「助けてください……!」
時刻は六時。朝の六時だ。
そんな時、我々国の門の前で何やら揉めている様子が見えた。面倒ごとになるのも嫌なので通り抜けようとすれば、聞き覚えのある声が聞こえた。
その言葉に、自然と視線がそちらへと向かう。
そこには、運営国幹部、こばこださんがいた。それも必死な形相で、「幹部に合わせて!」なんて叫んでいる。
「ど、どうしたんです、こばこださん」
「鬱さん……!あ、あの、これ……!」
渡されたのは、一通の手紙。
「緑さんから……っ」
拝啓 仲間へ
雑な文字でそう始まり、たったの三文で終わる手紙だった。
拝啓 仲間へ
もう大丈夫
多分、俺の思い通りに行けば、全部元通りになる
仲間がいれば、怖くない
みどりいろより
メモ書きの様に、汚い字でそう書かれた手紙は緑くんから送られたものだとわかる。
封筒の裏を見れば、この手紙は我々国の方で出されたことがわかる。だからこばこださんは此処へ押しかけたのだろう。
この手紙は、どう言う意図で書かれたものだ?
「……こばこださん、これって…?」
少し深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる仕草をしてから、冷静にこばこださんは説明をしてくれた。
「今朝、この手紙が幹部棟直々へと送られてきました。緑さんが不在なので、更に代わりである僕が手紙の内容を確認したんです。……そしたら、こんなことが書かれていて……、なんだか、とても嫌な予感というか……そんな感じがしたんです。だから、此処に来てみたんですが……」
大体察しているのだろう。俺は初耳だ。こんなこと。
つまり、緑くんは此処にはいないと言うこと。
「ほんと、……どこに行っちゃったんだろ、……」
心配を露わとした表情で、ごはこださんは呟く。
最後に緑くんを見たのは、昨日のグルッペン……総統室の近く、何か話し込んでいた様子はわかってた。
――――あり得なくない話だ。
「グルッペンなら知っとるかも。……聞いてくるわ」
「本当ですか……!?有難うございます……」
「あ、いや、でも聞いてくるだけやから……あんま期待せんといてな」
保険だけかけて、俺は幹部棟へ向かった。
総統室の前に立ち、三回ノックする。
「……何の様だ?」
「……昨日緑くんと話しとったやんか、……今こばこださんが此処にきてんやけど、緑くん戻ってないらしいねん。……なんか知らんかなって」
「……さぁ、知らないな」
すぐに書類に視線を移してしまう。
何か隠しているのは、見てわかる。絶対、何かがある。
だけど、今ここで問いただしたとして、グルッペンは果たして正直に話すだろうか。……否、しらを切るだろう。
「……わかった、こばこださんにも説明してくるわ」
グルッペンが、何も離してくれないのなら。此方で解決するしかない。
「……こばこださん、すんません、グルッペン絶対何か知ってると思うねんけど、……」
「……そうですか、いえ、大丈夫です…!お時間とってしまいすみませんでした、」
そう言い頭を下げるこばこださんに、俺は慌てて顔を上げるようにと促す。
「いや、ちゃうねん!……緑くんに何かあったのは絶対だから、……俺も一緒に翠くん探しましょうか?」
「えっ、いいんですか……?」
不思議そうに見つめてくるこばこださんに、俺は笑い返す。
「協力、させてください」
現在、俺はこばこださんと共に我々国と運営国を直接繋いでいる橋にもたれ掛かり、情報を整理している。
これまでの知る限りの情報をまとめると、一つ、可能性が出るのは。
緑くんは、何かの目的を果たすためにどこかへと行ってしまった。という説がかなり強い。
目的、も何個かこれじゃないかというものが上がっている。
一つは「ぐちつぼの処刑を取り消す」
だが、これは本部直々に自分から意見を出したり、それも、リーダー的な人に反抗したりするということになってしまうので、あまりこの説は信じられない。
だが、緑くんが強くぐちつぼの処刑に反対していたのは事実なので、まぁ説としては立てておいてもいいだろう。
二つ目は「仲間の死の真実」
これは、過去に何度か緑くんが死因不明の|レウさんの死因について何度か聞いてきたことがあるから、もしかしたらということだ。
だとすると、同盟国を回って最後に彼を見た目撃者を探すだろう。との考えが出た。
三つ目は「復讐」
……あまり考えたくはないが、仲間、運営国を不幸へと陥れた同盟国を全て……いや、有り得ないな。
「他の国当たって、聞き取り調査するのが一番手っ取り早いやんなぁやっぱ」
「ですね……、ここは一肌脱ぐとしましょうか!」
「おっええやんこばこださん!いっちょやったって〜!」
なんて軽い気持ちで、この時はまだどうにかなるだろうとも思っていた。
本当に、愚かだった。
「そう言えば鬱さん」
運営国を通り、その隣の日常国へ向かっている最中。こばこださんがふと、話しかけてきた。
「ん?どしたん」
「いえ、さっきからこばこださんって、長くないですか?……他の人たちも呼んでるよう、こばさんでいいですよ」
「え?あー、そう?……んじゃそうするわ」
ただの呼び名の指摘か。
これからは、改めて俺は彼を「こばさん」と呼ぶことにする。
日常国につけば、いつもと雰囲気が違うのに気がついた。
「どうしたんですか?」
こばさんが近くにいた一般人にそう聞けば、慌ただしい様子で急ぎで答えてくれた。
「総統補佐が朝から見当たらず、幹部の皆様含め朝から大変なんです……!」
総統補佐。……つまり、「ぺいんと」がいない。ということだ。
ぺんさんがいない?珍しいな、と思う反面、怪しいという思いが浮かぶ。
緑くんとぺんさんの、丁度のタイミングでの失踪。……何か、裏があるのではないだろうか。
やはり、緑くんの復讐……。
いや、違う。もしや、……いや、だがそれにしては前触れもないし、なんならグルッペンが誤魔化す必要などない。
「……鬱さん、これ……」
こばさんも同じ考えなのだろう。神妙な面持ちで此方を見る。
「……一旦やばいか」
俺とこばさんは、日常国から背を向け、さっき来た道を引き返した。
______
「多分、俺の憶測なんやけどな」
我々国に戻り、誰もいない会議室にて。俺の言葉が少しだけ反響する。
「緑くん、復讐しに行ったと思うんよ」
「……復讐って、……誰に…」
俺の言葉に、こばさんは明らかに同様の色を表した。
「最近の緑くんにおかしいとことかなかった?」
「いえ、特になかったと思うんですけど……」
思い返すように右上を向きながら唸るこばさんは、一向に口を開こうとはしない。そんなに考え込まなくても、少し聞いただけなんやけど。
「……こばさんはこの世界のリーダー的存在の人がいるってのは、知っとる?」
「え、なんですかそれ。」
一向に悩んだままでいたこばさんに、俺が新たな質問を投げかける。見事にこばさんは目線を俺に移し、初耳だとでもいうような声色で返事をした。
「俺もこの間初めて知ったんやけどね。……まあ細かいことは後として、多分緑くんはその人に復讐しに行ったんやない?」
「で、でも、なんで緑さんはその人に復讐を……?」
それもそうだ。と、同感する気持ちもあるのだが、大体察しはついている。
「……レウさんやない?」
「レウさん?なんで…?」
思いついていた的がはずれたかのように、こばさんはさらに質問を重ねた。
これも、殆ど自分の考えでしかない。
だが、あり得なくはない話だと思う。
「レウさんは、戦争の前……か、後とかになんらかして上に消された。この戦争の真相含め、昨日グルッペンから聞いた緑くんは昨日の夜のうちに本部へと向かった。……あり得なくはない話やん」
「……そ、そんな、まさか……」
半笑いで答えるも、やはり、あり得なくはないとわかるのだろう。
「それで、なんらかしてぺいんとさんもついて行ったんじゃないんすかね。あとはもうわからんなぁ……、結局これも想像でしかないし」
「……ありがとうございました、でしたら、僕の方でも色々調べてみます。……わざわざこんな手間かけさせてしまって、すみません」
「いや、全然!なんなら仕事サボれてラッキーやったわ。……こっちでも色々調べとくから、なんかあったら情報共有しよや」
「……はい!それでは、僕そろそろ戻りますね!」
ありがとうございました!と、笑顔で言い立ち去るこばさんを見送った。
今すぐにでもそのことについて調べたいとは思ったのだが、流石に仕事やらなきゃ粛清どころでは済まないかもしれないので、しょうがなく俺は書類を持ち出した。






