「麻衣、おはよう!」
私に声を掛けてきたのは、友達の圭子だ。
そしてその隣には──。
クラスメイトの正行が、圭子と手を繋いでいる。
2人は恋人同士。
「宿題、やってきた?」という、圭子の顔はいたって普通。
ううん、私より地味な顔立ちだ。
それなのに、どうしてあんなイケメンが彼氏なの?
私なんか、高1なのに彼氏ができたことがない。
そりゃ、圭子はスタイルはいい。
でも、胸がちょっと大きいだけに過ぎない。
「圭子、週末は水族館に行こうぜ」
正行が微笑むだけで、私の胸は熱くなる。
最初に好きになったのは、私のほうなのに…。
「いいよ。じゃ、麻衣も行く?」
「私はいいよ…2人で行ってきて」
自分に自信がないから、告白なんてできなかった。
それなのに、正行が圭子に告るなんて。
どうして私じゃないの?
仲良く寄り添う2人の背中に、問いかける。
ねぇ、どうして?
*****
その夜、家の鏡と睨めっこをする。
笑ってみても、澄ましてみても、鏡の中の私は『普通』だった。
目は一重で、鼻は団子、歯並びも悪い。
愛嬌があるって子供の頃から、よく言われる。
でも私が欲しいのは、そんな言葉じゃない。
『可愛い』や『綺麗』だと言われたいんだ。
そうするには、やはり『整形』しかないけど…。
お金もないし、顔にメスを入れる勇気もなかった。
私はぽっちゃりしてるから、少しでも痩せれば顔つきも変わるかも…。
良いダイエット方法はないかとスマホで検索する。
「楽に痩せたいけど……ん?」
ある言葉が目に飛び込んできた。
『整形アプリ?』
「なにこれ?」
とりあえずサイトを開いてみる。
名前と写真を登録するらしい。
自分の顔を、アプリ内で整形できるのかも?
それならやってみようかと登録をし、自分の目元にタップしてみる。
『二重瞼にする』【300ポイント】
「ポイントがいるの?課金とか嫌だな」
呟きながら、ポイントの貯め方を探していると──。
『整形アプリは【善行】をするとポイントが貯まります』
「善行?良い行いってこと?」
なんだか意味が分からず、私はすぐにアプリを閉じた。
だってこんなことをしても、本当に整形できるわけじゃない。
「あぁ、綺麗になりたい」
心を込めて呟く。
もっと綺麗になれば、正行とだって…。
*****
「あのっ、落としましたよ?」
前を歩いていた女性がハンカチを落としたので、拾って渡してあげた。
すると、スマホが震えたんだ。
「あっ、整形アプリ。まだ削除してなかった」
『10ポイント貯まりました』
「えっ、貯まったの!?」
驚いて声を上げる。
ハンカチを拾ってあげたことが、善い行い、つまり善行というわけか。
300ポイント貯まったら、二重瞼になる。
あくまで、アプリ内の話だけれど…。
もともとゲーム好きな私は、頑張って300ポイントを貯めることにした。
お婆さんの荷物を持ってあげたり、迷子を保護したり…。
どれも10ポイントずつだけど、確実に貯まっていく。
「あっ、良かったら先にどうぞ」
レジで並んでいたお年寄りに、順番を譲る。
すると、スマホがポイントが貯まったことを知らせてくれた。
「あっ、300ポイント貯まった!」
すぐに『二重瞼にする』を選択すると、アプリ内の私の目が大きくなる。
二重瞼になると、こんなに印象が変わるんだ。
でも、あくまで仮想の話。
そう、それだけの話なんだ──。
*****
「えっ…!?」
朝、顔を洗って鏡を見た私は、思わず絶句する。
「うそ…でしょ?」
自分の目が、二重瞼になっていたからだ。
恐る恐る瞼に触れてみると、とても自然だった。
これって…現実に整形できるの?
『整形アプリ』は善行をすれば、本当に整形できるんだ!
善い行いをして綺麗になれるなんて、最高じゃない!
「麻衣、帰りにカラオケ行かない?」
「…うん」
「どうしたの?」
「圭子、なにか気づかない?」
「えっ、なに?」と、本当に気づいていない様子だ。
初めっから、二重瞼ということなんだ。
圭子と隣には、カッコいい正行が微笑んでいる。
もっと綺麗になりたい。
圭子より私のほうが、彼女に相応しいんだから。
もっともっと、綺麗になりたい!
コメント
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依存しちゃうよよよよ、こわいこわい
めっちゃ面白そう!!楽しみ!(ノシ`>∀<)ノシ バンバン