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炎蔵

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炎蔵

1 - 第1話 小学校低学年編

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2024年07月01日

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私――|小山田《こやまだ》まや子が|炎蔵《えんぞう》の卵を拾ったのは、まだ小学二年生の頃だった。

田んぼと畑ばかりの我が家の近くには、草木の生い茂った山々があり、放課後になるとそこに踏み入っては歳の近い子らと遊んでいた。

そんなある日、山で大きな卵をみつけた。実物をみたことはないけれど、ダチョウの卵くらいの大きさがあったと思う。濃淡のあるまだらな赤が、模様みたいになっていてそれが子ども心のなにかを強烈にくすぐったのを鮮明に覚えている。

幼かった私はそれを抱え、自室に持ち帰った。一緒にいた弟に、両親に言ってはいけないと言いつけると、布団をかぶってお腹に卵をあてて温める。

浅慮だった当時の私は、強そうな色合いの卵からは「きっと恐竜が生まれるにちがいない」と確信していた。

――ティラノザウルスだといい。

――デカくて強いなら他のでもいい。

――ひょっとしたら新種の発見になるかも。

などと考え、鳥獣保護法の存在も無視して、どうやってエサになる動物を捕まえるかを模索する。

「はっ、そうだ!」

動物を捕ったところで、生まれたばかりの子に、そのまま与えるわけにはいかない。だとすれば、料理も覚えないと。

そんな理由で、料理の手伝いを母親に申し出た。

それまで手伝いなどロクにしてこなかったせいで、いぶかしげに思われたが、お小遣いをあげてほしいと頼んだら納得された。

ちなみに500円あがったのでラッキーだった。


卵を温めてから一ヶ月ほどが経過した。

小学生にとって一ヶ月は長く、正直ちょっと飽きはじめていた。

これは卵じゃなくて、実は石なんじゃないだろうかとも思った。

誤って落としたり、蹴っ飛ばしたりしてもビクともしなかったし、早く殻から出られるようにとトンカチで叩いたりしても反応がなかったのも理由のひとつだ。

結局、自分は卵的な何かに騙されたのだと諦め、温めるのを放棄し出した頃になってようやく変化が起きた。

卵の内側からコツコツという音がして、布団で微睡んでいた私を目覚めさせる。

ついに恐竜が生まれるのだとワクワクした私は、仮病で学校をさぼった。

しかし、待てど急かせども卵は孵らない。

少しずつ少しずつヒビが入り、中から|彼《・》が出てきたのは夕方になってからで、学校は完全にサボり損だった。

さらにガッカリだったのは、出てきたのはヒヨコとクジャクのハーフみたいな鳥で、望んだ恐竜では全然なかったのだ。

「おはよう、世界、グッモーニンワールド」

しかも田宮カラーのクリヤーレッドに少し黒を混ぜたような感じの色合いの鳥は、流暢な日本語で挨拶をかましてくれた。

あまりに驚いた私の口から、思わず正直な感想が飛び出す。

「ティラノサウルスじゃなかった!」

その批評に不満があったのか、クチバシの内側から炎を吐きかけられた。

幸いにも、生まれたばかりの炎蔵の炎はそこまで熱くなかったけど、ビックリした。

でも私の機嫌は、炎が吐けるというギミックにより回復していた。

「採用!」

私は即座に彼を秘密裏に飼うことを決めたが、この時の騒ぎによってあっさりと炎蔵は見つかってしまう。

さらには弟の密告により以前から私が卵を温めていたことが母親に発覚し・・・・・・てんやわんやとあったものの、結局は我が家に迎えられることとなった。

仕事帰りの父親に気に入られたこともあり、その一存で私のふたり目の弟として扱われることが決定。

父親に『炎蔵』と命名され、孵化したその日を誕生日にし、毎年バースデイケーキを用意することとなったのだった。

ちなみに、実の子の誕生日が忘却されたりするのに、炎蔵の誕生日には毎年ケーキが用意されていた。

その日が、両親の結婚記念日だと知ったのは、私が成人してからの話だ。

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