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春。
桜が校門を彩る季節。
かつて生徒として通った名門高校に、二人は並んで立っていた。
「……変わってないね」
ミユが校舎を見上げる。
「でも……僕たちは、変わりました」
コビーはそう言って、胸元の教員証を握る。
――コビー・教科:英語
――ミユ・教科:音楽
フランスでの三年間。
言葉と音楽に必死で食らいつき、
喧嘩も、すれ違いも、笑い合った日々。
それらすべてが、今日に繋がっていた
職員室。
「えっ……ミユ先生!?
あの、生徒会長の!?」
ざわつく空気。
「それに……コビー先生?
副会長だったあの……?」
ミユは少し困ったように微笑み、
コビーは背筋を伸ばして頭を下げる。
「本日から音楽を担当します、ミユです」
「英語担当のコビーです。
よろしくお願いします」
その姿に、かつての教師たちは目を細めた。
「……成長したな」
「本当に」
放課後。
誰もいない生徒会室。
教師になっても、鍵は変わらなかった。
「ここ、まだ使えるんですね」
コビーが懐かしそうに言う。
「ええ。
一番大変で、一番楽しかった場所」
二人は並んで座る。
「……フランス、行ってよかったですね」
「ええ」
ミユは頷く。
「あなたが一緒に来てくれたから」
コビーは少し照れて、視線を逸らした。
……あのとき、泣きながら“喜んで”って言った自分、
今思うと恥ずかしいです」
「私は、あれが好きよ」
ミユは穏やかに言う。
「あなたらしくて」
沈黙。
夕陽が差し込む。
「……先生同士になっても」
コビーが、静かに続ける。
「僕は、ミユさんの一番近くにいたいです」
ミユは、微笑んで答えた。
「当然でしょ」
そう言って、そっと彼の手を握る。
「今度は、私たちが“教える側”。
でも――」
一拍。
「恋だけは、相変わらず難題ね」
コビーは小さく笑った。
「一生、未解決でもいいです」
夕暮れの校舎で、
かつての生徒会長と副会長は、
今は教師として並び立つ。
物語は終わらない。
立場が変わっただけ。