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「ただいまー」
来斗を連れてあかりが実家に帰ると、
「おかえりーっ」
と日向が走って出てきた。
「あれっ?
まだ寝てなかったの?」
後から、幾夫が出てきて、
「いやー、青葉くんに遊んでもらったら、テンション高くなって寝なくなっちゃって」
と言う。
「えっ?
青葉くんって、社長っ?」
と来斗が驚き、
「なにしに、うちに来たのっ?」
とあかりも驚いた。
「いやいや、たまたま、お前の店の前で会ってね。
日向に引きづられるまま、うちに来て遊んでくれてたんだ。
なんか青葉くん、ボロボロになって帰っていったよ。
ふだん相手しないから、加減がきかなくて、全力で子どもの相手して燃え尽きる休日のお父さんにみたいになってた」
そう言って、幾夫は笑う。
いや……ちょっと笑えない例えなんだけど、お父さん。
「あのねー、おねーちゃんっ。
おにーちゃんが魔法の呪文教えてくれたよっ」
日向がセミのようにあかりの脚に飛びつきながら言う。
「へー、なんて?」
と笑いながら抱き上げると、
「342117067~っ!」
と日向は忍者のように指を重ね合わせて言う。
「……何故、円周率」
しかも、結構、後ろの方の数字……と呟くと、
「わかるお前がすげえよ」
と来斗が苦笑いする。
そのとき、ガラガラ玄関のガラス戸が開いた。
「すみません、さっき万年筆……」
青葉が立っていた。
「店長あかり、もう戻ったのか」
とちょっと後退りながら青葉は言う。
今日はストーカー鞠宮だったり、店長あかりだったり、忙しいな……。
「ああ、ちょっと待って。
見てこよう」
と幾夫はニコニコしながら、奥へと引っ込む。
「見てこよう」
と幾夫の真似をして言いながら、日向は幾夫についていった。
なにが恥ずかしいのか、青葉は少し照れたような顔で咳払いすると、あかりと来斗に訊いてきた。
「お前たち、今日は誰かと食事に行ってたんだろ?」
「あっ、はいっ」
と突然の社長の登場に緊張しながら、来斗が答える。
「社長の従兄の大吾さんに何故だかご飯おごってもらって」
「大吾に……?
お前たち、あいつと知り合いだったのか?」
「はあ、大吾さん、私の友だちのアパートの下で工事してたんですよ。
それでです」
と言うあかりに、
「待て」
と青葉が言った。
「あいつ、なんで、工事なんてしてんだ?
ていうか、アパートの下で工事してたからって、お前らにご飯おごるのおかしいだろう」
「はい、でも、とてもいい方でした」
と筋の通らない受け答えを笑顔でハキハキ言ったのは、来斗だった。
恋がはじまる予感にウキウキしている彼は、細かいことは気にならないようだ。
「大吾とお前たちで行ったのか?」
「カンナさんもいらっしゃいました」
と来斗がすぐ答える。
「カンナまで……。
あいつ、無愛想だろう?」
「いいえ、とても目の奥の表情が豊かで」
今日会ったばかりなのに、目の奥の表情まで読めたのかっ、と青葉と二人、驚愕する。
「食事のあと、二人で波止場を歩いたんですけど――」
「カンナと二人で?
お前、カンナと話合うのか?」
「はい。
カンナさん、意外と饒舌で。
根掘り葉掘り、僕のことや、家族のこと、今までの女性関係など訊いてこられました」
と来斗は笑顔で言う。
あかりたちは想像してみた。
人気のない夜の波止場で。
この見るからに人の良さそうな来斗に、無表情なカンナが矢継ぎ早に質問を浴びせかけているところを。
……秘密警察の尋問にしか見えない。
だが、この青年はとても嬉しそうだから、いいのだろう――。
姉は客観的に弟を見ながら、そう思う。
社長も忠実な犬のような部下を見ながら、そう思う。
「あったよー、まんねんひつー」
と日向が立派な万年筆をフリフリやってくる。
「おー、日向。
ありがとなー」
「ありがとうなら、いもむしはたちーっ」
「……それはなんの呪文ですか」
「そこは呪文じゃない」
とどうやら日向に教えたらしい青葉に言われる。
日向、結構懐いてるな。
っていうか、社長、子ども嫌いだったみたいなのに。
やっぱり血が共鳴するのかな、とあかりは思っていた。