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「いらっしゃいませ」
「えっ!」
あまりの驚きに声が出てしまった。
「お久しぶりです」
「理仁君じゃない! まあ、久しぶりね~。お帰りなさい」
お母さんの驚いた声が「灯り」の店内に響く。
私も同じだった。
「理仁さん、日本に戻ってたんですか?」
その質問にニコッと微笑んでうなづく理仁さんは、相変わらずキラキラオーラを体中にまとっていた。
カウンターに座り、食事をする理仁さん。
あっという間に店中が華やかな雰囲気に変わった。
話を聞くと、1週間前に戻ったらしい。約3年ぶりに、ここに立ち寄ってくれたことが嬉しかった。
だけど、私の心は少し複雑。
結仁が生まれてしばらくしてから、父親が誰なのかを聞かされた。もちろん、私もお母さんも、理仁さんだとわかっていたけど。
双葉は、もし理仁さんが戻っても、結仁のことは絶対に言わないでほしいと懇願した。今、せっかく結仁の父親が目の前にいるのに、何もできないことが悲しかった。
常磐社長から理仁さんが結婚したって話は聞かない。だけど、正直、3年も経っていれば他の女性と付き合っている可能性がある。こんなスーパーイケメンに彼女がいないはずがないだろうから。
そうなると、双葉が傷つきそうで……
でも、思い切って聞きたい。
今の理仁さんの状況と気持ちを。
あ~モヤモヤする。
「理仁君、向こうではどんな食事をしてたの?」
「忙しくて自炊がなかなかできなくて……」
「あら、美味しいご飯を作ってくれる人はいたんじゃないの?」
「いません。ずっと1人で仕事漬けの毎日で。香里さんの料理、向こうでも食べたかったです。父が自慢してました、本当によくお世話になっているようでありがとうございます」
うわぁ、お母さん、ナイスアシスト。
でも、理仁さん、彼女いないなんて本当?
「いえいえ。常磐社長にはご贔屓にしてもらって感謝してますよ。理仁君も帰ってきたならいつでも寄ってちょうだいね」
「ぜひ。楽しみが増えました」
そんなやり取りをしてるうち、理仁さんは食事を終えた。
どうしよう、理仁さんが帰ってしまう。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「それは良かったわ。そうだ、朱里。理仁君を外まで送ってあげたら?」
その言葉にドキッとしたけど、お母さんも私と同じことを考えてるんだと察した。
「あっ、うん。じゃあ、ちょっと出るね」
理仁さんもすんなりそれを受け入れ、私達は2人で外に出た。
「ごめんなさい、理仁さん。今日は寄ってくれてありがとうございました。あの……」
「とても美味しかった。朱里ちゃん、質問、俺からしてもいい?」
「えっ、あ、はい、もちろんです」
心臓が急にドキドキ鳴り出した。
奥歯を噛み締め、双葉の名前が出てくることを願った。
「……松雪さん、いや、双葉ちゃんは元気?」
「あ、元気……ですよ。はい」
やった、理仁さん、双葉のこと気にしてる!
「それなら良かった。実は、双葉ちゃんとは……」
「あっ、知ってます。スイミングスクールやリゾートホテルで理仁さんと会ったって」
「そっか、双葉から聞いてるんだ」
「はい、聞いてます。有難いことに、私とお母さんは双葉に信頼してもらってるんで」
「だったら話は早い。双葉は今どうしてる? 向こうに行ってしばらくは電話してたけど、1度も折り返しが無くて、そのうち俺も連絡しなくなったんだ。ずっと、体調を悪くしてるんじゃないかと、心配していた……」
切ない表情にグッとくる。愛情はなくても、シンプルにすごくカッコいいと思えた。
「双葉、理仁さんが心配してるって言ったら喜ぶと思いますよ」
「そうかな? 俺はすっかり無視されて嫌われたかと」
「嫌うなんて、そんなことあるわけないですよ。だけど、双葉も色々あって、理仁さんに連絡できなかったんです」
「色々?」
「……」
言いたい、言ってしまいたい。
理仁さんに双葉の頑張ってきたことを伝えたいよ。
「朱里ちゃん、何か知ってるなら話して」
「……」
「頼む、知りたいんだ」