、2人のお父様を想像してみたが
僕が想像しうる父親像の人が姫冬ちゃんのテンションで喋るという
なんともカオスな想像しか出来なかった。
「あぁ、全然想像できない」
そのまま言葉に出す。
「あぁ父ですか」
「はい。ちょっとイメージしてみたけど全然ダメでした」
「うちの父はおっとりしてて、高校の現代文の教師をしてます」
「え!?先生なんですか!?」
たぶん今年1番の驚きだ。
ちなみにさっきまでの1位。塗り替えられ陥落し2位になった出来事は
今日匠が講義に来たことと匠が白髪のロン毛になっていて
ピアスがめちゃくちゃ増えていたということだ。
「はい。高校の教師なのに天然なんです」
「それはなんというか…」
「おもしろいですよね」
「おもしろいですけど妃馬さんのお父様の学校の生徒じゃなくて良かったなって思いました」
「どうしてですか?」
言った後に捉え様によっては悪いほうに聞こえたかもしれないと思い咄嗟に
「あ、いや、違くて。妃馬さんのお父様の授業がつまんなそうとか
そういうことではなくてですね。僕が真面目な生徒ではなかったので
妃馬さんのお父様に見られたら嫌だなというか
悪い印象を与えてしまうだろうなと思いまして」
言い訳がましく少し早口で言うと
「たぶん父の授業はおもしろくありませんよ。それになんで見られたくないんですか」
そう言いながら笑ってくれた。とりあえず悪い印象は与えていなさそうで
口から息を吐きながらホッっと胸を撫で下ろした。
「いやだって」
とその先を言おうとしてハッっとなる。
この先言おうとしていることに自分でもなにがなんだかわからない。
「だって」の先が鮮明なようでモヤがかっている。
そんな自分でも自分の頭がわからず止まっていると
「だって?」
とイタズラっぽい表情ではなく
本当にその先を知りたがっている疑問の表情でこちらに視線を送ってくる。
自分で言おうとしたことと妃馬さんが送ってくる視線で頭の中がパンクしそうになり
「あ、もうすぐですね」
あからさまに話題を逸らした。
「あ、逃げた」
逸らせていなかった。
「逃げてないですよ」
「えぇ〜?明らかに逃げてましたよ」
「ほら、いつの間にか次なんだなって」
そう言うと妃馬さんは
「たしかに。言われてみればさっき電車止まって扉開きましたね。あぁ、もう次なんだ」
逸らせてないと思ったが、気づけば逸らせていたようだ。
「なんか話してて楽しいせいか、時間忘れちゃいますよね」
そう言うと妃馬さんの顔がハッっとし少し固まった。その後すぐに
「たしかに!あのまま話してたら乗り過ごしてたかも」
そう言って笑う妃馬さん。
その一瞬に疑問を持ったがもし自分に関するマイナスなことだとしたら
その一瞬のことに触れるのが怖く、触れずに
「そうですよ。僕がしっかりしてたからいいものの」
とわざと得意気な表情で冗談ぽさ万点で言った。
「えぇ〜昨日乗り過ごしたのどこの誰でしたっけ?」
その返答は予想していなかった。
「それは…」
想定外の返しに返せなかった。
「ふふふ」
笑う妃馬さん。
「それ言われたらなんも言えないですね」
僕も笑う。2人で笑っていると
アナウンスが流れ、次第に電車の速度が遅くなり電車が止まった。
妃馬さんに先に降りてもらい、その背中を追うように僕も降りた。
妃馬さんが歩くスピードを緩めてくれ、僕と隣同士で改札まで歩く。
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