第7話
あらすじ
若井が遭遇した意味不明な2人からの電話。
仕方なく藤澤の自宅に向かうのだが…
7-1 〜人の心は九分十分〜
若井はクローゼットからコートを取り出すと、それを羽織った。
一体何がなんなのか、さっぱり分からない。
若井はスマホアプリでタクシーを呼び出す。
到着まで5分程度、掛かるようだ。
若井はもう一度、状況を整理した。
どうやら、大森は何かに怒っているようだった。
しかし、藤澤は焦っているのか、怒っているのか掴み切れなかった。
だが 大森が話してる途中で、通話を切るくらいだから怒ってるのかもしれない。
喧嘩…?
あの2人が…?
どちらも冷静タイプというか、怒っても怒って見えない2人だ。
少なくとも、2人が怒鳴り合うような喧嘩をする所など見たことはない。
思考を回していると、スマホにタクシー到着の通知が来た。
若井は立ち上がると、部屋を出る。
やはり変だ。
一体、何があったんだろう。
若井は足を早めた。
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ーー
藤澤はリビングのソファに座って、保冷剤でおでこを冷やしていた。
大森は寝室に籠っていて出てこない。
「はぁ…」
藤澤は心を落ち着かせようと、ため息をつく。
今日は色んな事がありすぎた。
気がついたら勢いで、若井も呼んでしまった。
しかし、どこまで話していいんだろうか。
衝動的だったと言えども 大森のやった事は一歩、 間違えば全部壊れる物だった。
さすがに、藤澤一人では抱え切れないかもしれない。
しかし、相談するには問題がいくつかある。
まず一つ目に、大森と付き合っている事を若井に話していない。
付き合ってすぐに 話そうと提案したが、大森が延長させた。
今は大切な時期だからと、恋愛事をバンドに入れたくないと。
実際、その通りだった。
それくらい、あの時のミセスは何かを作ることに必死だった。
だが、今はそれも少し落ち着いてきた。
打ち明けるには丁度いいタイミングかもしれない。
そう考えると、もう一つの問題の方が大きいかもしれない。
大森の前の彼氏だ。
おそらく藤澤の直感が正しければ、前の彼氏は若井なんじゃないかと思っている。
その場合、若井が気の毒すぎる。
突然、関係を打ち明けて さらに元彼の恋愛相談まで上乗せするわけだ。
どうしょうか…
藤澤がしばらく考えていると、チャイムが鳴った。
藤澤は立ち上がったが、自分がまだ上の服を来ていないことに気がつく。
「あ、」
自分で思っているよりにも、動揺しているのかもしれない。
藤澤はとりあえず、インターホンを確認しに向かう。
モニターには若井が写っている。
正直、ほっとする自分がいた。
通話ボタンを押すと話す。
「若井…ごめん夜中に」
若井は寒そうにしながらインターホン越しに答える。
「おつかれ」
「全然いいよ」
「とりあえず開けるから」
藤澤は、そういうとインターホンを切る。
せめて、上着を来てから迎えようと ばたばた廊下を走る。
寝室の扉をガラッと扉を開くと、床に置かれたままの上着を取る。
それを適当に着ると、この部屋にまだ籠っている 大森を探した。
部屋を見渡すと、ベットが膨らんでいる。
おそらく、ここだろう。
「…もとき?」
藤澤は布団を軽く叩く。
「若井来たよ」
大森は答えない。
「…」
藤澤はしばらく待ったが返事がないので、仕方なく立ち上がる。
若井を迎えに行こうと、何歩か歩くと上着をぐっと掴まれた。
驚いて、藤澤は振り返る。
大森が藤澤の服を掴んでいる。
「…」
「一緒にいく?」
藤澤が聞くと、大森は顔振る。
「…ごめん」
「まだ涼ちゃんに言ってないことある」
「…え?」
藤澤は頭を回転させる。
なんだろう。
話を聞きたいが、若井も早く迎えに行ってあげたい。
「…若井いると話せない?」
藤澤はできるだけ優しく聞く。
大森はちらっと、藤澤を見ると重そうに口を開く。
「若井と…」
大森が一旦、そういうと俯く。
藤澤は ざわざわとしながら、その様子を見つめていた。
もしかして、元彼の事を打ち明けようとしてくれているのかもしれない。
「あのね…」
大森が足元を見つめる。
「若井とまだ付き合ってる」
藤澤は一瞬、周りの音が止まったように感じた。
それぐらいの衝撃だ。
「…え?」
藤澤が聞き直す。
「ごめん」
大森は涙声で答えるだけだ。
「は…?」
「え?」
藤澤は頭の中が疑問で埋め尽くされる。
勝手に呼吸が早くなる。
「だ、別れたって…」
藤澤は何とか言葉を絞り出す。
「うん…言った」
「ごめん」
大森が小さな声で答える。
「ごめんって…」
藤澤は文字通り、頭を抱えた。
その時、後ろから物音がした。
藤澤が振り返ると、扉がゆっくりと開いた。
若井が様子を伺うように、部屋を覗いた。
藤澤の心が飛び上がった。
「わ、若井!!」
「なんで!?」
「え…」
「なんか遅いから」
若井が、さらっと答える。
「外めっちゃ寒いし、鍵開けて入っちゃった」
そう言いながら、部屋を見渡す。
「一応インターホンも鳴らしたんだけど」
寝室の中を、すたすたと何歩か歩く。
若井はベットを見ると、バサッと布団を剥がした。
藤澤は緊張で、身体を強ばらせる。
「んで?」
若井が2人を見ると口角だけ上げて笑う。
「この部屋で何してたの?」
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7-2 〜薄氷の上〜
若井はこの部屋で何をしていたか、ある程度察したようだ。
藤澤は分かりやすく動揺した。
意味の無い言葉を吐く。
「あ、…あ、若井」
若井はじっと藤澤を見ると、首元に目線がいく。
そこには、大森が噛んで付けた歯型の跡があった。
若井は そこを凝視すると、ふっと息を吐くように笑った。
「うぜー」
若井が怒りの籠った声で言うと頭をかいた。
「…」
藤澤も大森も、もう一言も話せない。
若井は ぱっと顔を上げると、すたすたと藤澤に歩み寄る。
藤澤は殴られてもおかしくないと、身体に力が入る。
若井が近くに来ると、右手を頬に伸ばす。
藤澤は叩かれると思いながらも、若井の瞳を見つめ続けた。
若井の指が頬に触れると、頬にある 引っ掻き傷を撫でる。
これも、大森が付けた物だ。
藤澤の身体が、びくっと跳ねる。
「すごっ」
「激しくやったね」
若井の呆れたような低い声が心に刺さる。
違う、裏切ろうとした訳じゃないんだ。
藤澤の 瞳が、みるみると涙目になっていく。
若井は その顔を見ると苦虫を潰したような、なんとも言えない顔をした。
「泣くな」
若井が、ズバッと言う。
「ごめんなさい…」
藤澤は、どうにか涙が零れないように瞬きをする。
若井はため息をつくと、視線を藤澤から大森に移動させていく。
大森の身体が強ばる。
若井が、大森の方に歩いていく。
大森は、ぱっと目線を下げて足元を見つめる。
「元貴」
「これ、どういう状況?」
若井が淡々と質問する。
「…」
大森は地面を見つめたまま、口を開かない。
若井は、まるで子供と話すように膝を折って座る。
そして、大森の表情を見上げて観察した。
「なぁ、」
「聞いてる?」
大森は少し息を吐くと、若井の瞳を見つめる。
「お察しの通り」
「涼ちゃんとやった後だけど」
大森の言葉に2人とも一瞬、固まった。
若井が弾かれたように、立ち上がると大森の頬を叩いた。
乾いた音が部屋に響く。
「お前、浮気見られて よくその態度出来んな」
大森は頬を抑えながら、鋭い目付きで若井を睨んで言い放つ。
「俺たち付き合ってたっけ」
「は?」
若井は ぐっと大森の胸ぐらを掴むと、息がかかるほど顔を寄せる。
「何、寝ぼけたこと言ってんの?」
大森も至近距離で若井を睨む。
「キスもハグもしてくれないじゃん」
「それって付き合ってんの?」
「それは元貴が」
「キスぐらいじゃ発作は出ないって言ってんじゃん!!」
大森が重ねるように言う。
「…」
若井の瞳が泳ぐ。
「どうせ怖いんでしょ」
「俺に触れるのが」
大森は言葉を続ける。
「そのくせに、いつか治るといいねって」
「何様?」
「何もしてくれないのに…、」
「1人で勝手に治せって?」
「だったら、浮気してもいいのかよ」
若井が大森の言葉を遮る。
「元貴がそう思ってること」
「1度でも俺に伝えてくれたことある?」
大森が唇をぎゅっと、結ぶ。
若井が続けて話す。
「怖いのはどっちだよ」
若井はそういうと、胸ぐらの手をぱっと離す。
「もういいや」
「くだらねー」
若井は自分の鞄を拾うと寝室から出ていく。
「まって!!」
藤澤が、後を追いかける。
「…」
若井が無言で藤澤を睨みつける。
藤澤は、涙目でそっと若井の腕を掴む。
「僕…」
「分かってるよ」
若井が被せて言う。
「元貴に隠されてたんでしょ」
藤澤は腕を掴んだまま頷く。
「でも、だから許せるって訳でもないから」
「え…」
藤澤は、さらに若井の腕を強く掴む。
「ごめんなさい」
「…涼ちゃん」
「そういう事じゃ…」
若井が困ったように頭を搔く。
「なんで!?」
藤澤が突然叫ぶので、若井の肩が飛び跳ねる。
「僕!だって…!!」
「どうしろって!?」
「ひどいよ!!」
藤澤が半狂乱になりながら叫ぶ。
若井は慌てて、藤澤を落ち着かせる。
「涼ちゃん」
「分かった、落ち着いて」
しかし、藤澤は嗚咽を上げながら座り込んでしまう。
「若井も元貴も嫌い!!」
「大嫌い!!」
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6-3 〜覆水盆に返らず〜
若井は泣きじゃくる藤澤を見て、困り果てた。
確かに藤澤は何も悪くない。
しかし、許せないものは許せない。
寝室から藤澤の様子を伺っていた大森が、ゆっくりと歩いてくる。
藤澤の横に同じように座ると、藤澤の頭を撫でる。
「ごめんね」
「涼ちゃん」
藤澤は顔を上げると ぼろぼろと涙を零しながら、ずずっと鼻を啜る。
若井はティッシュを取って何枚か渡した。
「はい、鼻かみな」
「ありがと…」
藤澤が声を震わせながらお礼を言うと、受け取って鼻をかむ。
「…」
「元貴」
「俺にも言うことあるんじゃない?」
若井も同じように座ると、大森に言う。
「ない」
大森は、ぴっしゃりと言う。
若井が舌打ちをする。
「本当、お前…」
若井は大森の肩をぐっと掴む。
わざと、強めに掴んでいるんだろう。
大森の肩に痛みが走る。
「い…」
「どこまでやった?」
若井が大森の顔を覗き込む。
「…さぁ」
大森が首を傾げる。
若井は肩を掴む手に、さらに力を込める。
「なにそれ」
「舐めてんの?」
大森は痛みに顔を歪めると若井を睨む。
「今更、焦ってんの?」
「昨日までもっと余裕そうだったけど 」
「は、焦ってる?」
「どう見たらそう見えんだよ」
若井が言い返すと藤澤が、ぱっと言う。
「最後までやったよ」
「…」
2人とも固まって藤澤を見る。
「どっちから言い出した?」
若井が一瞬の沈黙の末に聞く。
「元貴」
「え、」
大森が愕然とした目で藤澤を見る。
「いや…」
藤澤の腕を両手で、ぎゅっと掴む。
「俺がって言うよりは2人からでしょ」
「ううん」
藤澤は顔を振る。
「元々は若井と付き合ってたけど上手くいかなくて別れて?」
「んで、俺とはそうなりたくないから最後までやりたいって」
「…」
大森は、何も言えずに俯く。
「泣き落しかよ、汚ねー」
若井が吐き捨てるように言う。
「そんなこと言われたら信じちゃうよね」
藤澤も若井に便乗するように言う。
大森は泣きそうになりながら叫ぶ。
「全部が嘘じゃないもん!!」
しかし、藤澤は大森を見下ろしながら冷たく言う。
「いや…ああいう時に嘘ってついちゃ駄目でしょ」
「そ、うだけど…」
大森は頭を回転させる。
まずい、このままだと自分だけが悪いことになる。
「だって…若井が」
「また泣き落し?」
藤澤が言葉を遮る。
大森は口を閉じた。
大森はやっと、2人の顔を見る。
藤澤も若井も怒っているような、呆れているような顔で大森の次の行動を待っている。
大森は処刑台に上がるような気分になった。
あれ、これ詰んでるのか
本当に許されないかもしれない。
「ちがう…」
大森は首を振る。
「僕悪くない」
どうしよう。
何を失うんだろう。
全部、失うかもしれない。
1人になっちゃうかもしれない。
大森は藤澤の腕を強く引っ張る。
「涼ちゃんなら分かってくれるよね」
「信じてくれるよね!!」
藤澤が困惑した顔で言う。
「何を…?」
「僕が悪くないって!!」
大森は、ほぼ叫ぶ。
「いや…」
藤澤は頭を搔くと、手を使って順々と状況の整理をする。
「そもそも、今回のこれって2人の問題なのね」
「若井と元貴の問題 でしょ」
「そうだよね?」
藤澤は、若井と大森を交互に見る。
若井は、こくっと頷く。
「それに俺は巻き込まれたし、原因は浮気した元貴だし」
「元貴どこに悪くない要素があんの?」
いい終わらないうちに、大森の瞳にみるみると涙が溜まっていく。
こんな状況でも大森の涙に、藤澤の心は傷んだ。
「お願い」
大森が震える声で藤澤に縋る。
「謝るから…」
「捨てないで」
「…」
藤澤は黙って、それを見下ろす。
大森は土下座のように、うずくまって言う。
「なんでもします」
「お願いします」
藤澤は、しゃがむと大森の手を掴みあげる。
「う、」
大森が呻きながら藤澤を見つめる。
「じゃあ、こっち来て」
藤澤は、そういうと大森の手を引っ張って運ぶ。
ベット横まで連れていくと、押し倒した。
「え、」
若井が驚きの声を上げる。
藤澤は大森の顔を覗き込むと言う。
「じゃあ言葉通り」
「何でもしてよ」
コメント
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やばい、テスト勉強期間で見るの遅くなった、、、((( 元カレって誰なのかなぁって思ってたら、ひろぱかぁ、、天才ですか???
遅くなってしまった… ぉお、!元彼はやっぱ若さんだったか、 だとしても最後は斜め上の展開になった! やっぱ好きですわ、💘💘💘
めっちゃ斜め上の展開きた…!! す、好きです、、、