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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第二十六話 名前を呼ぶ
その翌日。
二人は、いつもより少し早い時間から話していた。
『今日、聞きたいことある』
『また?』
『うん』
『なに?』
少し間を置いて、相手が送ってきた。
『名前』
彼女は画面を見つめた。
本当の名前。
会った日に教えると決めていたもの。
『まだ秘密じゃなかった?』
『そうなんだけど』
『ん?』
『最近、会うのが近づいてきたから』
『それで?』
『先に知りたくなった』
彼女は少し笑った。
『ずるい』
『だめ?』
『だめ』
『即答(笑)』
『約束したでしょ』
『そうだった』
そこで話は終わるかと思った。
でも、彼女はふと思った。
『じゃあさ』
『うん』
『名前を知ったら、今までと何か変わるかな』
『変わると思う』
『やっぱり?』
『今まで名前で呼んだことないから』
確かにそうだった。
二人はずっと、ネット上の名前で呼び合ってきた。
それが当たり前だった。
本当の名前を知れば、
その人が少しだけ現実に近づく気がする。
『でも』
彼が続ける。
『名前を知ったからって、今までの時間が変わるわけじゃない』
彼女はその言葉を読んで、少し安心した。
『そうだね』
『だから、会った日に教える』
『うん』
しばらくして、彼女から質問した。
『そっちは?』
『なに?』
『自分の名前、好き?』
『考えたことない』
『じゃあ、嫌い?』
『それもない』
『なんか普通だね(笑)』
『そっちだって』
『私は好きだよ』
『へえ』
『名前って、自分で決められないじゃん』
『うん』
『だから、自分で好きになれたらいいなって思う』
彼は少し考えてから、
『いい考えだね』
と返した。
そのあと、二人は名前の由来について話した。
どうしてその名前になったのか。
誰が決めたのか。
小さい頃は好きだったか。
そんな話をしているうちに、彼女は気づいた。
相手の過去を、少しずつ知っている。
でも、まだ肝心なところは知らない。
それでも、急ぐ必要はないと思った。
『会ったら名前で呼んでみる?』
彼女が聞く。
『どうかな』
『恥ずかしい?』
『たぶん』
『私も』
『じゃあ無理だね(笑)』
『でも一回くらいやってみよう』
『分かった』
その約束だけで、なぜか二人とも少し緊張した。
そして夜が深くなった頃。
『じゃあ、今日は寝る』
『うん』
『また明日』
『また明日』
サイトを閉じる。
彼女はスマートフォンを
胸元に置いて、少しだけ笑った。
まだ本当の名前は知らない。
でも、その名前を呼ぶ日が近づいている。
一方、彼は机の上に置いた古い写真を見つめていた。
写真の裏には、昔の文字。
「次は、ちゃんと話そう」
「またね」
その二つの言葉を見ながら、彼はふと考えた。
もしかしたら。
自分が忘れているのは、
名前だけじゃないのかもしれない。
コメント
1件
いやもう、この回めちゃくちゃ良かった…!!「名前を知ったら今までと変わるか」って問いかけに「変わる、今まで名前で呼んだことないから」って返すのが刺さりすぎた。約束を守ろうとする距離感と、それでも知りたい気持ちのバランスがリアルで、会話のリズムが自然に心に沁みた。最後の「自分が忘れてるのは名前だけじゃないかも」、伏線っぽくて震える。次が待ちきれない🔥