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放課後って言うと、生徒達が異様に元気なる。
俺自身、高校生の頃の放課後は、こんな感じだったと思う。
でも、あの頃の俺は少し他人の目や視線が、あまり好きではなかった。
今は、だいぶマシになったと思うが…
「ったく。お前ら。まだ帰らないのか? 7時過ぎるぞ !!」
と、お約束と言うか、そんなセリフが、俺の口をついて出た。
「わっ…見能 先生。居たの?」
「居ちゃ悪いか? 主任らが、もう直ぐしたら。完全下校になる19時だから昇降口閉めるってよ!」
「えっ! マジ?」
「っな、時間なの ?!」
その教室には、数人が残っていた。
で、揃いも揃って…
部活終わりって、訳でもなく。
「こんな時間まで、何で残ってる。 暇なのか?」
一瞬で、ギョッとなる生徒達。
威圧している訳ではないが、よく素の視線が、怖いと言われる事がある…
「や…そう言う訳ではないけど…」
「今日は、帰ろう…か? な!」
「うん!」
生徒達は、俺から遠ざかりならヒソヒソと、何かを言い合う。
「……先生って…」
「Domだよな…」
「分かる…」
ったく…
どうでも、いい事をベラベラと…って…
「おい。お前ら。最後なら電気ぐらいは、消してけ……」
俺も、そう言いながら同じ方にある職員室の方へと歩き始めようとした。
「あっ、先生…」
「大丈夫です。もう1人居ますから」
「もう1人?」
「俺らテスト期間中に入るから。範囲とか対策とか? 教えてもらってたんです!」
と、3人は教室内に居ると言う。もう1人の生徒に…
「続木。今日は、ありがとなぁーっ!」
「うん。こっちこそ。僕も、範囲の見直しになったから。ありがとう。あとは僕が、やっておくから」
「じゃーなぁ!」
「ハーーイ」
と、バタバタと最初に出ていった生徒達は、階段を降りていく。
「さてと、スイッチを切ってと…」
シーンとしていた分。やけにその生徒の声が、ズンッと耳に響いた。
「アレ? まだ居たの先生?」
「まだ居たけど…」
急に話を振られて焦った。
「は…早目に、帰れよ…」
「ハイ」
俺は、何に焦ったんだ?
何で、足早に立ち去ろうとしてるんだ?
「あっ、そうだ」
「え…?」
『見能 先生!』
こんな風に呼ばれて振り返るなんって、日常茶飯事のはずだ。
なのに、続けざま…
『…少し待って。あの…僕、教科書の範囲で…聞きたい所があって……』
そう…
呼び止められるのも、職業柄で言えば当たり前だろ?
その何気なく呼ばれた、声に不思議な感情とでも言うのか、感じた事のない欲のような意識が、視界を遮ろうとしてた。
「先生。ここなんだけど…」
「…………」
「見能 先生?」
ただ普通に…
1人の生徒に呼ばれただけだ。
なのにナゼ、無意識に動きが止まったんだ?
「先生?」
「悪い。ボーッとしてた」
「…大丈夫ですか?」
「で、どこ? 聞きたい所って?」
「えっと…ここなんですけど…」
「…………」
華やいだ笑顔で、近寄ってくる生徒を、ナゼか少し怖いと感じながら。早くこの場から立ち去りたくて、どうしようもなかった…
1,
俺は、高校の教師で…
いわゆる。Domとsubを合わせ持つ少数派と言われるスイッチとして生活している。
具体的に言うと、どっち付かずで、何か特別に秀でた特技も何もなければ、よく両方の性質を忘れている場合も多かった。
そんなものだから。
危機管理は、無いのに等しく。
赤の他人の主従関係を見ては、なぜ。命されて従ってのやり取りに快楽的な何かを、感じるのか疑問でしかなった。
それは、スイッチ特有のか…
いつもの俺は、どちらの性質が強く表に出ているのか…
医者も、体調の変化や身体に負担が、掛からない様ならば薬をつかわなくとも、大丈夫だろう言っていた。
まぁ…医者もスイッチの俺が、未知なのか、定期的に予約診療してくれるし。
もしもの事も、考慮してか軽い抑制剤を処方してくれている。
勿論。前に処方してくれた薬はその都度、返しては、また新たな薬を貰う。
その繰り返しだ。
俺自身も、両方の性質を持っているからと…
飢えた様な感覚にもならない以上、俺は一般人と変わらない。
医者の言う事を真に受けている訳ではないが、俺も分からない以上。こだわらないと、自ら納得させているのが、今の俺の現状だ。
まぁ…体面上は、特に職場でもある学校では、Domとして振る舞っているつもりだ…
まぁ…何が、居るか分からん。
放し飼いの野獣が居る様な檻の中に俺みたいなヤツは、本来居たらダメなんじゃないかと、思う時がある。
でも、スイッチと診断される前から教師にはなりたいと、思っていたし。
診断されてからは、自分なりに調べ自分の性質と向き合ってきた結果。
俺は、どちらのスイッチもONには、なってないのではないかと、結論に至った。
だから。このまま変化がなければ、今の自分でいいのでは? と主治医とも話し合っているが、Domとsubの性質が、気にならない訳じゃない。
今を変えたくない自分と、矛盾と虚無感。本来の自分。色々な狭間で揺れ動いているものまた事実だ。
そんな風に思い続けて数年目…
ナゼか、ここにきて謎の体調不良と不眠症と言うか、寝ても覚めても軽い頭痛が、治らないでいる。
昔から肩が凝りやすい体質もあってか、頭痛は気にもとめていなかった。
最初は、特に気にしてなかったが、鎮痛剤を飲んでも効かないとか…
「…初めてだ…」
洗面台の鏡に映った酷くやつれた自分の顔に、言い知れない恐怖感が芽生えた。
そんなものだから。
食事も、食欲不振が続いていて本格的な体調不良者となりつつあることに、困惑していた。
まさか…どちらかの性質が、関係しているのか?
いや…その前に、こう言う不調が表面化する出来事なんってなかったろ?
主治医に相談がてら連絡すると、『…処方してある抑制剤飲んでみたら? 見能さんに出してあるのは、抑制剤としても…一番軽めの物だし。試しに飲んでみて効くようなら…その場しのぎになちゃうけど…この場合は良しとして、来月の受診の日にちを、今週末辺りに繰り上げて受診するのは、どうかな?』
そう告げられて、恐る恐る抑制剤のカプセルを水で押し流すように飲み込んだ。
「……………」
結論から言うと、その抑制剤は、かなり効いたらしい。
「そっか……抑制剤が、効いちゃったか…」
「効いたってことは…」
「もしかしたら。subdropになり掛けた……かも…?」
「かも? ってなぜ、疑問系なんです?」
主治医は、女性でノーマルと呼ばれている第ニの性を持たない人らしいが、身内にDomもsubも居るとの事…
「見能さんの症状だけ聞くと…身内に居るsubの軽い不安からくる症状とsubdropの初期の症状に似てるのよね…」
そうですか……しか出てこないセリフを言われても…
「薬って、出してもらえるんですよね?」
「まぁ…そうだど…それは、一時的な解決方法でしかないからね。一番の解決方法は、その要因となったと思われるDomとプレイをする事だけどね…」
「プレイ…?…」
「手っ取り早く言えばね。でも、それだけじゃダメよ。その後も大事なんだから」
苦笑うしかない。
「あら? 思い至らない? なら…Domの放つglareにでも、やられた?」
「glare? 聞いたことは、ありますけど…」
「そっちも、ピンと来てない感じ?」
確か…オーラとか、威嚇とか…
「見た目からして出まくってるDomも、居るみたいだしね…」
俺も、たまにそれで怖がられてるのか?
「見能 さんって、お勤めは、高校だったわよね? まだ診断されてない子も、中には居ると思うわ」
「そうですね。診断が…出るのは個人差もありますが、出始める頃ですね…」
要するに向こうにも、こちらにも、非がなくとも…無意識にって事があり得るらしい。
「無意識に…」
「…で、今は、担任を受け持ってないんだっけ?」
「教科担当だけです…」
「そっか…じゃクラス担任よりも、色々なクラスに出向く事になってるのね…」
「まぁ…クラス担任の責務が、無い分の割当てと言うか、その…何か、厳しいですか?」
「間違った対処の仕方をすれば、勿論。支障を来す場合もあるけどね。でも学校で、その他大勢の居る所で非のある事は、しないでしょうし…様子見ね。ただ…」
これからは、常に注意した方が、賢明だと言う事と…
「取り敢えず。お薬は、通常通りに出しますね。何か、あった時には、遠慮なく連絡を下さいね」
それから俺は、再度自分なりにDomやsubの関係性や特徴。
パートナーと呼ばれる2人に見られる。特別な信頼関係や幸福感。いわゆる After careと言うやつを、調べたが……
どっち付かずな俺には、どれもピンとくるものがなかった。
それでも、やはり倦怠感のような疲労と微かな頭痛が、頻繁に症状として表れるようになった為に、その都度、仕事に支障無い時間や放課後に早退させてもらい通院を繰り返した。
「………………」
「まぁ…見能さんの場合双方の性質が、表面化しなくても、潜在的にDomでいる感じだったし。何らかの抵抗感が、強いのかもしれないわよね」
「はぁ…そうなんですかね?」
「そう言えば、前に不調を感じる様になった要因の…Domとは、その後、話し合いとかしたの?」
「話し…合い…とは?」
「そうねぇ…パートナー関係とか…軽いプレイとか?」
とんでもなく純粋にアホ丸出しの情けない顔してんだろうな…
「あっ……えっと、そうね。躾的な?」
「先生…言い方…」
「まぁ…そうだけど、どんなに良い言い方をしても、結局は同じ意味よ」
「つまり…その…」
身体の不調を感じるように要因となったDomとプレイをしろと?
って、この不調を感じる要因になったのは、あの時からだ。
『見能 先生!』
『…少し待って…』
記憶が蘇っただけなのに、後ろから力一杯に身体を、揺さぶられる様な衝撃を感じた。
その勢いでガタッと、治療室の椅子から立ち上がった俺は、とんでもなく動揺していた。
「まぁ…そうよね。取り敢えず。また今回も、お薬で様子を見てみましょうか? 前にも話したけれどスイッチは、存在としても、少ないし。分からない部分が、どうしても多いから」
「あの…今の俺はsub寄りのスイッチが、入っている状態なんでしょうか?」
「かもしれない。でも、さっきも言ったけど、今までがDom寄りだったかもしれない分の負担や不調って事は、頭に置いといて欲しいの。それと…私も話を聞いたに過ぎない事例なんだけど…Domの使うコマンド中にswitchって言葉が、有るらしいから…」
『switch 』《スイッチ》
「そのコマンドが、トリガーみたいになって、Domとsubが、入れ替わるとか……って、大丈夫? 顔色が、真っ青よ。少し休んでいった方がいいわ。今、空いている個室を用意するから!」
考え込んでいる内に、フラフラになり主治医やその場に居た看護師やスタッフに支えられ個室のベッドに寝かされた。
その日は、体調が少し落ち着いたのを見計らい。
病院側が呼んでくれたタクシーで、自宅に戻った。
疲れていたのか、ストレスか…
玄関を開けて廊下奥の自室に辿り着く寸前で、倒れ混むように俺はそのまま眠っていたらしい。
翌日は、そのお陰か…
見事なまでの是っ不調で、気だるさの消えない身体をお越し学校に向かった。
その途中のコンビニで、学生時代にやめたはずだったタバコを、思わず買ったのには、自分でも驚いた。
無意識だったのだろう。
学生の頃。ストレスをためては、まるでヘビースモーカー並喫煙を繰り返していた為に身体に良くないと、親族や主治医に見つかり。こっ酷く注意されたが、今になっても、踠くように身体が、その苦味を含んだ毒を欲しているように思えた。
コンビニの袋から取り出し上着の内ポケットに入れようか、このままバッグに仕舞おうかと何度も悩み…
その苦味と毒に負ける形で、安物のライターと一緒に忍ばせた。
2,
校内で、擦れ違う度…
タバコの匂いを感じる様になった事を、僕以外で気付いている人は、居ないみたいだった…
普段は、匂わないし。
吸ってる気配もなかったように感じていたのに…
訳が、分からなくて、何となくイライラしてた。
でも実際の所。
父が、昔からタバコを吸っていたからそこまで、邪険にする程でもないはずなのに…
ナゼか、あの人から漂う。あのタバコの匂いだけは、どうしても許せなかった。
「続木? どうした? 何か、この頃。機嫌悪いな…」
「別に…」
話し掛けないで欲しい。と、声が出かける。
「何か…怖いぞ…」
投げ掛けられたその言葉を僕は、無視をした。
呆れたように、そのクラスメートは、他の席に行き談笑を始める。
いつからだっけ?
このイヤな匂いが、する様になったの?
試験前に聴きたい所があって、話し掛けた時はしなかったのに…
納得が、いかなくて…
無性に腹が立って、
どうしようもなくなって。
「…………」
席を立ち帰り支度をし始めた。
「続木どうした?」
「気分が、悪いから帰る」
「あぁ…お大事に…」
授業と授業の間にある短い休み時間。
廊下は、生徒達が往き来し。
予鈴と共に、その慌ただしいさが、一層濃くなる。
そこに次の授業の為に先生達が加わると人波が、サーッと引くように移動を始める。
またその中に例のタバコの匂いが、漂いだして鼻を突く。
あの人が、近くに居るんだ…
嬉しいのか、嬉しくないのか…
思い通りならないイライラが、また少し積み重なり合うようで、苦し紛れにギッと、奥歯を噛み締めた。
それでも、平静を装い職員室では、適当に気分が悪いと担任に頭を下げて早退させてもらう事にした。
ただこのままおとなしく帰っても、家には母親が居るから。
早退してきたとなれば、それなりに面倒くさい。
だからって、変に道をウロウロしていれば、こんな真っ昼間だ。
補導されかねないと、階段横の開けられ窓に顔を出した。
外の方から微かにタバコ独特の匂いがすることに気が付く。
窓の外に身を乗り出して校舎裏にある植木の影を見たけど…
誰も居ない。
校内禁煙なんだから。堂々と吸うヤツは、居ないか…
見渡す限り平穏そのもので、モヤモヤしたままの僕が、そこに居るだけ…
タバコの匂いが、腹立たしくて、また奥歯を噛み締めた。
もう今日は、帰ろう。
ゆっくり休んだら少し何かが、変わるかもしれない。
…で本鈴が、タイミングよく鳴る。
“ さてと… ”
そう自分の中で呟きながら。何気に振り向くと、階段から降りてくる。
あの人を、見掛けた。
足取りが、重そうで…
兎に角。危なっかしい感じ…
ちゃんと、前を向いてんのかってぐらい。虚ろそうな目で、職員室の方へと入って行く。
なんかヤバそうな所を見てしまったと、思ったけれど。
今まで、しなかったあの匂いが、先生からのモノだとは思いたくない。
そりゃ…先生の中には、タバコ吸ってるっぽい人も、何人か居るみたいだし。
そう言う匂いが、身体に染み付いて消えない人も居る。
見能 先生だって、もしかしたら僕らが、知らないだけでタバコを吸ってるかもしれない。
でも…先生が、吸ってる姿もそうだけど、何だか想像出来なくて、僕は笑いそうになるのを我慢して下駄箱の前まで辿り着いた。
見能 先生は、真面目って程までではないけど…
物静で穏やかで、僕ら生徒に平等に接してくれる。
言い方が、たまにストレートだけど、その物言いのお陰で、あっという間にその場に馴染んでしまう。
仕事上、目上の先生だから。預かっている生徒だから保護者だからって、引くことなく物怖じせずに色々と言ってくれるし。
答えてくれる。
そんなものだから生徒や他の先生や保護者達からは、見能 先生の堂々とした姿にDomを重ねている人は、少なからず居る。
その証拠と言う訳じゃないけど…
一部のsubらしき生徒や先生が、お近づきを狙って居るところを見たことがあるけど、先生からは、まるで相手にされていないのか…
物悲しく見えてならなかった。
まぁ…例えDomだったとしても、皆が皆…従わせたいとか? 躾たいとか? 後……甘やかしたい? 褒めたいとか? そんな欲が、強い訳じゃないと聞いていたから。先生も、もしかしたらそんな部類のDomかも、知れないし。
それにあの見能 先生が、どこかのsubに対してコマンドを使って居る姿が、どうしても想像出来ない。
どちらかと言うと…
僕からしたら先生は、全然Domっぽく見えない。
だからって、subっぽくもない。
ノーマルタイプって、思ったけど…
なんか違う。
性格上?
何だろう?
そんな事を、翌朝の通学に使う電車の吊り革に掴まりながら。
何気に覗いていたスマホで、思い付いたワードを検索してみた。
…で、出てきたのが…
「…スイッチ?…」
Domとsub両方の性(性質)を、持っている。
自らスイッチを、切り替える事も出来れば、Domのコマンドを使って切り替えさせる事も、可能性としてはある。
ただ。スイッチ本人にからしてみれば、どちらかが有利になると言う事もなく。
自分に負荷のかからない性質で通す者も居れば、敢えてどちらも選ばず。
オフのまま生活するスイッチも居る。
その場合。知らぬ間にスイッチが、切り替わっている事に気付けず。
体調不良を、訴えるケースも多いようだ。
いずれにせよ。スイッチの体調不良は sub に切り替わっている。又は、上手く切り替えられない状態に陥っている可能性も考えられる。
どう言う状態だろう?
subの体調不良って言えば、よく聞くのが、subdropだけど…それとは、違うってこと?
いや。仮にsubになりかけていたら。
それは、明らかなsubdropだ。
本人の意思とは、関係ない。
それが、抑え切れない欲と、その代償だから。
「…………」
って、見能 先生が、それだって証拠はないし。
僕の思い込みだし。
そもそも、なんでそう思い込もうとしてるの?
僕は、どうして…
そうまでして先生を、そんな風に思い込みたいんだ?
だいたい。見能 先生との接点なんって…
教科担当ってぐらいだし。
口を利くのも、この間みたいに…分からない無いところを聞く程度で、慕っている訳でもなくて…
けれどその存在が、何となく気になっている。
って…
何で、気になるんだ?
いつから?
ちっとも、ピンとこない。
見能 先生は、こう言う人って認識はあるけど…
特別な感情とか、そんなのはなかったはずだ。
多分。
気になるって言えば、気になる人で…
それが、ナゼなのかが分からない。
もしも…だよ。
もし自分の中のDom性が……って事は、考えられないのかな?…
先生が、subかもしれなくて、Domの僕が反応した。
ずっと気になっていたのは、そう言う感覚があったから…とか、
まぁ…自己都合な解釈だけど、気になる人から。いつもと違った匂いを感じれば…
ただ事じゃないって思うのが、妥当だしね。
じゃ試しに見能 先生が、subかもと仮定して…
最近話したのは、あの日を振り返ってみる。
テスト前で、範囲の事を知りたいとか言ってた友達の部活上がりを待ってて…
範囲を、教えてあげて…
終わり掛けた所に見能 先生が、来ちゃって…
早目に帰れって促されて…
他の3人が、教室を出ていて僕が居るとは知らない先生が、電気がついたままだって注意した。
で、疑う感じの見能 先生に友達は、本当にもう1人居ますよって。
それで僕は、自分から後は、任せて的な事を先生に聞こえる声で…言った。
「スイッチ……切って……」
自分で、言いながらハッとした。
何気ない普通の言葉だったけど、もし先生がスイッチなら。
スマホに書いてあるけど…
switchって言葉は、注意しなきゃならない言葉らしいから。
知らなかったとは、いえ僕は…
でも、これは仮の話しだし。
先生が…そうだって決まった訳じゃない。
でも、見る限りの先生の症状は、subのそれに見えてしまう。
辛いのなら。
どうにかしあげたくて。
今更になるけど、ここに来て自分自身の性質を考える切っ掛けに先生は、なってしまった。
どう考えても、僕のしていることは…
Domに近い行動で、先生をsubだと認識している。
単に性質上の事で、運命みたいなものに逆らえないんだって、思い知らされたようで苦しい。
先生が、subなのか。
スイッチなのか、ハッキリさせないと僕の気が、おさまらない。
気になってしまうsubに出会たDomって、こんな気持ちになったりするものなの…かな?…
僕が、Domと診断されたのは、去年の事だった。
見掛けが、拍子抜けするぐらい穏和に見えるせいか、まだ誰も僕をDomとは、思ってないらしい。
元々、人と関わっていく過程で、人に助言を出来ても、誰かにお願いする《命じる》ことが苦手だった。
そんなものだから。
自分が、Domであることに強く戸惑い。Domの性質に付随した欲求がないことにも、疑問しか浮かばなかった。
まぁ…
無い訳じゃないと思うけど、冷めてるって言うか、どうでもいいかなぁ…って…
上手く言えないけど、誰かを従わせたいとか…服従させたいとか…そんな風にはどうしても、相手を見れないって言うか…
そう言う相手が、現れないからDomの性質が、押さえられている。
それが、僕の現状に合っていた。
欲が、押さえられているならそれでいいし。
性質を否定したいけど、それを否定するだけの何かが、あるわけでもない。
僕自身も、中途半端できたから。余計にスイッチかも知れない先生に知らず知らずの内に興味が、湧いたのだろうか?
だとしても、何かが出来る保証もない。
けれど、先生が僕の言葉で動揺していたり。
身体に、負担を掛けているなら。
何とかしてあげたい。
漠然と思った。
何って言うか、守ってあげたいと言う自分の中にある気持ちに、気が付いた。
ドキドキして苦しい。
Domの僕の方が、ドキドキするなんって事があるのかなぁ?
って、先生の事を何とかするって言っても…
どうやって、確かめる?
普通に聞いたって、教えてくれるわけないし。
警戒されたり。気味悪がられるのがオチだ。
下手した不審者だよ。
そうやってその日は、朝から授業内容そっちのけで、確かめる方法を考えまくっては、否定から入ると言う無意味な打開策を繰り返し。
辿り着いた結論から言うと、何とかって…何だ? になった。
力になりたいとか、ハッキリ言って迷惑じゃねぇ?
そっとしておけば、良いじゃん。
僕から。大人な先生に何かをする必要はない。
もしかしたら体調不良に見えるのは、僕の思い過ごしで…
職業柄からのストレかもだし。
ガキの浅知恵ぐらいしか出来ない僕に出来ることなんって…
何もない。
落ち着いて考えれば、ただのガキが大人ぶって、寄り添う振りも、十分に下心が見え見えでカッコ悪いだけだ。
見能 先生と、どうにかなりたいとかそんな欲は……
ないはずだけど…
先生の気配に混ざるタバコの匂いが、どう言う訳か許せない。
どう許せないかって訪われても、何って答えていいのか、分からないとしか言いようがない。
今の見能 先生が、subかもスイッチかもってなって、複雑に考えすぎた自分に対してモヤモヤした怒りが、込み上げてくるみたいな…
そんな自分勝手な思いも、許せない。
取り敢えず。
自分の考えを自制しないと…
「お~い。どうした? 頭か抱え込んで…」
昨日とは、違うクラスメートに話し掛けられた。
「別に…」
「昨日も、具合悪いって帰ったんだろ? 大丈夫なの?」
「多分」
「何々? 悩み事とか?」
「だから…別に何でもないって…」
「そう?」
僕は、またフラッと教室を離れた。
「チャイム鳴るよ?」
他のクラスメートに、そんな事を、言われたけど。
僕は、と言うと「うん…」みたいな曖昧な返事をして廊下に出てしまった。
自制しないとって思いながらも、どうにかして先生の事を確かめてみたい欲が、溢れてくる。
でも、このまま突っ走っても、相手にされるわけがない。
どうしたら。いいんだろう?
溜め息にもならない息を吐き切り。
フト。足を止める。
そう言えば昨日、先生はどこに行って居たんだ?
タバコの事を聞いたら。校内や学校の敷地内では全面的に禁止だって言われた。
それでも、匂いがするって事は、校内のどこかで吸ってるって事だ。
出張の多い父さんも、僕や母さんに気を遣って電子タバコに変えてくれたけど、煙りを気にして庭やベランダで吸っている姿を、よく見掛ける。
校内でって考えると、どこだ?
外は、間違いないとして。
校舎裏……
…は、目立つよね…
非常階段とか…
階段…
見能 先生、昨日階段から降りてきたよな?
まさか…
屋上とか?
いや…
屋上って、確か年中鍵が開けられないはず。
鍵は、職員室で管理させてて……
「…………」
先生達だったら。自由に使う事が出来たりするとか?
それこそ考え過ぎと思いながらも。
僕は、どうして屋上に向かう階段を上がっているんだろう?
授業をサボって、こんな人気の無い所でウロウロしているのを、見付かったりしたら。
注意されるって、分かっているのに…
何を考えて、居るんだ?
バカみたいに先生を、追い掛けて、その気配を探してるとか……
執着心みたいなもの?
僕は、屋上に通じる踊場にそっと足を踏み入れた。
滅多に来ることがない屋上に通じる辛気臭い空間として僕の中では、興味すらない場所。
校内にあるどの扉よりも、重厚で硬い扉は普段、扉の鍵と溶接されたリングに通された鎖を繋ぐ南京錠が、大袈裟過ぎるほど巻かれているのに今日は、その鎖や南京錠が、床に外されていた。
ゆっくり静かに閉ざされたドアを開け静かにまたドアを閉め直す。
解放感とは、また違って風が吹き抜け日当たりが、良さげな非日常的な空間って言うのか、決して目にすることはないであろう景色があった。
そして、うっすらと漂うタバコの匂い。
見能 先生だ。
間違いなくまだここに居る。息を押し殺して足音も立てずに進んで行く。
屋上は、配管とか何かの機械音がしていて静かな場所とは、程遠くて…
こんな場所だからこそバレさせない秘密めいた衝動に駆られる。
何度か、配管を跨いで奥に進むと、1週したようになり出入口の裏側に回り込んだ。
少し視線をずらすと、左手で片膝を抱え脱力したように突っ伏した先生の姿と右手の指には、タバコが、挟まっていてフィルターをギリギリまで、燃え尽きているのが分かった。
あのままだと火傷する。
そう感じて、咄嗟に僕は先生の右手を取って指の間に挟んだタバコを持ち床に火を押し付けて消した。
「よく父も、ボーッとして火傷しかけるんです…」
「…………」
「良かったですね。指を火傷しなくて」
今更ながらに正気を取り戻そうと、先生は動こうとしているみたいだけど、身動きが取れないみたいに目が泳いでいる。
「簡易の灰皿ありますか? 吸殻見付かったらヤバいでしょ?」
ボーッとして身動きが、取れない様になっている先生は、何かを言いたそうに踠いている様にも見えた。
「…………」
いつもの先生らしくない。
「…見能 先生って、いつも誰に対しても、真面目って言うか、隠れて悪い事とかしなさそうで…意外です」
そう話し掛けても、上の空っぽい?
ちゃんと、こっちを見てくれないし。
何か言い掛けてるのは、分かったから。
思わず。
「Sh」と、子供に言い利かせるみたいに右手の人差し指をピンッと立てて、少し長めにシーッと先生の目を見たまま告げると先生は、ハッとなって口を噤んだ。
さてと、どうしたらいいだろう。
これは、正解なのかなぁ?
「あの…先生…」
正しくない事って、誰が決めるものなんだろう。
逆に正しい事は、本当に正しくないことでも、正しいって言えなくなる時があったりする。
きっと先生も、正しい答えを知らないはずだ。
『look』《 僕の目を見て… 》
まだ僕は、コマンドと呼ばれるモノを sub に対して使った事はない。
使いたいとすら思った事が、ないからだ。
なのに…先生に対して使ってしまった。
これも、初めての感情で、苦しそうで切なそうな先生を放っておけなかった。
だから。少しでもホッとした表情の先生を見たいから。
甘えさせてあげたいって気持ちが、僕の中に溢れてきて…
ギュッてしてあげたい。
優しく頭を、撫でてあげたい。そんな欲が、僕にその通りの行動を取らせた。
特に抵抗されるって事もなければ、嫌がる素振りもない。
なんだか、それが嬉しい…
3,
心地いい。
そんな言葉が、頭を掠めた。
髪をクシャッとされながら撫でられるのも、悪くない。
保養力?
安心感?
それとは、また違った感覚。
満たされている感じが、体温と混ざり合う様で…
ついさっきまでのガンガンと小刻みに殴られるような頭の痛みが、急に消えたのには驚いた。
「あの…」
俺が、抱き締められている腕から顔を出すと…
あの日、親友達から続木と呼ばれた生徒の顔が近くにあった。
「こんな事で、顔色ってよくなるんだね」
そう言っては、頭を撫で続けてくれる。
脱力感とでも、言うんだろう。無駄な力が抜けていてくれるだけでも、心持ち穏やかになれる。
「…ねぇ…もしかして、先生ってスイッチなの?」
その言葉にコクリと、言葉無く頷く。
「頷くだけ? 何も言わないの? 僕、何を言われても、否定しないよ。それとも、僕が…Shって言ったから?」
俺は、小さく首を振った。
今ここで、態度や声を出しても否定されるとは、思っていない。
それにこのDomは、他のDomとは違う。
そんな安易な考えしか出来ない程に今の俺が、否定されたりでもしたら。情緒不安定で泣き出すかも知れない。
そんな、どうしようもない心を、まるで見透かすようにこの続木と言う生徒は、俺の頭を撫でてくれた手で頭を抱き留めた。
「このままで、大丈夫だよ。何も、心配しないで」
それ程大きくない手だけど、精一杯の力で包み込んでくれることが…
「嬉しい…」
「そう。良かった」
いや…
俺は、何を和んで居る?
一番のダメージを受けていた頭痛が、治まり引驚く程に思考が、クリアーになった。
「ねぇ。先生…」
「…ん?……」
「キスしてもいい?」
「はぁ?」
何、言ってる?
再度、続木を見上げた瞬間。
有無を言わせない勢いで、キスをされた。
乱暴って程、強引でもなければ押さえ付ける力も加わってない。
寄り添うように優しい。
そんなキスだった…
数秒間、思考が停止していたと思う。
「あっ、そうか…見能 先生には、《kiss》って言えば、良かった?」
目をハッキリと見据えて言われた言葉に俺は、続木を突き放す様に腕を掴むと屋上の床に押さえつけた。
俺と続木の息遣いが、機械音な同化する。
「先生は、やっぱりDomでもあるから。命令とかされるのは、嫌なんだよね…」
スッと冷めた目をする続木の表情が、怖くなる。
「僕は、Domって言っても…そのDom特有の従わせたいとか、そう言った欲が、無くて…分からなくて…」
「……………」
「自分が、Domだって分かってから。ずっと、イライラしてた。変だって言われた事もあるよ。命令する従わせるのが…Domだって…その欲が、無いのはおかしいって…」
沈んだ瞳から涙こそ溢れたりはしないが、続木も人知れず自分の性質に悩んでいたのか?
客観的に言えば、個体差が生じるのは仕方がない事だ。
欲が薄ければ、幻滅され蔑まれる。
欲を出せば、したたかに軽蔑される。
俺も、そうだ。
どちらにもなれず。
どちらの俺も、昔から嫌気まみれだ。
「似てる…」
そう言って先生は、ポスンと自分の顔を、項垂れさせる様に僕の肩に押し付けてきた。
そこには、苦しそうな息遣いの先生は居なくて…
床に押し付けられた時、掴まれた腕が、少し緩んでいるのを確認しながら。また僕は、先生の頭を撫でた。
出来るだけ優しく。
ゆっくりと…
指先からうっすらと伝わってくる先生の体温は、僕にとって心地よくて…
「僕は…先生を、甘やかしたいんですかね?」
Domの性質の中には、対象のsubを甘やかしたいとか守りたいと、敢えてそう接するDomも居るらしい。
「僕は、そう言うタイプなのかなぁ?」
可笑しくもない場面なのに僕が、笑うと先生が、本の少し擦り寄ってきたみたいになっていて…
思わず…
「可愛いかも…」と、言葉が口をついた。
ガバッとそれは、勢いよく?
先生は、僕から離れると、さっきまで寄り掛かっていた壁の方に顔を隠す感じで、背を向けてきた。
照れてる?
耳まで、ほんのり赤い。
慌ててる。
「先生?」
「ちょっと…待てくれ…」
往生際が、悪いなぁ~っ…
「ねぇ。先生。顔見せてよ」
「み…見せろって…」
ったく。しょうがないなぁ…
『Attract』《僕に興味を、引かせて》
少しだけ振り向く先生は、やっぱり気になる存在して僕の目に映る。
「見能 先生って…結構。強情だったりします?」
「うるさい…」
「…僕には、先生のコマンドは、利きません。勿論Glareもね」
「知ってる。お前には、何も通用しない…」
仏頂面って言うのかな? 2人っきりだから良いけど、誰にも見せたくないって、顔しないでほしい。
「なぁ…いつから。俺が、こうだって思った?」
「こうって……Domとsubの?」
「あぁ…」
敢えて、ためらうように間をあけてから淡々と話すことを努めた。
「…えっと。ついさっきです…色々…性質とか、関係性とか…調べました。その過程で先生が、もしかしたら…スイッチかもって…」
「そう見えた…根拠は? 俺…基本的には、Domに見えてるらしいけど…」
そう言う風に思う人も、居るのは知ってるけど…
「僕には、そんな風には見えなかった。先生は、僕からすると穏やかだし。落ち着いて…」
Dom特有のGlareみたいな圧を感じられないし。
「皆が言うような近寄りがたさとかも、僕には分からなくて…もしかしたら。先生のDom性が放つGlareとかが、利かないのかなぁ…って…」
見た目で、Domだ。
Domだから怖いはずだ。
上から目線で、威圧するな。
…とまで、言われた事もある。
俺自身、どう振る舞っていいか決めかねていた事を続木は、見抜いていたのか?
「違います。先生の事が、ずっと気になって居たみたいです。それで、普段はしないタバコの匂いが、先生からするようになって…その理由が、知りたくてイライラしていたのかも…」
続木 集は、あまり目立つ事のない生徒だ。
だからと言って、暗さはなく。
明朗で割りと活発なイメージだと、言われている。
それが、続木の全てと言う訳じゃないと思うが、こんな風に接してくるとは予想外だった。
「あの…気持ち悪くて、スミマセン」
今までの行動からは、予想だにしない返答を見るに続木も、本音を隠して過ごすタイプなのかもしれない。
まぁ…中には、オーラと言うかGlare 《グレア》の迫力を見せ付けて、その存在を生かすのが、Domだと言い切るヤツらも、多少いると聞く。
俺の様にどちらの性質を持って産まれて苦しんで自分をどう見せるのが、一番妥当なのかと模索したり。
続木の様に命じるだけが、Domではないと結論を保留にする者も、僅かに居るのだろう。
もしかしたら。続木の様な特性のDomの方が、俺の持つスイッチよりも、難しいモノの捉え方をしているのかも知れない。
だからか、改めて話してみると、続木の存在が他人事とは思えない。
どう切り出して、どう答えれば、正解なのか…
「なぁ…」
「ハイ。何ですか?」
「続木は、俺と…どうなりたい?」
一気に押し寄せた冷静が、もたらした発言が、これだ。
「えっ…と、どうなりたいとは…先生と生徒? それとも…プレイに関する?」
「えぇーっと、だな…その…」
微妙に噛み合わない歯車は、歯車で、果たして上手く回り出すものなのか……
それとも…
「…先生?」
「…んーっ?」
「いや…睨まないでくださいよ。先生の方が、先に言ってきたんだから…」
Dom性を出して威嚇したつもりが、睨まないでくださいよ。か…
本当に続木には、俺のDomしての力は…通用しないみたいだ。
そう分かって、改めてスーッと、肩の力を抜いてみた。
今まで出せなかった自分の本質を、さらけ出してしまったのだから。
もう。誰かれ構わず来る者や自分から見るもの全部に虚勢をはる必要はない。
きっと…
と言うか続木は俺が、どんな間抜け面しようが、意気がっていようが、手を差し伸べてくれるのではないか?
そんな風に見えるのは、俺のエゴか?
それでも、すがり付きたいのは、スイッチでもある俺の中に共存するsubが、続木を求めているからだろう。
続木の前でならと…
ゆっくりと呼吸をして、ゆっくりと前を見据える。
「先生は、先生のままで居ていよ。僕だけが、先生の思いを知ってるし。僕が、ずっと先生を見守るから」
重いセリフなのに、その言葉さえも嬉しく思う俺もまた重いヤツなのかもしれないな…
終わり。
…のオマケ。
とある放課後の屋上にて…
続木(Dom)とのやり取りから数週間。
俺の症状は割りと落ち着いてきた。
あんなに頻繁に通っていた通院も減り。
主治医も、ビックリしている。
まぁ…あの主治医だから。
「そう。良い相手に出会えたのね。良かったわぁ!」
キャー。キャー。と騒いでいたが、俺の相手が…高校生とは、職業柄絶対に言えない…
何って言うか、続木は今年で3年。
バレなければ……とか…
いや…
とんでもなくヤバい事を考えている俺は、猛反省中だ。
「先生は、深く考え過ぎ! 普段通りに、振る舞っていれば、バレないよ!」
悪気も無い。
屈託のない明るい続木の笑顔が、見れるようになってから。
俺は、タバコを吸わなり。
だいぶ精神的にも、気分が軽くなった様に思える。
普段の続木は、勉虚熱心で成績も良い。
優しい人柄だが、それでいて特別目立つ生徒ではない。
一見すると到底Domには、見えない。
Domと聞くと、従わせる。
命令する。
躾。
など、そんな先入観を持つが、続木は兎に角。
俺を、甘やかしいたいらしい。
俺自身も、普段はDomとし人前に立ち仕事や交流を持っている。
続木の前でだけ弱み(sub)を見せられる。
10代の頃、俺の態度や立ち振舞いが、Domのそれに付随していた為に俺が、スイッチだと診断されると…
それには触れず。
俺自身も、特には触れてこなかった。
まぁ…通院は、それなりにしていた。
そんな中での体調不良と頭痛の悪化。
subよりの性質に傾き掛けて居たのを、救ってくれたのが…
続木 集だった。
「先生。気分の方は、大丈夫? 前みたいに頭痛が、酷くなったり…」
「してないよ。体調不良にもなってない」
「良かった!」
ニッコリと笑う姿に自然とスイッチが、切り替わろうとしていく。
感覚としては、フッと風が吹き抜ける様な感覚に近い。
「いつもさぁ…ハグとか、ギュッてしてみたり。頭を撫でたりだけど…たまには…」
首筋に抱き付いた状態で、続木に抱き締められて固く閉じ込められた気持ちが、少しずつ溶かされていく。
この瞬間が、一番落ち着く。
何かの機械音も、気にならないぐらいに癒される。
おそらくこの変化が、俺がスイッチとしてDomからsubへと変わらせる瞬間なのだろう。
「…で、たまには…何?…」
「キスとかしたら。やっぱりダメかな?」
年相応と言うよりも、かなり落ち着き放ったように、俺を見下ろす続木の瞳は、俺よりも冷静だ…
本来のDomの姿を、体現しているだけなのかも知れないが……
あの時も、そうだった。
押し倒されているはずが、余裕で…
ニコニコしている訳でもないのに晴れやかで…
堂々としている。
俺は、そんな続木の額にデコピンしてやった。
「教師を口説いてんじゃねぇーよ」
「えぇ~っ…キスぐらいは、いいじゃん!」
「って、お前が、してきたんだろ?」
「物欲しそうな目をしてたから。なんか、可愛くて」
可愛くて?
誰が…って、俺が?
「ほっとけなかったて…似た様な事…言わなかった?」
そう言えば…
「でもさぁ…」
続木は、俺に向かい合う様に床に座った。
「実を言うと…こんな年下じゃなくて…年上とか、同い年とかに先生みたいな人は、気遣いしなくて良いんじゃないかなぁ…って、その方が、理にかなった感じでプレイできると思うし。教師と先生では、そのリスクってヤツが……どうしても、引っ掛かるし…」
ポスッと俺は、またあの時みたいに続木の肩の辺りに顔を預けた。
「それは…イヤ…かな…」と、随分と俺らしくない子供のような言葉を掛けた。
「イヤかなって…ガキかよ?」
「これだけでも、落ち着くから…」
「はぁ?」
まぁ…確かに…
あの日、ハグ次いでにキスしたのは、僕だけど…
その後で、逆に押し倒した ( 何もなく未遂 )のは、この人( 先生 )だ…
今だって、擦り寄って来ている訳じゃないけど…
甘えたがりで、ヒタッとくっついている。
いつから。こんな甘々にキャラ変したんだ?
僕の知る限りでは、クールとか…威圧感が、凄いとか…
まぁ…僕には利かなかったけど…
話しやすさとか、そう言う所で人気の教師だったはず!
甘えてくれるのは、嬉しいけど…
一度、キスしたらやっぱり。その分欲が、出てくる訳で…
…何って風に思ってた居たら…
「…エロいのは、ダメな」
アレ? 珍しく僕の方が、見透かされてる?
「当たり前だろ?」
「じゃ…キスは?」
「あのなぁ?」とか、気の利かない返答に僕は、また先生にキスをした。
軽く触れるだけの…
もし、こんな振り回された関係じゃなくて…
ちゃんと付き合えるなら。
「キスは…してもいい?」
「…………」
「それこそ。イヤなら。僕にキスは…させないでしょ?」
まぁ…
一重にキスって言うけど、キスもハグも含めて嫌なら近くには、居させないだろう。
続木が、けじめ的なものを俺に求めているのは、分かっていた。
この分だと曖昧な返事も、求めていない。
「…俺が、付き合おうって言ったら。続木は、嬉しい?」
「当たり前だよ…」
「だよな。でも、正直に言えば、無理だろうな…」
「うん」
「立場とか、関係性とか…」
「うん…」
「…そう言うのたまには、取っ払うか?」
「えっ……」
教師とか生徒とか、立場とか…
上げ出したら切りがない。
バレたらのリスクは、常に付きまとう。
互いにこう言う性質で、互いを求めているから。
現状は変わらない。
「だから。たまにな…」
その言葉を聞いた続木の顔は、笑顔と言うよりも、ニヤケ顔で…
「良いよ。それで、我慢す!」と言い。
また俺を、抱き締めてくれた。
「…でもさぁ…」
「何だ?」
「今みたいにキスとかしたくなったら? どうしたらいい?」
「えっ…」
「僕からしていい? それとも…」
誰かの目や視線を、気にすることも前程、嫌ではなくなった。
まぁ…こんな関係だし。
どれだけ本気の関係かは…
俺にも、よく分かってない。
おそらく続木も、同じだ。
「じゃ…先生。したい時は、ちゃんと言うね…」
それでも、俺に命じられるのは、続木で…
俺を、救ってくれるのも…
『kiss』《僕にキスをして》
続木以外に居やしないんだ…
全てから。
抗うように求めるってのは、こう言う事だと…
俺達は、今日も kiss を交わし続ける。
終わり