「……本当は私から言うことじゃないかも知れないです。だけど……」
理仁さんが息を飲む。
私、双葉にはいつも励まされてきた。大切な大切な家族みたいな双葉の幸せを、私はずっと願ってきたんだ。
だったら今言わなくてどうするの?
「理仁さん、双葉のこと守ってくれますか?」
「えっ」
「理仁さんは、双葉のことが好きなんですよね?」
「……ああ」
「だったら双葉を幸せにしてあげてください。双葉には、理仁さんとの子どもがいます。あの後、1人で出産して育ててるんです」
「えっ?」
「嘘じゃないですよ、本当の話です」
「そんな……そんなこと……」
理仁さんは、その美しい顔に驚きの表情を浮かべ、言葉を失った。
「双葉は、未来の常磐グループを背負うあなたに迷惑をかけたくないって、自分なんかじゃ釣り合わないって……たった1人で子育てを頑張ってます。一生パパがいないけど、自分が父親の分も頑張るんだって。仕事もしながら本当に健気に……」
「……」
「理仁さんを想ってるはずなのに、あの子、あなたのために身を引いて。1日も早くお金を貯めて、大切な子どもと2人で暮らせるようにって、見ていられないくらい頑張ってて。今は一緒に住んでるいとこも子育てを手伝ってくれたり、私やお母さんも双葉を応援してるけど、本当はつらくて泣きたい時もあると思います」
「そんな……俺は何も知らずに……俺は……最低だ」
「理仁さんは悪くないです。今からでも遅くないですから、双葉のこと、どうかよろしくお願いします」
私は祈るような気持ちで深々と頭を下げた。
「……ああ、わかった。朱里ちゃん、話してくれて本当にありがとう。今日、ここに来て良かった」
「理仁さん、双葉のことを聞きたくて来たんですよね?」
「えっ……」
「わかりますよ、その気持ち。私こそ話せて良かったです。でも、勝手に話してしまったから、双葉に怒られちゃいますね」
私の中にあった大きな秘密。
今、ようやく理仁さんに打ち明けることができた。たとえ双葉に責められたとしても悔いはない。
「朱里ちゃんには感謝してる。俺は、必ず双葉を幸せにする。俺達の……子どもも一緒に」
「理仁さん……。嬉しいです。その覚悟ができてるなら、私もお母さんも安心です。あのっ、双葉がいつもよく行く公園があるんですけど、そこに行けばきっと2人に会えると思いますよ」
理仁さんは笑顔でうなづいた。
その笑顔を見て確信した、これから双葉と結仁は必ず幸せになれるって。
理仁さんの双葉への想いは、たとえ遠く離れていても、ずっとずっと消えることはなかった。
まさに純愛――
何だか私も恋をしたくなってきた。
いつか、2人に負けないくらい素敵な恋ができる日を夢みて、今日からまた色んなことを頑張っていきたい。そんな清々しい思いが私の中に吹き込んできた。
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