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「もういいじゃない。責めるのは私だけ。一矢くんを責めていいのは私だけってば」
当時、どれだけ彼が言われていたのか分からない。
でも言い訳もせず、祖父の言葉にだた謝る彼を見ていると胸が痛む。
おじいちゃんの病院の経営が苦しくて手を差し伸べてくれていて、その原因の人の嫌味を言われたんじゃあ、彼の立場がない。
「おやおや、尻にしかれるねえ、一矢くん」
「そうですね。もっと敷かれてもいいです、彼女になら」
「いやあ。熱い熱い。アイス頼んじゃおうかな」
「リゾット食べてからにして」
それからお爺ちゃんと一矢くんは、先週あったお笑い芸人の番組について盛り上がりだした。
二人が見ているなんて想像できないような、深夜のお笑い番組なのに。
「……」
頼んだ珈琲のストローで、グラスの底を啜った。
氷が少しずつ解けてストローに吸い込まれていく。
それを観察しながら、色々と二人の関係が怪しいことに気づいた。
「もしかして、……おじいちゃんと一矢くんって結構前から交流があるの?」
お互いお笑い番組が好きだと知っているほど、好みを熟知しているのはおかしい。
なにかのきっかけでお笑いと言う共通点から仲良くなり、一矢くんは祖父の経営難を知った、とか?
「意気投合したのは、改装した時だよ」
「ふうん」
「なんだ? どっちにヤキモチ焼いたんだ?」
にやにや笑うお爺ちゃんを睨みつつ、スパゲティをフォークにくるくる巻いて口の中に詰め込んだ。
おじいちゃんは始終にこにこで、一矢くんも笑顔で食事をしていたんだけど、……何かひっかかる。
二人の親密な様子もだし、おじいちゃんがお土産を連絡なしで来るのも、なんだろう。
「お、ハニーから電話だ。失礼」
しかもおばあちゃんとの電話ならわざわざ席を立たなくても、いいのに。
「なあんか、怪しいね」
「何が?」
「おじいちゃんと一矢くん」
「そお?」
珈琲を口元に持って行きながら目を伏せる。その仕草もなんだか全て怪しく見える。
「私さ、男性を今まで視界に入れてこなかったから、視界に入るようになった一矢くんを観察できるようになったんだけど、取り繕う時に伏し目がちになって口を隠すよねえ」
「……」
「おじいちゃんと交流はいつから?」
食べ終わった私は、運ばれてきた食事を前に、動きを止めた一矢君を見る。
「やましいことがあるなら隠してもいいけど。私には関係ないしね。別にいいよ。人って言いたくないこととか本性はばれたくないもんね。うん」
自分でも厭味ったらしいなあって思うけど、しょうがないじゃない。
私だけ隠してること、沢山ありそうな勘があったんだもの。
「そこまで観察されるのは悪い気がしないけど。じゃあちゃんと俺の気持ちもわかってくれてるのかな」
「今ははぐらかさないで」
誤魔化そうとするあたり益々怪しい。
私がにこにこ笑って、ただただ無言でパスタを食べると観念したように息を吐く。
「俺が父の跡を継いで、社長になった時だよ。お世話になっている人たちへ挨拶回りして――会食して――ってとき」
「ほお」
じゃあ隠す必要はないんじゃないの。
「祖父の誕生日パーティーの時も会ってるし、なんなら華怜とうちの妹以外は、交流あるよ」
「そう。教えてくれてありがとう」
交流があったことを秘密にしていた理由は分からないけどじゃあ、母とも交流があるということ。
母は、借金の肩代わりをしてくれたってだけで急に一矢さんと改装の時に話が持ち上がったようは口ぶりだったのに。
「すまんすまん。ハニーが近くの和菓子屋の豆大福が食べたいらしくってそちらにもいかなければいけなくなった」
お爺ちゃんは、にこやかな私と黙々と食事をする一矢さんを見て、楽しそう。
「お一人で大丈夫ですか」
「もちろん。日本なんて儂の庭のようなものだ」
おじいちゃんデザートにチョコレートパフェも食べて帰っていった。
タクシーを二人で見送り、車が完全にいなくなってから彼は時計を確認した。
「悪い。急いで帰らなきゃギリギリだ」
「……だから、おじいちゃんの呼び出しに無理しなくていいって」
「無理じゃなくて、俺がしたかったってこと。じゃあ、今日は遅くなる」
呼んでいたタクシーがもう一台、お店の前で止まってくれた。
私は歩いて帰れる範囲なので、乗り込む彼に手を振る。
「じゃあ、私の方が帰るの早いかな。食事は?」
「うーん。華怜のハンバーグが食べたいかな」
「了解です」
意外と子どもっぽいメニューが好きだよね。助かっているけど。
ハンバーグなら、家にひき肉とパン粉があった気がする。
もしかして家にある食材の中から答えてくれたのかな。
くるんと振り返ると、コンビニの袋を持った辻さんと目が合ってしまった。
口元に手をおいて、笑いを必死に隠している。
「……新婚ぽいね」
「う……」
数週間会ってないのに、髪にとれかけてたパーマがしっかり掛かり、青みがかった黒になっている。
「しかも俺を見て怯えていない」
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砂原 紗藍
#再会