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羊と亀のお遊戯会
23
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
10
映え無し
1
【短歌】
マフラーを 二人で巻いて 歩く道 君のぬくもり 冬まで続け
【短歌をテーマにした物語】
秋が深まると、帰り道の風が少しずつ冷たくなっていく。
駅まで続く並木道は、赤や黄色に色づいた葉でいっぱいだった。
私は制服の襟元を指で押さえながら、隣を歩く悠真をちらりと見た。
「寒くない?」
彼が尋ねる。
「ちょっとだけ」
「そっか」
それだけ言って、悠真は自分のマフラーをほどいた。
「えっ、何?」
「半分こしよう」
差し出されたマフラーを見て、私は思わず足を止めた。
「でも、それじゃ悠真も寒いでしょ?」
「二人で巻けば、少しは暖かいんじゃない?」
彼は当たり前のように笑った。
私たちは付き合い始めて、まだ二週間しか経っていない。
クラスメイトだったころは、毎日のように話していた。冗談を言い合って、宿題を見せ合って、放課後には一緒に駅まで歩いた。
だから、告白されたときも、付き合い始めたときも、これまでとあまり変わらないと思っていた。
けれど、恋人になってみると、同じ帰り道がまるで違って見える。
隣を歩く彼の肩が近いだけで、心臓が落ち着かなくなる。
「ほら、こっち」
悠真がマフラーの端を私の首に巻き、もう片方を自分の首に回した。
ふわりと、彼の使っている柔軟剤の香りがした。
思った以上に距離が近い。
少し顔を動かせば、彼の肩に触れてしまいそうだった。
「……あったかいね」
照れ隠しにそう言うと、悠真が笑った。
「だろ?」
その声がすぐそばから聞こえる。
私はマフラーに口元を埋めた。
寒さのせいだけではない熱が、頬に集まっていく。
*
「ねえ、悠真」
「ん?」
「私たち、冬になってもこうやって帰れるかな」
口にしてから、ずいぶん先のことを聞いてしまったと思った。
まだ秋なのに。
付き合い始めて二週間なのに。
まるで、ずっと先まで一緒にいたいと言っているみたいだ。
「……なんで?」
悠真がこちらを向いた。
「だって、三年生になったらクラスが変わるかもしれないし。部活も忙しくなるかもしれないし」
私は慌てて言葉を続けた。
「今みたいに一緒に帰れなくなるかもしれないでしょ?」
本当は、もっと単純なことだった。
今日みたいな時間が好きだった。
隣で笑う彼が好きだった。
だから、この時間がいつかなくなってしまうことを考えると、少し怖かったのだ。
悠真はしばらく黙っていた。
しまった。
重いと思われただろうか。
私はうつむき、マフラーの端をぎゅっと握った。
すると、隣から小さな声が聞こえた。
「俺は、帰りたいけどな」
「……え?」
「冬になっても、春になっても。できるだけ一緒に帰りたい」
顔を上げると、悠真は少し照れたように笑っていた。
「もちろん、毎日絶対って約束はできないけどさ。帰れる日は、一緒に帰ろうよ」
胸の奥がじんわりと温かくなった。
私は、うまく返事ができなかった。
「……うん」
やっとそう答えると、悠真は安心したように笑った。
その笑顔を見ていたら、もう少しだけ欲張りになってもいい気がした。
「じゃあ、冬になったら……」
「うん?」
「今度は、私がマフラーを持ってくるね」
悠真は目を丸くしたあと、声を立てて笑った。
「いいね。じゃあ、次は春香のマフラーを半分こだ」
「……うん!」
名前を呼ばれただけなのに、胸がいっぱいになった。
いつか、この日を思い出すことがあるだろうか。
秋の帰り道。
一つのマフラーを二人で分け合って、冬になっても一緒に帰ろうと約束した日。
そんな何でもない一日が、私にとって特別な思い出になっていく。
*
駅に着くころには、空がすっかり夕焼けに染まっていた。
改札の前で、私たちは立ち止まった。
「じゃあ、また明日」
悠真が言う。
「うん。また明日」
マフラーを返そうとすると、彼は首を横に振った。
「今日は貸しとくよ。明日、返して」
「えっ、いいの?」
「うん。明日も会うんだし」
何でもないことのように言って、彼は改札を通っていった。
私はその後ろ姿を見送りながら、首元に残るぬくもりを確かめた。
明日も会える。
明日も一緒に帰れるかもしれない。
そう思うだけで、明日が待ち遠しくなった。
帰宅してからも、私はしばらくマフラーを手放せなかった。
鏡の前で首に巻き直してみる。
少し大きくて、私には似合わない気もした。
それでも、彼が巻いてくれたマフラーだと思うと、なんだか特別に見えた。
窓の外では、冷たい風が木々を揺らしている。
秋は、もうすぐ終わるのだろう。
やがて冬が来て、街は白い息とイルミネーションで彩られる。
そのときも、彼の隣を歩いていたい。
寒いね、と笑い合って。
手が冷たいね、と言いながら。
時々、肩が触れるくらいの距離で。
私はマフラーの端をそっと握りしめた。
明日、彼に会ったら伝えよう。
貸してくれてありがとう、と。
それから、もう一つ。
君と一緒に帰る時間が、私の一日の中でいちばん好きだということを。
まだ言えないかもしれない。
でも、いつかきっと。
マフラーを二人で巻いて歩く、この帰り道のように。
君のぬくもりが、冬まで続きますように。
そして、冬が過ぎても、その先の季節も。
君の隣で笑っていられますように。
コメント
1件
うわあ、じんわりしました……! マフラーを半分こする距離感、まだ付き合って二週間だからこその照れとときめきが本当に瑞々しくて。悠真くんの「明日も会うんだし」って何でもないように言うのが、もう格好良すぎて胸がぎゅっとなりました。 それに「冬になっても春になっても」って続ける言葉、短歌の約束みたいで素敵です。秋の夕焼けと、彼の香りが染みついたマフラー、ずっと覚えていたくなるお話でした🌷