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蒼月
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グリルタ
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「――無駄だ、ハーフの虫ケラが。貴様の貧弱な魔力など、我が『重力障壁』の前に掠り傷すらつけられん!」
巨大な錬兵場の中心で、重力魔法教官ヴィクター・グラウザーが大口を叩いていた。
彼の周囲には、高密度の重力によって歪んだ空気の層――並の爆破魔法すら無効化する不可視の盾が張り巡らされている。
魔王候補生選抜機関、通称『魔王学園』の実技適性試験。
観覧席を埋め尽くす純血魔族の入学者たちは、嘲笑と冷ややかな視線を一人の少年に注いでいた。
クロード・ヴァルネ。
魔王候補生首席と目される天才・ルシアンと同じ日に生まれた双子の弟でありながら、魔力測定値は「測定不能」なほどスカスカ。人間と魔族の血を引く、学園史上初の「ハーフの落第生」だ。
「聞こえるか、クロード! 詠唱すら満足にできん半端者が、魔王の座を目指すなど笑止千万! お前の居場所などこの魔界のどこにも――」
ヴィクターが勝利を確信し、圧倒的な質量の重力波を練り上げようとした、その瞬間。
(……詠唱開始から発動まで、2.8秒。大雑把すぎて話にならない)
クロードは漆黒の外套の下で、静かに引き金を引いた。
**――バァンッ!**
魔界には存在しない、乾いた金属打撃音が響く。
人間界の闇商人ハンスから調達した、9mm口径の自動拳銃。
「ははっ! 鉄の小石を弾き飛ばした程度で――」
ヴィクターが哂う。弾丸は彼の『重力障壁』に接触した瞬間、強大な重力場に捉えられ、減速して軌道を逸れそうになった。魔族の常識に従えば、ここで弾頭は押し潰されて不発に終わる。
だが、クロードの狙いは「撃ち抜くこと」ではない。
「――『局所遅延(ディレイ)』」
クロードが呟いた瞬間、なけなしの魔力が胸の奥で爆ぜた。
彼が持つ唯一にして特異な異能――『時間魔法』。
弾丸が重力障壁の「最も歪みが強い結び目」に接触したコンマ01秒の瞬間だけ、弾頭の周囲の時間経過を極限まで遅延させる。
行き場を失った重力波のエネルギーが弾丸の一点に集中し、障壁の均衡が内部から崩壊を始めた。
「な……ッ!? 障壁が、分解して――」
ヴィクターの顔から余裕が消え去る。
時間の再始動(リスタート)。
圧搾された衝撃が一気に解放され、弾丸は障壁を貫通。そのままヴィクターの詠唱を支えていた右膝の皿を寸分違わず撃ち抜いた。
「ぐああぁッ!?」
巨体が崩れ落ち、練り上げられていた重力魔法が霧散する。
倒れ込んだ教官の首元に、冷たい硬質鋼の感触が突きつけられた。
いつの間にか肉薄していたクロードが、特殊合金ナイフの刃をヴィクターの頸動脈に当てていた。その左手には、ピンを抜いた化学爆薬(C4)の小型ブロックが握られている。
「……終わりだ、教官。魔法の詠唱を挟む余裕があるなら、胸襟の防具くらい補強しておくべきだったな」
静かで、起伏のない声。
静まり返る錬兵場。観覧席のエリート魔族たちは、何が起きたのか理解できず、開いた口が塞がらないでいた。大雑把な大火力しか評価できない彼らの眼には、クロードの動向が「一瞬で教官を制圧した怪奇現象」にしか見えなかったのだ。
観覧席の最前列。
氷のような冷徹な瞳でその光景を見下ろしていた純血のエリート――異母姉のセリス・フォン・ヴァルハイトは、美貌を苛立ちに歪めて不機嫌そうに呟く。
「……何なのよ、今の不快な戦い方は。詠唱も、気高さもない。泥泥した小細工で教官を叩きのめすなんて……ハーフの癖に、生意気な」
そう口にしながらも、セリスの背筋には未知の寒気が走っていた。
己の誇る絶対零度の氷結魔法すら、あの「鉛の弾丸」と「不気味な手際」の前に届くのかという、小さな疑念。
「――勝者、クロード・ヴァルネ!」
審判の狼狽した声が響き渡る。
ナイフを収め、外套の襟を立てたクロードは、一度も観覧席を振り返ることなく歩き出した。
(魔力至上主義の脳筋ども。せいぜいその大雑把な魔法に酔いしれていればいい)
目標はひとつ。
数ヶ月後に開催される、次世代の魔王を決める『魔道王闘技会』。
誰の命も奪わず、親しい者の血で手を入れることもせず。
人間が磨き上げた「冷徹な戦術」と「過酷な準備」だけで、この歪んだ魔界の頂点――そして、首席として君臨する双子の兄ルシアンを蹴落とす。
こうして、落第生クロードの「成り上がり」の物語は、魔王学園の門をくぐるところから始まった。
コメント
1件
おお、1話読ませていただきました! いきなり重力障壁を「時間魔法+銃+C4」で崩す冒頭、痺れましたね。魔力至上主義の魔界で、人間の戦術と異能の合わせ技で戦うクロードのスタイル、めちゃくちゃカッコいいです。ヴィクター教官の「詠唱2.8秒は大雑把すぎる」って分析も、暗殺者としての経験値が滲んでて好きです。セリスの「気高さがない」という言葉にハッとさせられつつ、背筋に寒気が走る描写も絶妙でした。続きが気になります🤍