寒さで目覚めると腕の中に及川は居らず
夜中とはいえ曇りで月明かりすらない部屋は
酷く濃い闇に包まれていた
「…及川?」
俺の声に反応したのか部屋の隅の方で
衣擦れ音と何かプラスチックのようなものが
音をたてた
及川からの返事は無い。
体を起こし音のした方へ進む
途中でカサッと何かが自身の足に
当たったのがわかった
また衣擦れの音が今度はハッキリと
目先から聞こえた
及川と声をかけどうしたと問う
またも及川からの返答は無かった。
暗闇に目が慣れてその理由が分かった。
目の前には予想通り及川がいた
ただ口に血が滲み、手には大量の 錠剤
持ちきれなかったのか膝や周りにも
錠剤の包装シートであろうプラスチックが
落ちていた
及川の表情は 怯え 恐怖 絶望等の色に
染まりきっていて
身体は小さく震え呼吸が早かった
俺より大きいはずの身体がとても脆く見えた
極力小さく少し強めに
少し貰うな?とだけ言って及川の手から
自分の手へ錠剤を移し少し離れた床へ置く
手を重ねて背中をゆっくりとさする
呼吸が安定してくると
自分の出せる中で1番優しめの声で
どうしたかとゆっくり表情をみて問う
1度自殺未遂をした者はその後自殺への
踏切が初めの者より早くなる事があると
何処かで聞いたことがあった
病院で貰った薬と言えど一度に大量摂取
すると薬も毒となる
表情からしてコイツは分かっていたのだろう
及「い……ちゃ、」
岩「ん?」
及「おれ、だめ、だ。あたま。
ぐるぐるしたらおれ、おかしくなる」
岩「…そーか。ダメじゃねぇよ」
及川の顔に手を伸ばすと濡れていて
いっぱいいっぱいなんだろうなと思う
暗闇では、相手が手を差し伸べてくれねぇ
と涙の存在すら気付かれない
コイツは何時から独りで
暗闇の中にいたのだろう
一度落ち着いた気がしたがまた
おかしくなる いやだ 死にたいと繰り返す
薬に手を伸ばそうとする及川の腕を
握って及川の言う ぐるぐる をしのぐ
うぅ”、〜ぅ んー” いやだ 死にたい
死にたい消えたいと繰り返すようになっても
俺は直ぐに助ける術など知らず
ただ動く腕を握り及川の体に腕を回し摩る
ことしか出来なかった
また落ち着いて呼吸も整ってきた頃
俺は及川に
「*生きて欲しい*」と言った
酷い言葉だと思う
こんなにも何度も死にたいと繰り返す
こいつにこの地獄を続けろと言うのだから。
当然及川は苦痛・困惑といった顔をして
少し呼吸が荒くなって手を握る力が強くなる
それでも生きて欲しい 消えないで欲しい
一緒に居て欲しいと願う俺は最低だろう
…わかっ、た
…もうすこしだけ、がんばる。から
涙目になりながら苦しそうに及川が告げた
そのもうすこしが指す期間は俺にも。
本人にも分からないのだろう
それでもあと少しでも
生きてくれるということが嬉しかった
ここから見えない・分からない
タイムリミットがスタートした
コメント
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おいかわぁぉ😭死ぬなぁァいきろぉぉ!!!!!😭